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動き出した日本のスマートシティ(後編)
政府の支援を積極活用している先進自治体から学ぶ

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いち早く取り組みを始めた自治体は、徐々に成果を上げ始めている

 前編(https://digital.baycurrent.co.jp/feature/archives/39)でお伝えした通り、各府省庁のスマートシティ関連の支援は年々手厚くなっているが、スーパーシティ法案によってこの動きは更に加速することが予想される。

 これを好機と捉え、各自治体はスマートシティ化に向けて本格的に動き出すべきだ 。スーパーシティ化は日本が抱える深刻な社会課題に対し、有力な解決手段となり得るのだから。その根拠として、いち早くスマートシティ化に動き出した自治体は、すでに課題解決へ結びつく成果を上げ始めている。今回の後編では、多くの自治体の手本となるような2つの自治体を例に取り、その詳細を見ていく。

住民の声を軸にスマートシティ化を進める愛知県春日井市

 愛知県春日井市は人口約30万人の小~中規模地方都市である。名古屋市まで約30分というアクセスの良い地域でありながら、64歳以下の働く世代が減少しており、高齢化が進んでいる。

 このような状況のなか、春日井市は2016年ごろからスマートシティの取り組みに着手した。前編(https://digital.baycurrent.co.jp/feature/archives/39)で紹介したスマートシティ関連事業のなかで、2018年から2020年にかけて4事業※1も採択されている。国から評価され、支援を受けるに至った春日井市の取り組みとは、一体どのようなものなのだろうか。

 春日井市のスマートシティプロジェクトのうち、最も際立っているのが「高蔵寺スマートシティプロジェクト」だろう。

 1968年に開かれた国内有数の大規模住宅地である高蔵寺ニュータウンは、近年、人口減少や高齢化といった課題を抱えてきた。そこで春日井市は、「住民にどのような困りごとが発生しているのか」を詳しく調査するために、地域住民に独自のアンケートを実施したのだが、その結果、移動手段に関する意見が数多く寄せられた。

 高蔵寺は坂道が多く、マイカーを利用している住民が大半を占めるため、これから高齢者となる住民にとって、「免許返納後はどう移動すればよいのか」といった不安は深刻である。また既に免許を返納した住民からは、「自宅からバス停までの短距離を歩くのも大変で、外出しにくい」という回答も多く見られた。

 これらの課題を解決するため、高蔵寺スマートシティプロジェクトでは「移動」をテーマに7つの施策を推進している。

 7つの施策はいずれも先進テクノロジーを活用することになるため、実用化に向けて高額なコストが発生する傾向にある。その資金源をどうしているか、プロジェクトを担当されている春日井市役所の方にお伺いしたところ、大元となる資金源は内閣府からの交付金とのことであった。春日井市は国からの支援を有効活用し、7つもの施策を同時並行で進められているのだ。

 また、国から受けられる支援は費用面以外もあるという。近未来技術等社会実装事業では、国から派遣された担当者に「プロジェクト全体の進捗把握」、「複数企業との調整」、「実装に向けた意見交換」等をリードしてもらえるため、スムーズなプロジェクト推進が可能になったとのことだ。

 このように、国から受けられる支援を存分に活用し、幅広い施策を進める春日井市の取り組みは、多くの自治体にとってよい見本になるだろう。住民アンケートから抽出された「移動」に関する課題を軸に、具体的な解決策を打ち出していることも特徴的だ。適宜住民の意見を反映しながら、施策を拡大していく進め方も参考になるだろう。

大規模なデジタル基盤の構築に成功した香川県高松市

 香川県高松市は、スマートシティに向けた先進的な取り組みが注目されている自治体である。

 高松市がスマートシティ化に踏み切るきっかけとなったのは、2016年に開催された「G7香川・高松情報通信大臣会合」であった。ICT活用によるイノベーションをテーマにした議論に影響を受け、「高松市でもデータを利活用した施策ができないか」という検討が始まった。その翌年からスマートシティ化に向けた取り組みに着手し、現在まで3件のスマートシティ関連事業※2に採択されている。検討を開始してから実行に移すまでのスピード感が際立つ高松市だが、その取り組みはどのようなものなのかを見ていく。

 高松市は「スマートシティたかまつ」というプロジェクトを推進している。このプロジェクト最大の特徴は、費用面・技術面で実現難易度の高い“都市OS”の構築を行ったことだ。高松市は、2017年10月から2018年2月の約4ヶ月で、国内初のFIWARE※3を活用したデータ利活用プラットフォームを構築。以降、都市OSをフル活用した取り組みを推進し、様々な課題を解決しつつある。

 (参照)https://ps.nikkei.com/leaders/interview/ukegawa1803/

  

 例えば防災分野では、市役所で水位などをモニタリングする取り組みを2017年から開始し、 水路や護岸にセンサーを設置した。10カ所以上に設置されたセンサーから収集したデータによって、現場で目視確認するよりも速く・正確に水害の兆候を発見し、住民に知らせることができるという。

 観光分野で行っている『レンタサイクルGPSシステム』という取り組みは、外国人観光客の多くが利用するレンタサイクルに目を付け、観光ルートや立ち止まった場所・時間などのデータを収集しているとのことだ。収集したデータは多言語対応の観光ガイドを作成するなど、観光産業の活性化に役立てることができている。

 介護分野においては、高齢者が装着したウェアラブル端末から、バイタルデータを収集する取り組みを2019年から始めている。収集したデータを家族や医療機関に連携することで、高齢者介護の効率を向上させる効果が期待できる。

 この他にも、都市OSを軸に様々な取り組みを進め、多くの分野で成果をあげ始めている。

 高松市役所担当者の方にお伺いしたところ、成果をあげられている背景として、やはり国からの支援が大きいという。都市OSの構築は費用面で非常にハードルが高いため、自治体単独で構築することは難しいが、高松市はスマートシティ関連事業として得られた補助金を投資することで実現できた

 さらに、香川大学やNEC・富士通といった70以上もの企業・団体と連携することで、技術面における難易度の高い課題も乗り越えたスマートシティを進める上で産学民官連携がいかに重要かを示した好例といえる。

 このように、国や民間企業との協力体制を構築し、難易度の高い都市OSの構築に成功した高松市の取り組みは、自治体だけでなく国や企業にとっても参考となるだろう。

手遅れになる前に、まずは動き出すべし

 いち早くスマートシティ化に向け動き出している自治体として、春日井市と高松市の取り組みをご紹介した。双方とも、国から得られる支援をフル活用することで、地域の課題解決を実現しつつあることがお分かりいただけただろう。

 前編(https://digital.baycurrent.co.jp/feature/archives/39)でお伝えした通り、スマートシティ化は国・自治体・民間が一体となり、総力戦で進めていくべきものである。日本全国の自治体はそれぞれ独自の課題を抱えているが、ぜひこのような先進的な取り組みを参考にし、スマートシティ化に向け動き出していただきたい。

 ご紹介した通り、国からの支援は金銭面とノウハウ面の双方を期待できる。しかしそのリソースは、全ての自治体に存分に行きわたるほど潤沢にあるわけではない。早く動いた自治体ほど、得られる果実は大きい可能性が高い。スーパーシティ法案が可決し、デジタル庁が始動した今こそ、日本が課題解決先進国となるチャンスなのだ。

  

<注釈>

※1:近未来技術等社会実装事業、スマートシティモデル事業、日本版MaaS推進・支援事業、自動走行車等を活用した新しいモビリティサービスの地域実証事業の4事業

※2:データ利活用型スマートシティ推進事業/スマートシティモデル事業/日本版MaaS推進・支援事業の3事業

※3:欧州の官民連携プロジェクトで開発・実証された基盤ソフトウェア

  

<取材協力>

春日井市、高松市


執筆者 Profile

シニアコンサルタント金澤 佑依

専門分野
デジタルマーケティング、デジタル人材育成

大手小売店を経て現職。
金融、通信、ユーティリティなどの業界を中心に、オペレーション改善や新規事業立案といったデジタル関連テーマに従事。 デジタル・イノベーション・ラボと協力して国内外のデジタル事例調査・研究、ベイカレントのデジタルマーケティングも担当。

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