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【第3回】10年以上の歴史を持つ楽天経済圏が見据える更なる飛躍

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高いロイヤリティでユーザーを囲い込む楽天経済圏の強み

 “経済圏”と聞いて、まず思い浮かべる企業は楽天ではないだろうか。2006年に楽天経済圏の構想が発表されてから10数年、幅広い業界に渡って経済圏を構築してきた楽天は、その完成度が群を抜いているといえる。特筆すべき点は多々あるが、ここでは他の追随を許さない経済圏プラットフォーマーとしての強みを解説する。
① サービス間を相互送客するSPU(スーパーポイントアッププログラム)
SPUとは、楽天経済圏のサービスを複数にわたって利用することで、「楽天市場」でのポイント還元率がアップする制度のことである。例えば、「楽天トラベルを利用した月はプラス1倍」、「楽天銀行と楽天カードを利用しているユーザーはプラス1倍」というように、複合的に利用することによって、どんどんお得になっていく。

このSPUを戦略的にカスタマイズすることによって、ユーザーの行動を誘導することができてしまう。
例えば楽天名物の「お買い物マラソン」は、期間中にショップを買いまわりすることで、どんどんポイント還元率が膨れ上がっていく。仮に還元率3倍の人が、10回買い物をすると13倍にまで増えることになる。これをポイント数で表現すると、10,000円の商品を買って300ポイント付いていたのが、1,300ポイントにまで増えるというイメージだ。
このような楽天経済圏でしかあり得ないような還元率を実現できてしまうことが、ユーザーを囲い込める大きな理由なのである。

② わかりやすく統一されたサービスブランド
楽天経済圏のほとんどのサービスには、「楽天」または「Rakuten」のワードが入っており、サービスブランドが統一されていることがわかる。消費者は、サービス名を見ただけで、楽天スーパーポイントが貯まるサービスであると認識できるため、「せっかくならポイントが付く楽天サービスを使おう」といった判断になりやすい。これが経済圏に囲い込んだ消費者を、新たなサービスに誘導することへとつながっている。

逆に、「楽天」のワードが付かないサービスは、驚くほど楽天経済圏の意識は持たれていないようだ。例えば「ぐるなび」は、2018年に楽天と資本業務提携を行い、楽天経済圏に仲間入りしたのだが、多くの人がこの事実を認識していないことがわかった。
「楽天経済圏のサービスである」というわかりやすさを徹底させるために、「楽天」の冠を付けたサービス名には強いこだわりを持っているはずだ。

③ Eコマースとクレジットカードの2大キラーサービスが織りなすシナジー
楽天には、礎となった「楽天市場」、そして決済手段である「楽天カード」という2つのキラーサービスがある。そして、この2つは相性が良いことが非常に大きな効果を発揮している。「楽天市場」での決済に「楽天カード」を使用するとポイント還元率が高くなるため、両サービスを合わせて使っている経済圏住民は極めて多いのだ。

まず、普段から「楽天市場」を使ってきた人が、よりお得なポイントに引き寄せられて「楽天カード」に入会するというケースは、誰もが予想できるだろう。
しかし、この逆にあたる「楽天カード」から使い始めるユーザーが多いことは、意外と知られていない。実は、初めてクレジットカードを持とうとする学生は、審査が通りやすいといった理由で「楽天カード」を選ぶ確率は非常に高いのだ。そうして「楽天カード」を普段使いするうちに、ネットショッピングは「楽天市場」を選ぶようになるというわけだ。

弊社が行った消費者行動調査のうち、「楽天経済圏のサービスをどの順番で使い始めたか」というアンケートでは、1番目に使い始めたサービスが「楽天市場」と「楽天カード」に大きく二分する結果となった。この2大キラーサービスは、楽天経済圏への入り口として機能しており、顧客のシェア拡大に大きく寄与しているといえるだろう。
2大キラーサービスを使っているユーザーが「楽天銀行」や「楽天証券」も使い始めることで、一気に利用サービスが増えていくケースも多く、フィンテック系のサービスが経済圏へ囲い込むことに効果があることもわかった。

 以上3点の強みから、楽天経済圏はユーザーに高い価値を提供し、さまざまなサービスで囲い込むことに成功しているといえる。上述した消費者行動調査でも、その裏付けとなる分析結果はいくつも得られた。
例えば、旅先のホテルを予約する際、一般的には“地名”と“ホテル”などでWeb検索するものだが、楽天経済圏の住民の場合はまず「楽天トラベル」にアクセスし、サイト内だけでホテルを決めてしまう可能性が高いことがわかったのだ。

楽天経済圏の住民は、できる限り楽天のサービスを使うことが習慣化している。この習慣化こそが、ユーザーを経済圏に囲い込むことができた結果なのであり、楽天が経済圏プラットフォーマーとして高い完成度を誇っているといえるだろう。

プラットフォーマー成功の鍵は参入障壁を作り上げること

 楽天が創り上げてきた経済圏は、他社が真っ向から対立する気にはならないほど、高い参入障壁を誇っている。楽天ポイントを超えるようなサービスを、新たに作り始めようとする企業はほとんど皆無といっても良い。

そういった意味では、楽天は自ら参入障壁を築き上げているということだが、これこそがプラットフォーマーが勝ち残るための重要な鍵であるのだ。
そして、参入障壁をさらに高くするためのコツは、金融にもサービスを侵食させ、経済圏内でお金の流れまで掴んでしまうことである。消費者の収入や決済情報といったお金の流れを掴むことができれば、消費者行動の入り口と出口を把握することができるため、サービスの付加価値を進歩させることにつながるからだ。
そして、経済圏を築き上げようとしている企業のなかで、楽天ほど金融に力をいれてきた企業はいないといえる。楽天経済圏のなかには、楽天銀行、楽天証券、楽天生命、楽天損保など、Fintechを軸としたオンラインに強い金融サービスが揃っており、お互いがシナジーを発揮することでユーザーの囲い込みに効果が出ているのだ。

例えば、「楽天市場」や「楽天カード」の購入履歴と、「楽天銀行」の口座残高や給料予測のデータを見比べることによって、そのユーザーの返済能力などが浮き彫りになる。残高が少なくなっている時には、リボ払いに変更するような提案までできてしまう。逆に残高が着実に増えている場合には、「楽天証券」の金融商品をお薦めすることもできるだろう。
金融関連にも侵食することで、ユーザーよりも先に金回りの状況を察知し、より便利なサービス使いを提案できるのだ。

また、プラットフォームは大抵の場合、いきなり汎用的なものを目指しても上手くいかないものであり、最初に始めるサービスは尖った領域から始めることが肝要だといえる。最初はターゲットを絞り込み、圧倒的な価値を提供することで徐々にシェアを拡大していくのだ。そしてある程度のシェアを獲得した先は、サービスを拡充していくフェーズへと移行していき、プラットフォームはより汎用的なものへと変化していく。

これを踏まえて考えると、楽天はまず「楽天市場」や「楽天カード」でシェアを獲得し、少しずつサービスラインナップを拡充してきた。そのうえで汎用的なプラットフォームを創り上げたのが現在の楽天経済圏の姿だ。楽天経済圏が築いた参入障壁は、Eコマースやポイントの圧倒的シェアだけではなく、汎用プラットフォーマーとしてユーザーの生活に寄り添えることに、他の追随を許さない真髄があるといえるのだ。

第3のキラーサービスとなる「楽天モバイル」が始動

 そして、楽天経済圏を更に盤石なものとする次なる一手が「楽天モバイル」であるが、2021年4月時点ではまだ契約申し込み数が390万を突破したに過ぎない。

2020年12月時点、日本の携帯電話・PHS契約数は1億8662万であるため、他の3キャリアとのシェア争いはあまりにも大きな差があることがわかる。

 新参である楽天モバイルは、まだ圧倒的に通信インフラの整備が追い付いておらず、4G基地局数の増加が喫緊の課題となっている。また、4GにあたるLTEの周波数割り当てが限定的であり、電波が屋内にも届きやすい「プラチナバンド」が割り当てられていないことは、他キャリアと争ううえでは正直厳しい状況にあるといえる。
 ただ、楽天モバイルは後発であるがゆえに、他社の後追いをするのではなく、いかにも“ディスラプターらしい戦術”で攻めているというのが印象的である。その顕著な例が、「日本のスマホ料金は高すぎる。」から始まる挑戦的なTVCMであろう。データ利用量が無制限であっても、月額料金がたったの2,980円という、業界水準を大きく下回る価格を打ち出した。
そして更に注目すべきなのは、2021年4月1日からスタートする新プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」だ。データ利用料が1GB以下ならなんと0円、3GBまででも980円という驚きの安さであり、まるでスマホをばらまくかのような戦略を展開している。
 一方で、他の3キャリアが新料金プランで大きく値下げしてくることは予期していなかったのではないだろうか。3キャリアはいずれもデータ利用量に制限があるプランに限られてはいるが、安さを売りにする戦略に陰りが見えてしまうことは否めない。今後どのような戦略で挑んでいくか、楽天の動向から目が離せない。

なお、通信インフラが追いついていない現状に対して、楽天モバイルへの移行を検討している消費者の心情は、「お得なのは興味があるが、ちゃんと電波はつながるのだろうか」といった不安が大きいであろう。
ただ現状では、楽天モバイルを使っているユーザーの多くが、意外なほど快適に使えているという感想を口にしている。「電車移動中でも回線が途切れる印象がない」、「使い放題なので家の中ではテザリングとしても使っている」といった意見が出ており、楽天モバイルに好意的な口コミが広まっている。

しかしこれには理由があるため注意が必要だ。現在快適に使えている楽天モバイルは、ドコモ回線とau回線を借りているMVNOサービスだからなのであり、楽天の通信インフラが整っていると勘違いしてはならないのだ。そして、圧倒的安さで宣伝している新プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」は、楽天の回線を使用するMNOサービスとなる。つまり、圧倒的な安さと好意的な口コミに誘われて楽天モバイルに切り替えていくユーザーは、“つながりにくさ”を体感してしまう可能性が高いということだ。

現状はブランディングの効果も出ており、当初計画を上回る勢いで契約申し込み数が増えている。楽天としては“つながりにくい”というマイナスイメージが広がるリスクをおさえるために、4G基地局をどれだけ整備できるかが最重要課題であり、しばらくは全力で投資を続けていくことになるだろう。

「楽天モバイル」をフックに拡張する経済圏エコシステム

 上述した通り、現状の設備でMNOサービスを行う楽天モバイルは、ユーザー満足度を下げてしまうリスクを孕んでいるが、それでも「Rakuten UN-LIMIT VI」の“0円プラン”戦法は、通信業界をディスラプトする可能性を秘める。後発である楽天モバイルが、何よりも欲しいのは顧客シェアであるため、当面の間はモバイル事業で儲けることを放棄した形なのであろう。

「1GB以下であれば0円」というこのモデルが示唆しているのは、「他キャリアと2台持ちでも良いので、まずは手元に置いてください」という戦法と捉えることもできる。楽天経済圏の住民にとりあえずスマホを持ってもらい、楽天モバイルの利便性やお得な価値を徐々に実感していってもらうことを狙っているのではないだろうか。

通信品質を安定して提供することは通信キャリアの重要な責務であるため、整備が追いつくまでは、長年使いなれた他キャリアから楽天モバイルへ移行してもらうのは、極めてハードルが高いことだといえる。だからこそ、2台目でも良いのでまずは“持ってもらう”ことを目標とするのは攻略法として悪くない。
まずはユーザーに選ばれるための土俵に立ち、通信インフラが整ってきた段階で差別化を図ろうという戦略ではなかろうか。このような腰を据えた戦い方ができるのは、Eコマースと金融を筆頭に十分な収益を上げてきた楽天経済園ならではであろう。

2021年3月に発表された日本郵政との業務提携は大きな話題となったが、これによって日本郵政から1,500億円もの額を調達できる。加えて、中国デジタルを牽引するテンセントと、DXで世界的にも注目されるウォルマートからも出資を受けるとのことで、調達額は合計すると2,400億円にものぼる。そしてこの全てがモバイル事業の投資に充足されるのだが、うち1,600億円は4G基地局の整備に使われるという。まずは全力で他キャリアの“現状”に追いつくのが先決ということだろう。

通信インフラが整備されていけば、「楽天モバイル」は楽天経済圏の3つ目のキラーサービスとして君臨することになる。「楽天市場」、「楽天カード」、「楽天モバイル」の3つの入り口から経済圏に取り込み、この3つを軸としたサービス間の相互シナジーでユーザーを囲い込む。

 その先に見据えるのが、他社を巻き込んだ経済圏エコシステムの拡張だろう。例えば日本郵便と協業することで、「楽天市場」の物流は大きく進化するだろう。郵便局にのぼりの旗を立てれば、「楽天カード」や「楽天モバイル」の加入者は更に増やせるようになるはずだ。

汎用的なプラットフォームとなるまでサービスを拡充してきた楽天経済圏だからこそ、ユーザーを囲い込み、ユーザーの生活に寄り添うことができるようになった。だからこそ、今後他業界も巻き込んだエコシステムへと拡張していけば、多くのリーディングカンパニーまで囲い込んでいくことができるだろう。この巻き込み力こそが、楽天経済圏の強みを表しているといえそうだ。


画像クレジット:Sulastri Sulastri / Shutterstock.com

執筆者 Profile

チーフエバンジェリスト / デジタル・イノベーション・ラボ所属八木 典裕

専門分野
DX戦略、DX人材育成、デジタル部門創設、新規事業立案、デザインシンキング、ブロックチェーン、ドローン

当サイト編集長。大手IT企業を経て現職。
2016年のデジタル・イノベーション・ラボ創設時からデジタルの専門家として活動し、DX関連の様々なプロジェクトを主導。R&Dの調査・研究、DX戦略立案、DX人材育成、新規ビジネス創出などのテーマに携わる。ブロックチェーン、AIの技術研究や実証実験もリード。
主な著書に『デジタルトランスフォーメーション』、『 3ステップで実現するデジタルトランスフォーメーションの実際』、『データレバレッ ジ経営』(共著/日経 BP 社)、『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)などがある。

マネージャー中原 柊

大学卒業後、現職。
メディア、Webサービス、通信、商社、消費財などの業界を中心に、 DXや新規ビジネスの企画・立ち上げなどのテーマに従事。 デジタル・イノベーション・ラボと協力し、デジタル技術やデータを活用するプロジェクトを多数手掛ける。

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