”経済圏”と聞いて思い浮かべる企業No.1は楽天ではないだろうか。事実として、経済圏の完成度はSRADの中でも群を抜いているのだが、それを裏付ける背景は3点ある。
① 「EC」、「クレジットカード」の2大キラーサービスと、双方のシナジー
EC領域においては「楽天市場」、決済領域においては「楽天カード」というキラーサービスを持ったことが大きい。そして、ECとクレジットカードは相性が良い。「楽天市場」は「楽天カード」で決済するとポイント還元率が高くなるように設定されているが、これが普段「楽天市場」でショッピングしている人にとっては「楽天カード」を使い始めるインセンティブとなる。逆もしかりで、「楽天カード」を普段使いしている人は、ネットショッピングする際に「楽天市場」を選んでくれる傾向にある。このように、ECからでもクレジットカードからでも、どちらからでも相互利用にたどり着き、自然と楽天ポイントが貯まっていく。これが、消費者が楽天住民化する最も一般的な入口だ。
② 楽天系サービスへの相互送客の仕掛け
相互送客への仕掛けも確立している。その代表例が「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」だ。楽天系サービスを複数にわたって利用すれば、「楽天市場」でのポイント還元率がアップする制度である。例えば「楽天トラベル利用月は+1%」、「楽天銀行+楽天カード利用者は+1%」、「楽天証券利用者は+1%」という具合だ。
③ 分かりやすく統一されたサービスブランド
ほとんどの楽天系サービスには、「楽天」や「Rakuten」が名前に入っており、統一されたサービスブランドを感じられることも大きい。消費者は、サービス名に付く「楽天」の冠を見るだけで、楽天スーパーポイントが貯まるサービスであることを認識できるのだ。このような”分かりやすさ”を実現するため、楽天はサービス名に「楽天」の冠を付けることに強い拘りを見せる。
以上①から③の効果もあり、楽天経済圏住民のロイヤリティは非常に高い。
弊社の実施した消費者行動調査の一部がそれを示している。ホテル・宿を予約する際、楽天経済圏住民ではない人の多くは、「地名+ホテル」等でWeb検索し、上位に表示された順にアクセスするのが普通であった。
一方で楽天経済圏住民は、以下のどちらかに当てはまることが多かった。
1. 直接「楽天トラベル」にアクセスし、サービス内でホテル・宿を検索
2. 「地名+ホテル」等でWeb検索し、上位に表示された「楽天トラベル」のページにアクセス
楽天経済圏住民は、出来る限り楽天のサービスを使うことが習慣化している。ここまで巧みに経済圏を形作ることができた主な背景には、「楽天市場という創業事業が、キャッシュカウとなれたこと」、「他企業に先んじてポイントプログラムを中心とした経済圏化を意識し、ノウハウやデータを貯めてきたこと」、「三木谷会長兼社長のトップダウン型意思決定により、サービス横断的な施策を機動力高く実現できたこと」といった点があると考えられる。
ただし、いくら楽天経済圏住民のロイヤリティが高いとはいえ、どんなサービスでも使ってもらえる訳ではないことは付け加えておく必要がある。弊社の消費者行動調査で分かってきたことだが、経済圏住民は “手間”は許容してくれるが、”商品価値の棄損”は許容してくれない。
例えば、経済圏住民は「別の銀行口座から楽天銀行の口座に、給与の支払いを切り替える」、「楽天市場の還元率を上げるために、毎月楽天証券で小額のポイント投資を行う」といった”手間”をかけることは厭わない傾向にある。しかし、「楽天ビューティーを使っていたが、掲載店舗数が少ないため離脱した」、「楽天モバイルは通信がつながるかどうか心配なので、他社から乗り換えるべきか様子見している」といった声も非常に多く、品質に目をつぶって「楽天のサービスだから使う」とはならないのである。
あくまでサービス品質は地道に、そして真摯に磨く必要があることを裏付けている。