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Practice05-2.アジャイルが築く持続的変革の土台

PracticeDX推進の実用書

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企業文化の一大変革として注目されるアジャイル型ワークスタイル。

アジャイルの浸透は、確実にEXとCXの向上をもたらすことになる。

どうすればアジャイル文化を醸成することが可能か。組織変革のヒントを見ていきたい。

”アジャイル”は、システム開発手法だけを意味しない

 アジャイル(Agile)とは、「素早い」「機敏な」といった意味を持つ言葉であり、システム開発における開発手法の1つとして世に広まった。しかし、今ではアジャイルは変化対応を基軸とする価値観を表す言葉として捉えられている。その価値観が、環境変化の激しい今の時代にフィットするため、ワークスタイルといったビジネスのより高次な概念への応用が進んでいるのだ。

 アジャイル型のワークスタイルとは、何を意味するのだろうか。

 その理解には、2001年にソフトウェア開発の思想的リーダー達によって公表された「アジャイルソフトウェア開発宣言」と「アジャイル宣言の背後にある原則」に立ち戻るのが近道だ。

 アジャイル宣言の背後には、12の原則が存在する。その宣言と原則をワークスタイルとして咀嚼すると、以下のようになる。

    

  • 部門横断チームを組んで、意欲に満ちた人々と日々対話しながら一緒に働く
  • 実際に動くアウトプットを生み出すことこそが進捗である
  • 顧客満足を最優先し、顧客と強調しながら、価値あるアウトプットを速く継続的に提供する
  • 状況変化に対応するため、振り返りを高速で繰り返し、自分達のやり方を変えていく

 

    

 アジャイル型のワークスタイルとは、これらの価値観に沿って業務を進めていくことである。マネジメントの焦点を人とアウトプットにあてるこのワークスタイルの浸透は、社員各人の思考様式や行動様式、ひいては企業文化の一大変革を起こすものであると言っても過言ではない。

 そして、このアジャイル型のワークスタイルの浸透は、前節で述べた「攻める」オペレーションの価値をさらに高める。攻めの姿勢で得た顧客変化の予兆を、部門横断の取り組みでビジネス全体の変革につなげる。また、その取り組みの中で、変化を是とするマインドセットも身に付けていくのである。

 このように、環境変化の激しい今の時代にこそ求められるアジャイル型ワークスタイルだが、その浸透は容易ではない。トップからのアジャイル導入指示だけでは、何も変わらない。その浸透を図るには、文化と制度の両面からアプローチすることが不可欠となる。

コーチングを核とした積み重ねで築くアジャイル文化

 アジャイルの教科書で定められたプロセスやテンプレートを表面上運用する”なんちゃってアジャイル”。これは、手段が目的化した失敗の典型である。組織文化の変革は、そんなうわべだけの取り組みでは成し遂げられない。

 文化は思考様式と行動様式で構成されるが、アジャイルの効用を熱心に説いたとしても、それだけでは思考様式は簡単には変わらない。アジャイルの原則に沿った行動を地道に繰り返し、その過程で気付きを得ながら、長い期間をかけて現在の思考様式を上塗りしていくしかないのである。

 まずビジョンを策定し、ルールやプロセスを理解させたうえで、コーチングを伴う運用を積み重ねるのだ。その積み重ねの過程で、アジャイル文化が徐々に浸透していく。

 ビジョンについては、「アジャイルソフトウェア開発宣言」と「アジャイル宣言の背後にある原則」を拠り所としつつも、自社独自のアジャイル憲章を策定するべきである。お飾りの憲章で終わらせないために、社内規定化まで踏み込んでよいかもしれない。

 また、アジャイル型ワークスタイルのルールやプロセスを理解させることも必要だ。新しいワークスタイルの教科書にあたるガイドブックを整備し、アジャイル型で進めていくための体制、業務サイクル、成果物などを理解させる。アジャイル型の導入とともに組成していく部門横断の変革チームメンバーには、参加体験型の研修メニューを用意するのも有効だろう。

 そして、最も重要なのがコーチングだ。そもそもアジャイル型のワークスタイルは、実際に行動し、振り返りながら浸透していくものである。ゆえに、メンバーの思考・行動の変革に焦点をあてるコーチ役の存在が不可欠である。コーチはメンバーを導くとともに、時には新しいワークスタイルが十分に身に付いていないメンバーを補完し、横断変革チームの調整弁としての役割を担うこともある。

 しかし、積み重ねが重要とは言っても、闇雲に取り組んでは意味がない。正しい方向へと歩を進めていくことが肝要だ。そのためにも、自分達で定めたビジョン(アジャイル憲章)、ルールやプロセスが社員各人に正しく理解されているか、それらに則ったコーチングがなされているか、常に検証する姿勢が求められる。

アジャイル浸透の壁を突破する3つの組織制度変革

 アジャイル型のワークスタイルを円滑に浸透させるには、組織制度の変革を併せて進めなければならない。意欲に満ちた人材を部門横断的に集め、それぞれのメンバーにしがらみなく、主体的に行動してもらうことが不可欠だからだ。

 その第一歩は、横断変革チームの組成におけるリソース確保を制度化することである。

 一定以上のマインドセットとスキルを持った人材を集めようとすると、本業との兼ね合いから、どうしてもリソース確保が中途半端になりがちである。そこで、社内公募や部内での推薦を基礎としつつも時には最適人材の一本釣りをも制度化し、リソース確保を担保する必要がある。

 次に、横断変革チームがしがらみを突破するための権限移譲を制度化することである。既存モデルの変革を行う組織である以上、既存の枠組みにとらわれない権限の付与が必要である。

 例えば、商品・サービスやオペレーションの更改権限、それにかかる予算執行の権限、サービスリリースの承認権限、社内外のデータ利活用の権限などが考えられる。

 これらの権限があってこそ、横断変革チームのメンバーはしがらみを乗り越えることが可能となる。この権限移譲は、社内の力関係を大きく変化させることになるため、経営トップが断行せねばならない。

 3つ目は、主体性を引き出すための評価制度の刷新だ。評価制度は社員の行動インセンティブに直結するとともに、経営陣から社員へのメッセージともなる。具体的には、横断変革チームごとの「成績目標(KGI)」を設定し、達成度によってチームに報酬を与えるという制度は有効だろう。また、アジャイル憲章、ルールやプロセスに基づいた「行動評価・貢献度評価」の仕組みの構築も有効だと言える。特に「行動評価・貢献度評価」はチームメンバーの意識改革に重要である。このような取り組みを進めると、横断変革チームを贔屓しているという不満の声が上がったとしても、アジャイル文化の浸透に向けては、経営トップが責任を持って断行せねばならない。

 アジャイル型のワークスタイルへの転換は、これら3つの組織制度の整備がなされてこそ成し遂げられる。それが経営陣の役割であることは明白だ。しかし、そこに経営陣任せにしない社員各人からの突き上げがあるならば、アジャイル文化の浸透は加速することになるだろう。

アジャイル型がもたらすEXとCXの向上

 アジャイル型ワークスタイルの実現に向けては、いくつもの障壁を乗り越えていく必要があるが、その過程で起こり得る前向きな変化についてここで触れておきたい。それは、EX(エンプロイーエクスペリエンス)とCX(カスタマーエクスペリエンス)の向上につながる大きな変化だ。

 顧客満足の向上に直結する横断変革チームに参加できることは、自分が会社の重要な取り組みの一翼を担っているという実感を与え、それがやりがいにつながっていく。そして、そのやりがいが、継続的な変革活動を自分事の取り組みに変容させていくだろう。結果としてCX向上につながる変革を起こすことができれば、大きな達成感を得ることもできるし、歩みを振り返ることで自己成長も実感する。この一連のEXが社員満足度を高め、企業の一体感を生み出し、ひいては自社を組織として強くするのだ。

 オランダの金融機関INGなどは、まさにこれを体現している。マーケティング、プロダクト、営業、データ分析、ITなど多様な部門の代表者で横断変革チームを組成し、CXに関わるすべての課題について、アジャイル型ワークスタイルで取り組んでいる。

 そして、そのアジャイル型変革の中で積み重ねられるEXこそがCX向上に必要な要素と捉え、社員が自社をどれほど信頼しているか、どれほど貢献したいと考えているかという社員エンゲージメントを重視している。

 実際に、社員エンゲージメントを四半期ごとに計測しており、変革進捗の重要指標としているのである。

 アジャイル型ワークスタイルと、それを通じて成し遂げられるEXとCXの継続的進化。いずれも勝ち続ける企業には不可欠なものだ。アジャイルとは、単なる開発手法ではない。企業の持続的変革の土台そのものと言えるのである。

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