宇宙産業における日本の課題と未来
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このような状況を捉えて、政府間においては、宇宙探査ハイレベル会議の開催(2009年)を皮切りに、国際協力の重要性を共有し、政府レベルでの対話・意見交換を行う動きが活発化してきている。直近では、2018年3月3日に、国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が日本において開催された 。
これまで、宇宙開発は長期に渡り国の予算で実行されていたため、宇宙産業を維持することを目的とした公共事業であった。実際に、宇宙産業の需要の多くは官需とされ、日本では8割を占めている。長期に渡りこのような状況が維持され続けたため、宇宙産業は官に下支えしてもらうことが恒常化し、イノベーションへの意欲が長らく減退した産業になった。官の意思を優先する産業となってしまい民間の活力が失われてきたのだ。
しかし、この状況に反発する動きが米国を中心に始まり、それが、宇宙産業において大きな動きになりつつある。民間企業においては、SpaceX(米)、BlueOrigin(米)、SKYLON(英)等の宇宙輸送システムを再使用することで宇宙ロケットの打ち上げコストを削減した。Lockheed Martin(米)は、2028年までに火星軌道に宇宙ステーションMars Base Campを整備すると発表。今年は、探査技術・スピードを競う月面探査レースであるGoogle Lunar XPRIZEの開催が予定されている。これら宇宙インフラと呼ばれる産業の活発化に伴い、火星移住計画、宇宙旅行等の新サービスが創出されてきている。今後は、政府、民間の協力体制をどのような方針に基づき実現していくかが課題となっている。
日米の産業振興に関する意識の違い
ただし、この背景には、米国政府の宇宙産業振興政策が大きく寄与している。SpaceXは2006年にNASAと商業軌道輸送サービス(COTS)を契約した。COTSとは、NASAが計画し調整を行っている国際宇宙ステーション(ISS)への民間企業による輸送サービス計画である。この計画は、2006年1月18日に発表され、SpaceX、Orbital ATK(米)が落札した。ここで重要なのは、2006年時点でロケットの打ち上げ実績のない、ベンチャー企業であるSpaceXが落札したことである。つまり、米国政府は民間活用について、米国政府が要求する一定基準を満たし、米国政府にとって有益となるのであれば、それが例え、実績のないベンチャー企業であっても問題ないと認めたのだ。
この点は、日本と比較すると大きな意識の差がある。同様の計画が日本で実施される場合、まず問われるのは、「過去の実績」や「会社の規模」である。恐らく、「国民の税金を使うため、可能な限り失敗を避ける」といった意識が優先されるためだろう。公共事業において可能な限り失敗は避け、無駄な税金を使わないという考え方は重要である。ただし、産業振興においては、失敗を許容し、前進していく意識が政府側になければ、民間の活力が停滞してしまう。
ではどうすればよいか。一つは上記のとおり、一定基準を満たし、日本政府にとって有益となるのであれば、それが実績のないベンチャー企業であっても選定されるような政策を立案し、実行していくことである。
もう一つは、資金を投入する分野を宇宙科学、例えば宇宙の果てを観測する宇宙望遠鏡や宇宙・惑星を探索するための観測衛星や探査機等、に絞ることである。宇宙望遠鏡や観測衛星、探査機から得られるのは科学的知識だ。すぐに経済的な利益につながるわけではないが、持続的に知識を蓄積した結果、イノベーションが起こり経済に結びつく場合もある。ハッブル宇宙望遠鏡、火星探査機シリーズ、火星の表面を走破した無人探査車のスピリットとオポチュニティ等、米国が宇宙科学の分野で次々と成果を挙げた。その結果、民間企業側から「宇宙旅行」、「火星移住計画」等の目標が掲げられ、SpaceX、BlueOrigin等の企業においては実際に経済にも結びついている。
民間企業の役割と宇宙産業の今後の可能性について
我々は、2030年代頃に月、火星、小惑星で居住できる状態が実現したと仮定し、そこに至るまでの発展ステージを図表3のとおり5つに定義した。そして、そこから必要とされる産業を図表4のとおり想起した。
宇宙産業は、まだステージⅠの状態にある。米国のベンチャー企業が中心に取組み、技術革新のもと大幅なコスト削減が進んでいる。今後は、ステージⅡに向けた取り組みである、基地の建設・水・エネルギー等が中心となるだろう。国際的に高度なインフラ技術を保有する日本はその取組みの中心になる可能性が大いにある。