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動き出した日本のスマートシティ(前編) 政府の支援を受けられるスマートシティ関連事業を正しく理解する

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コロナ禍で可決されたスーパーシティ法案は、社会課題解決の契機となるか

 2020年5月にスーパーシティ構想の制度的枠組みを定めた「国家戦略特別区域法の一部を改正する法律」が可決した。いわゆるスーパーシティ法案である。この法案は、街にAIを始めとする先端技術の組み込みを促進するため、国が認めた自治体を特区とし、特別に既存の規制を緩和するという内容だ。法案可決の4か月後にあたる2020年9月に施行され、2020年12月末にはスーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に関する公募が始まった。

日本は世界有数の課題先進国である。このスーパーシティ法案を皮切りに、国・自治体・民間が一体となったスマートシティ化が加速することになれば、課題解決先進国として世界に発信していける可能性もある。規制を緩和してでも進めようとしている今こそ、一気呵成に進めるチャンス到来だ。

各府省庁で加速するスマートシティ推進に向けた支援

 各府省庁では、ここ数年、多くのスマートシティ推進事業を立ち上げてきた。2020年度に予算が組まれた事業のうち、スマートシティの立ち上げ・構築に関するものは45事業も上げられる。これらの事業がスマートシティのどのカテゴリに関連しているかを整理したものが図1である。

平均すると1事業あたり約5領域をカバーしている計算となる。また、スマートシティのカテゴリ別に見ると、平均20事業も関連していることがわかった。このことからも、スマートシティに関連する事業が、特定のカテゴリに偏るものではなく、いかに幅広い取り組みが求められているかが理解できる。

図1
 次に、 政府が公表している令和2年度のスマートシティ関連事業である6事業に絞って見てみる。2017年に「データ利活用型スマートシティ推進事業」がスタートしてから、スマートシティ関連事業は年々徐々に増えてきたが、それに比例して予算額も選定自治体数も増加していることがわかる。
図2
 選定自治体数は2017年度が6都市であったのに対し、2020年度には85都市にまで増えており、4年間で約14倍にまで拡大している。これは、スマートシティ化を目指す多くの自治体に、国からの支援を受けられるチャンスが巡ってきたといえるだろう。2021年度以降はスーパーシティ法案の可決がこの流れをさらに後押しすることにつながるため、より多くの自治体がスマートシティ化の推進を強めていくと考えられる。

ちなみに国から支援を受ける場合、1自治体1事業までといった制限はないため、自治体としては複数事業に手を上げることも可能である。例えば、秋田県仙北市、兵庫県加古川市、香川県高松市などは複数事業から選定されており、様々な取り組みを国と協力しながら推進している。

これまで費用面や知見不足の問題でスマートシティ化に踏み出せていなかった自治体にとっては、大きなチャンスが到来しているといえるのだ。

1.総務省 データ利活用型スマートシティ推進事業
2017年度にいち早く始まった総務省による「データ利活用型スマートシティ推進事業」では、生活の利便性向上のためのデータ基盤/都市OS構築・実装を目指す事業を支援している。基盤と連携するサービスや情報がすでに豊富にあるまちの方が取り組みやすい為、選定されている都市は東京23区や県庁所在地などの大きな自治体が中心となっている。スマートシティに欠かせない都市OSだが、構築の難易度が高いため、4年間でまだ21事業しか選ばれていないことも特徴である。

2.内閣府 未来技術社会実装事業
内閣府が推進する「未来技術社会実装事業」では、地方創生を目的にAI、IoT、自動運転、ドローンといった先進テクノロジーをまちに実装する取り組みを支援している。ただし、先進テクノロジーの活用が目的ではなく、あくまで地方の抱える課題解決を主目的としているため、選定されている都市は「免許返納後の高齢者の移動を支援する」、「山岳地帯や農村部の物流を容易にする」、「人手の減少が進む一次産業の業務効率化を目指す」といったすでに浮き彫りとなっている課題を解決するために、手を挙げた自治体を支援するケースが多い。

3.国土交通省 スマートシティモデルプロジェクト
国土交通省が推進する「スマートシティモデルプロジェクト」では、まちづくりにAIやIoTといった先進テクノロジーを取り入れ、最先端システムの構築を目指して実証実験を行っている自治体を支援している。過去4年間で選定された自治体は、人口の多い東京23区、横浜、京都、大阪、福岡などの大都市や、人の流通が盛んで有名観光地である加賀、倉敷、呉などが中心だ。公募の目的が「スマートシティの先行モデルプロジェクトの選定」であるため、スマートシティ化による影響が大きくなりやすい都市が選ばれていると想像できる。

4.国土交通省 日本版MaaS推進・支援事業
2019年度からはMaaSに関する2つの事業が始まっている。1つ目が国土交通省の「日本版MaaS推進・支援事業」だ。
この事業は既存の公共交通機関が抱える課題を解決するため、他サービスとデータ連携させることを目的としている。そのため、交通×観光(例:観光客へ提供する地域交通網の整備)や交通×高齢化対策(例:免許返納後の高齢者の外出促進)といった、交通と他サービスを連動させた実証実験を行う自治体への支援が中心となっている。

5.経済産業省 自動走行車等を活用した新しいモビリティサービスの地域実証事業
MaaSのもう一つの事業が、経済産業省の「自動走行車等を活用した新しいモビリティサービスの地域実証事業」である。この事業の特徴として、“制度的に新しい取り組みの実証実験を支援する”という前提を設けていることが挙げられる。そのため、選定されている自治体の取り組みは、「交通事業者・商業施設・医療関連施設などを提携し、施設利用者向け交通サービス利用クーポンを提供」、「介護福祉施設がそれぞれに行ってきた送迎業務をAI活用型共同送迎モデルにより地域一体で実施」といった前例のない取り組みが多く見受けられる。

6.内閣府 スーパーシティ構想推進事業
スーパーシティ法案と直結する事業が、内閣府「スーパーシティ構想推進事業」である。2021年春頃に選定される予定の都市が、特区として最先端サービスの構築やデータ連携基盤の整備などを行うための支援を受けられる。スーパーシティ構想の実現に向け、デジタル技術の実証実験から社会実装まで、中長期的な活動を行っていくことになる。AIやビッグデータの活用といった最先端技術の利活用促進を目的とする一方で、コロナによってニーズが高まっている“非対面”や“自動化等”といった感染対策促進も視野に入れている。デジタル技術シーズの活用からすでに浮き彫りになっている課題の解決まで、この事業がカバーする範囲はかなり幅広い。

 このように、スマートシティ関連事業といっても、「未来技術社会実装事業」や「日本版MaaS推進・支援事業」のように、すでに浮き彫りになっている地域課題を解決する“ニーズ起点”のものもあれば、「データ利活用型スマートシティ推進事業」や「スマートシティモデルプロジェクト」、「自動走行車等を活用した新しいモビリティサービスの地域実証事業」のように、先進テクノロジーを活用することで新たな価値を創出する“シーズ起点”のものもあることが分かる。

また、実証実験段階の取り組みを支援するのか、社会実装が既に見込める取り組みを支援するのかという違いも見受けられる。自治体は「何を目指すのか」、「その取り組みは今どの段階にあるのか」を明瞭にしたうえで、当てはまる事業に公募していくと良いだろう。

図3

国からの支援を積極的に受け、産学官+市民の総力戦で挑むことが肝要

 2017年度以降、各府省庁がスマートシティ化に向けた事業を推進してきたなか、2020年に可決されたスーパーシティ法案。これによって、明確に “国を挙げてスマートシティ推進へ注力する” 姿勢を国民に向けて示すこととなった。2021年はこの姿勢を、どこまで本気の行動にしていけるかが注目される。全国の自治体でスマートシティ化を飛躍的に進めていくためには、前回の記事『スマートシティ先進国から学ぶ、市民協創型アプローチ』でも説明した通り、市民と共に創り上げていくアプローチが重要となる。

そして自治体としては、このチャンスを逃さぬよう、各府省庁の関連事業に適格に応募できるようにプロジェクトの構想・計画策定を早急に始めておくことが肝要だ。その際に重要となる観点が“他産業との連携”だ。スマートシティ化は複数産業のつなぎ合わせが発生するため、あらゆる分野に関する知見が必要であり、自治体・民間企業・その他大学等の機関が協力するエコシステムを構築し、専門家の知見を結集することが必要となる。

スマートシティ法案可決によって、日本全国でスマートシティ化による課題解決へ動き出すべきタイミングが訪れようとしている。産学官連携+市民による総力戦を始めた自治体から、モデルケースとなっていくだろう。後編では、6事業から選定された自治体のなかで、特に参考となるものを例にとり、取り組み内容を考察していく。

執筆者 Profile

シニアコンサルタント金澤 佑依

専門分野
デジタルマーケティング、デジタル人材育成

大手小売店を経て現職。
金融、通信、ユーティリティなどの業界を中心に、オペレーション改善や新規事業立案といったデジタル関連テーマに従事。 デジタル・イノベーション・ラボと協力して国内外のデジタル事例調査・研究、ベイカレントのデジタルマーケティングも担当。

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