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Practice06-1. 世界中で進むSDGs経営はデジタルで加速する

PracticeDX推進の実用書

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国連サミットにおいて採択され、既に世界標準として認識されつつある「SDGs(持続可能な開発目標)」。

社会課題に本気で取り組む先進企業の事例に学びながら、

そこにデジタルアプローチがもたらす可能性を探る。

「SDGsは経営の前提」が世界標準

 2015年の国連サミットにおいて、グローバルな社会課題を解決し持続可能な世界を実現するための国際目標である「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択された。

 SDGsを踏まえた各国政策の展開を受け、今後は間違いなく「SDGsは経営の前提」という考え方が世界標準になるだろう。世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議でも、先進的な取り組みをしている企業のサスティナビリティランキング「Global 100 Index」が毎年発表されている。SDGsが経営の前提として世界標準となっていることの1つの証左である。

 SDGsが経営の前提となる理由は単純明快だ。企業のミッション・ビジョンは、社会課題の解決と直結するからだ。企業は自分達のビジネスで利益だけを追い求めるのではなく、ビジネスを行う意義や自社が成し遂げたい目的をセットで考えるべき存在だ。そして、これからの自社の成長を考える際に、「サスティナビリティ(持続可能性)」は外せないキーワードである。社会課題の解決に寄与していくことが、サスティナブルな企業への道を開くのだ。

 SDGsを慈善事業の一環と捉えてはいけない。そこには「我々の世界を変革する」という意味が込められているからだ。DXで自社の変革を目指す企業は、その先にSDGsとの共通項を見据え、自社の変革目的を確固たるものにしなければならない。

 同時に、SDGsは経営上の「リスク」と「機会」の両方に影響があることも念頭に入れておきたい。世界全体がSDGsの達成を目指す中、これを無視してビジネスを行うことは、企業のサスティナビリティを揺るがすリスクとなる。一方、企業がビジネスを通じてSDGsに取り組むことは、企業の存続基盤を強固にするとともに、いまだ開拓されていない巨大な市場を獲得する大きな機会をもたらすのだ。

 SDGsの最後の文字“s”が小文字になっていることには、重要な意味が込められている。SDGsはSustainable Development Goalsの略称であるが、あえて複数形で表現された。それは、17の目標と169のターゲットのすべてに向き合う姿勢を意図してのことだ。

 17ある目標のどれか1つに関与するだけでよければ、現業を突き詰めればよいかもしれない。しかし、結果として他の目標に悪影響を及ぼすのであればSDGsに寄与しているとは言えない。企業として17の目標と169のターゲットのすべてに向き合い、自社のミッション・ビジョンから取り組み内容を見定めていく姿勢が求められるということである。ただし現実には、すべての目標とターゲットに関わることは極めて難しいだろう。そこで、自社だけで取り組むのではなく、様々な企業・団体と連携したエコシステムを構築することが重要となってくる。

SDGsをリードする企業達

 今や世界中の企業が、SDGsの達成と自社の経営戦略の融合に力を注ぎ始めている。中でもこれから事例として挙げる先進企業は、社会課題に本気で取り組み、抜本的な解決を主導している存在と言える。

  • ①ウォルマート

 ウォルマートは27ヵ国に1万1,000店舗以上を展開している世界最大のスーパーマーケットチェーンであり、社会課題解決に本格的に取り組んでいる企業でもある。食材を中心に扱う同社は、不良品を出すと食中毒などのレピュテーションリスクに直結するため、社会課題に対する危機意識がひと際高い。そのため、良い商品を届けるという責任感が、モチベーションにもつながるのだろう。「世界中の消費者に、より良い生活を届けたい」という企業トップの言葉に、その責任感が表れている。

 社会課題解決の取り組みは、サプライチェーンにおける会社の目的、主要カテゴリ、市場との関連性で優先順位付けされている。カテゴリごとに取り組みの目標数値が細かく設定され、その達成度も公表される。目標やその達成度の計算を研究機関等と連携し精密に行いながら、生産から消費者の手に届くまで、すべてのプロセスで社会課題解決を図ろうとしている。

 ウォルマートは顧客の信頼を高め、生産性向上とコスト削減を実現するとともに、経済の流動性を高め、CO2排出量や廃棄物を削減し、自然資本を回復することができると考えている。「良い品質のものを低価格で世界中に届ける」というミッションを目指して取り組むことで、世界中の消費者・社員・サプライヤーの意識改革を図り続けるSDGs先進企業である。

  • ②ジョンソン・エンド・ジョンソン

 ジョンソン・エンド・ジョンソンはベビー用品を始めとするヘルスケア商材を展開しているため、ウォルマートと同様に製品の品質に対する責任感が強く、SDGsへのモチベーションが高い。

 2015年にSDGsが採択されると、翌年に早々と公約を掲げた。この素早い対応ができた背景には、60年以上守られ続けているクレド(わが信条)の存在がある。社員の共通価値観となっているクレドの中には、「世界中のより多くの場所で、ヘルスケアを身近で充実したものにし、人々がより健康でいられるよう支援しなければならない」という文言がある。これを体現するため、国を問わず様々な社会課題解決につながる施策を行ってきた。

 SDGsの取り組みについては、注力事業分野を中心に5年間の具体的な目標を設定し、その達成度合いを自社・パートナー双方から得られた情報に基づき、毎年定量的に計測・公表している。パートナーも含めた数値を公表する理由は、「SDGsの目標は当事者だけで達成することはできないが、政府、企業、コミュニティが協力することで可能となる」という考えが根本にあるからだ。

 社会課題は一社単独で解決できるものではない。関連プレイヤーが協力し合ってエコシステムで取り組んでいくべきものであり、ジョンソン・エンド・ジョンソンはその模範と言える企業である。

  • ③エリクソン

 スウェーデンの大手通信機器メーカーであるエリクソンは、公表している「Technology for Good Impact Report 2019」において、社会課題解決がビジネスのベースと断言しており、SDGsが採択されてからわずか半年後に、17の目標それぞれに責任者を設定した。社会課題解決に積極的な北欧において、スウェーデンは官民一体で社会課題解決に取り組むために、政府がリーダーシップを持って推進している。エリクソンは、「パートナーシップが持続可能な開発目標の中心にある」という考えを表明し、世界中の政府や企業・団体と様々な社会課題解決プロジェクトに取り組んでいる。

 17の目標すべてを対象としているため、取り組み範囲は多岐にわたり、その活動数はホームページで紹介しているだけでも30以上の数に上る。また、全社的な意識改革を図るため、全事業のサスティナビリティ度合いをチェックするチームを設置。全社員向けにSDGs関連トレーニングの実施なども行っている。

 エリクソンは自社単独でも17の目標すべてに向き合っており、紛れもないSDGs先進企業である。

  • ④グラブ

 グラブは配車アプリを中心に、東南アジアで最も利用されているスーパーアプリ(プラットフォーム化された統合的なスマホアプリ)を運営しており、そのアプリは住民の生活インフラとなるほど欠かせない存在になっている。人々の生活を支えるグラブにとって、東南アジアの社会課題を解決し豊かな国にすることは自社の売上げにも直結するため、企業活動そのものがSDGsと密接につながっていると言える。2012年創業時の「東南アジアのタクシーを安全にしたい」という思いは、今では「東南アジアの人々の生活を向上させる」にまで拡張し、様々なサービスを提供するに至っている。

 アプリダウンロード数は2020年現在で1億5000万を超えており、この数は東南アジアにあるスマートフォンの4分の1以上で使われていることを意味する。そのサービスは900万人以上の個人事業主によって提供されており、収入格差の大きい東南アジアに新たな雇用機会を生むことにも成功している。この背景には、“ハイパーローカルアプローチ”と呼ばれる地域のニーズに徹底して寄り添った現地密着型戦略がある。東南アジアの多様なニーズに真摯に向き合った同社は、2018年に配車アプリUberを東南アジアから撤退させるまでに成長した。

 グラブは企業ミッションが社会課題解決と直結し、現地密着型戦略で東南アジアという未開拓の巨大市場を獲得したSDGs先進企業である。

リードの鍵となるのは、デジタルアプローチ

 4社の取り組みの背景は様々だが、共通点もある。デジタルが要となっている点だ。デジタルには、これまでできなかったことをできるようにする力がある。その力が社会課題解決と自社事業成長の融合を可能にしているのだ。

 ウォルマートは、サプライヤーや消費者から得られる莫大なデータを利活用し、自社に限らずバリューチェーン全体の改革を推し進めている。「Project Gigaton」という取り組みでは、サプライヤーにもCO2排出量の削減目標を設定し、対策を促している。この目標は、国・研究機関・パートナーなどが提供する森林再生状況などのデータをもとに、精緻に算出されている。サプライヤーはこの目標に積極的に取り組み、毎年達成度合いをウォルマートに報告する。良い結果を残している企業であれば、優先的に契約できるという仕組みである。

 ジョンソン・エンド・ジョンソンは、インドの妊婦や新米ママ向けに、健康や育児に関するお役立ち情報をボイスメッセージで送信する無料サービス「mMitra」へ参画している。

 提供する情報は「飲む前に水を沸騰させる」「緑の野菜を定期的に食べる」「気分が悪い場合はすぐに医者にかかる」といった基礎的な公衆衛生に関する情報が含まれるが、このような一見当たり前の情報がいまだに届いていない低所得者地域があることに問題意識を持ち、取り組んでいる事例である。

 情報発信方法をボイスメッセージにしているのも、モバイルデバイスが一家に1つであることが多い低所得世帯にも広く届けられること、文字が読めない人にも対応できることを見越しているからだ。

 エリクソンの30以上ある取り組みの1つに、大学研究機関などとともに世界25ヵ国・12万人以上にIT教育を提供するプロジェクト「Connect To Learn」がある。

 この取り組みは同社の「質の高い教育は、子供たちに経済的・個人的なエンパワーメントの準備をさせ、国民経済にプラスの影響を与えることができる」という考えが軸にある。インターネット未開拓地域へ先行投資し、若者のITリテラシーを向上させながら世界のデジタル化を推進すると、自社事業の成長にもつながることになるのだ。

 グラブはペイメントサービス「GrabPay」を2016年に開始した。サービスは個人間送金やQRコード決済などの電子決済事業から始まり、個人事業主向けの保険プランや少額ローンまで幅を広げている。東南アジアでは約70%の人々が銀行口座を持っておらず、保険やローンを組むことも難しい状況にあるため、このサービスは多くの人々にチャンスを与える可能性を秘めている。

 デジタルを活用することで、社会課題解決の取り組みを大規模なものとし、自社にも利益をもたらす可能性が高まる。SDGsが経営の前提であるならば、自社のDXが向かう先とSDGsの目標をリンクさせねばならない。海外のSDGs先進企業は、そこまで見据えた歩みを進めているのだ。

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