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Practice06-2.日本の信条に立ち返れ

PracticeDX推進の実用書

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日本企業においても、社会課題解決に本気で取り組む先進企業が存在する。
SDGsと日本企業のDNAに通底する価値観を振り返りながら、
「社会の公器」の体現者としての秘められた可能性について考えてみたい。

企業は社会の公器である

 企業のあるべき姿というものを考えるとき、経営の神様と呼ばれた松下幸之助の言葉は示唆に富んでいる。例
えば、こんな主旨のことを言っている。

  

  • 企業は社会の公器である。したがって、企業は社会とともに発展していかねばならない
  • 自分の会社だけが栄えることは、一時的にはあり得ても長続きはしない。共存共栄でなくては、真の発展、繁栄はあり得ない
  • 企業の社会的責任というのは、本来の事業を通じて生活の向上に貢献するということだ

 

   

 また、現代経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーも「企業は社会の公器である」としたうえで、組織を社会に貢献させるために、3 つの役割が必要と述べている。

  

  • 自らの組織に特有の使命を果たす
  • 仕事を通じて働く人を生かす
  • 自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題解決に貢献する 


  

 企業のあらゆる経営資源は、すべて社会が生み出したものである。企業はこうした社会からの預かりものを
資源として事業を営んでいる以上、社会に価値を提供するために存在し、社会の期待に十分応えられてこそ、
社会から信頼される。「社会的責任(CSR)」といった受動的な姿勢ではなく、本業のど真ん中で社会課題を
解決する事業を展開することこそ、企業の持続的な成長には不可欠だ、と経営の大家達は語っているのである。

SDGs 志向の経営は、日本企業の DNA

 両氏が語ったSDGs志向の経営と、日本企業や日本社会の価値観が親和的であることは論を俟たない。近江商人の「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の「三方良し」の精神や、日本資本主義の父と呼ばれる渋沢栄一の道徳経済合一説など、日本の資本主義の系譜を紐解けば、社会課題の解決は経営の根幹に据えられてきた。日本企業にとってSDGsとは、決して海外から輸入された概念ではなく、企業理念や社訓を礎に長らく意識し実践してきた取り組みが、別のかたちで具体化されたものとも言える。

 その親和性の高さを象徴するのが、例えば、ホンダのCVCC(複合渦流調速燃焼方式)エンジンの開発だ。

 ホンダが二輪車から四輪車に参入して間もない 1970 年代、アメリカでマスキー法と呼ばれる自動車の排ガス規制導入の動きがあり、自動車メーカー各社はこの法案に強く反対していた。しかし、常日頃「会社のことより、先に日本のため、人類進化のため」と語っていた本田宗一郎は、「マスキー法への対応は、自動車産業の社会的責任上なすべき」とし、同時に「神が与えてくれたビジネスチャンス」とも考えた。実際に、ホンダは総力を結集し、マスキー法をクリアする低公害エンジンを実用化した。マスキー法は廃案となったが、燃費の良いCVCCエンジンは高い評価を得て、ホンダは四輪車メーカーとして、確固たる地位を築いた。

 社会課題の解決を通じて自社の成長を実現するSDGs経営は、古くから日本企業に根付くDNAなのだと言える。

日本企業の取り組みは、なぜ評価されないのか

 しかし、親和性が高いことと、足元で実行できているかどうかは別の問題だ。

 米フォーチュン誌が毎年発表する「Change the World」というランキングがある。社会課題を解決し、文字通り社会を変えている企業を讃えるものだ。2015 年から恒例となった同ランキングにおいて、上位を海外企業が独占する中、2019 年までにトップ 50 に入った日本企業はわずかにトヨタ、伊藤園、パナソニック、NTTに限られる。

 経営戦略論の権威、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授は、次のような考えを述べている。

  

  • 日本企業が実際に世の中を変えられているケースは少ない
  • 自己満足でやっているだけでは、社会に何のインパクトも与えられない


 悔しいが、この指摘は正しいと言わざるを得ない。既存の取り組みにSDGsが掲げる 17 の目標のラベルを貼るに留まっている日本企業が多いのも事実だからだ。

 また同教授は、日本がDXに後れを取っていることについて、次のように言及している。

  • 日本人はとても手際がよく、教育水準が高い。時間をかけて培ってきた技術力もある。にもかかわらず成長率や生産性が低いのは、驚くべきことだ
  • 背後にある最も大きな問題は、デジタルトランスフォーメーション(デジタルへの移行)への熱意があまりないことだと私は見ている。現在の企業はデジタル技術を生産や流通に使うことでデータを測定したり、分析したりすることが求められる。これができれば日本の会社も生産性が高まるはずだが、実際にはそうなっていない

 

 たしかに日本人の教育水準は高く、日本企業には誇るべき技術力がある。しかしながらSDGsにおいても、DXにおいても、世界で存在感を発揮できていない。今こそ日本の強みを再考し、高い目的を掲げたSDGsとDXをリンクさせ、インパクトあるSDGs 経営に舵を切るべきときだ。

 日本企業ならば、「企業は社会の公器である」との言葉の体現者として、その地位を取り戻せるはずだ。

日本企業の再起動は随所で始まっている

 経済価値の強い創出力を、大胆な社会課題解決につなげる日本企業は既に現れ始めている。その取り組みは、前節で取り上げた世界のSDGs先進企業と比べても遜色ないものだ。

  

  • ①トヨタ

 自動車メーカーからモビリティカンパニーへモデルチェンジすることを宣言しているトヨタは、新たなコネクティッド・シティをつくる「Woven City」構想を発表し、世界を驚かせた。ウーブン・シティとは、「人々が生活を送る
リアルな環境のもと、自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム、AIなどを導入・検証できる実証都市を新たに作る」プロジェクトである。社会に貢献するために新たな未来を模索しているトヨタの代表的な取り組みと言えるだろう。

 2020 年 1 月にラスベガスで開催されたCES 2020 にて、豊田章男社長自らこのプロジェクトの概要を発表し、暮らしの中で必要となるあらゆるモノやコトがつながる新たな街づくりの構想に、世界が注目している。これまで不可能だったことを可能にするデジタルの力が発揮されるという意味では、DXの代表的事例になるであろう。

 静岡県裾野市に創られる新たな街は、環境との調和やサスティナビリティを前提に計画されている。建物の主な素材はカーボンニュートラルな木材を使用し、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、まさに社会課題解決とDXを融合させ、自社の成長をも実現するSDGs 経営を体現するものだ。世界初のコネクティッド・シティが日本に生まれるとなれば、日本企業の存在感を世界中に知らしめることは間違いないだろう。

 このような大掛かりなプロジェクトを推進できるトヨタの原動力は、経営者自らが社員へ発するメッセージから読み取ることができる。豊田章男社長の 2020 年の年頭挨拶は、トヨタイムズ(トヨタの自社媒体)で公表されているが、魂の込もった言説にはトヨタ社員でなくとも心を打たれるものがある。トップが腹を括り、見えない未来への道筋を模索する姿は、社員に絶大なインパクトを与える。トップの想いに共鳴し、自分も変わりたいと思う人間が増えれば増えるほど、企業としての総合力は上がっていくはずである。

  

  • ②パナソニック

 パナソニックは 2014 年 11 月 27 日、神奈川県藤沢市に「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa
SST)」をオープンした。これは 100年続くサスティナブルな街をつくるという壮大なプロジェクトである。オープン5 周年となる 2019 年 11 月時点で約19haの広大な敷地に戸建住宅街区(561 戸)が完成し、1900 人を超える住民が生活を営む街に成長した。

 エネルギー面の取り組みにおいては、CO2 削減目標を 70%(1990 年比)と掲げ、全戸建住宅に太陽光発電・蓄電池・家庭用燃料電池「エネファーム」を備え付けるなど、快適な暮らしを提供しながら環境面での社会課題解決を目指している。

 また、セキュリティ面では、安心・安全な暮らしを守りながら、周辺地域にも溶け込んでいくためにパナソニックのデジタルテクノロジーを駆使する。入口に不審者の進入を禁止する物理的な門を設けるのではなく、見守りカメラやセンサー付きLED街路灯などを活用した「バーチャル・ゲーテッドタウン」というシステム構築を進めている。

 2020 年 3 月からは IoTやAPIで消費電力・サービス利用状況等を連携する新しい取り組みを始めるなど、パナソニックは家電メーカーの域を超え、新たなエコシステムを先導する役割を担っている。

  

  • ③オリックス

 オリックスは、従来の事業を一歩ずつ社会課題解決に結び付けていくスタンスをとる。例えば太陽光発電においては全国的な導入を推進し、今や日本トップ規模の太陽光発電事業者となっている。他にも、木質チップ専焼発電を行う「吾妻木質バイオマス発電所」(群馬県吾妻郡東吾妻町)、「別府温泉 杉乃井ホテル」(大分県別府市)における自家用では国内最大規模の地熱発電所の運営を始め、東京大学とのブロックチェーン技術を活用したトラッキングシステム(再生可能エネルギー由来の電力の発電地や供給者などを履歴で証明する)の共同研究などにも取り組み、再生可能エネルギー普及を推し進める。


 オリックスの「統合報告書 2018」には、「今後、国全体として、太陽光発電に偏重せず、よりバランスの取れた形での再生可能エネルギーの導入が進むと考えられ、オリックスもその一役を担うことにより、脱炭素社会への移行に貢献していきます。地熱や風力の分野でも、国内トップ規模の再生エネルギー事業者としての地位の確立を目指します」とある。

 これは、国と一体となって社会課題解決の高い目標に挑む覚悟の表明だと言える。

 日本企業の高い技術力は、目標を掲げて着実に取り組めば、世界に波及する大きな変革につながる可能性を秘めている。

 上記 3 社は一例に過ぎないが、いずれも高い目標を掲げたうえで取り組みを進めている点が特徴的である。「良いことをしている」と宣伝するだけでなく、本腰を入れてSDGs 経営に挑んでいるのだ。

 「企業は社会の公器である」の体現者として、日本企業の再起動が既に始まっている。

Baycurrent-Digital_Practice06-2

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