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【第1回】迫りくる大経済圏時代

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2020年代の国内コンシューマー市場は”大経済圏時代”へ

GAFAに代表されるディスラプターの脅威が叫ばれて久しいが、国内コンシューマー市場では依然として様々な国産プレイヤーが活躍している。しかし2020年代には、より直接的、攻撃的に多くの企業にとって脅威となる新たなディスラプターが登場し、コンシューマー市場は一変するだろう。新たなディスラプターは、おそらく国内からやってくる。

海外のデジタルディスラプターの脅威は声高に叫ばれてきたが、実はコンシューマー市場において、国産プレイヤーが本当に駆逐された例は多くない。今後、コンシューマービジネス全体を真っ向から潰してくるのは、国産のディスラプターである。なぜならば、彼らは日本の消費者の特性や行動を熟知しており、サービス提供に必要となる様々な企業とも連携しやすいからだ。ちなみに、GAFAが本気で日本に乗り込めば国産プレイヤーは駆逐されるのではないかといった議論もあるが、今のところ彼らにその兆候はあまり見られない。

国産ディスラプターの代表格が、独自の経済圏を創っている楽天等の『経済圏クリエイター』である。彼らはコンシューマー領域において、あらゆるサービスを揃えた連合体を加速度的に拡大・強化させている。日本でコンシューマー相手にビジネスを行う場合、彼らを無視して生き続ける企業は、ほぼいなくなるであろう。

そのようなうねりを起こす経済圏クリエイターの最有力候補として、ソフトバンク・楽天・au(KDDI)・ドコモの4社が挙げられるため、本連載では各社の頭文字を取ってSRADと呼びたい。「経済圏とは一体何なのか?」「なぜSRADが最有力で、彼らの戦場はどうなっていくのか?」について、第1回では概観する。

これからの経済圏は、単なる”ポイント経済圏”ではない

これまで経済圏と言えば、主に共通ポイントプログラムで連帯されたサービス群を指し、現に”ポイント経済圏”とも呼ばれてきた。ついついポイントを目当てに経済圏内で消費してしまう、といったことがこれまでの経済圏住民の行動であった。

しかし、これからの経済圏において、消費者の目当てはポイントのみに留まらない。ポイントプログラムはもはやサービス群を連帯する経済圏インフラの一つに過ぎず、他にも以下①~⑥のインフラで連帯されていくことになる。例えば、消費者は「②統一アカウント」「③統一決済」により、サービス利用時の煩雑なアカウント登録や決済手段登録等から解放される。経済圏内で消費すれば、よりオトクなだけでなく、より便利な顧客体験も得られるのだ。

上図の内、直近では直接的便益を消費者に与えられる「①ポイントプログラム」、「②統一アカウント」、「③統一決済」が消費者に刺さりやすい。経済圏クリエイターは、これらを武器に、多様なサービス群を構成して、経済圏内流通額の最大化を目指す。消費者を経済圏の中へ囲い込み、ついつい色々なサービスを使ってしまう人を増やしていこうとするのだ。

日本で経済圏を形成する有望プレイヤーは、”SRAD”である

前述したとおり、経済圏には経済圏インフラが必要であり、その中でも直近は「①ポイントプログラム」「②統一アカウント」「③統一決済」が重要であった。これらに照らし合わせると、経済圏クリエイターとして成功するには、以下A.~C.をおさえることが不可欠である。

A.    安定してキャッシュカウとなるサービスを持っていること
B.    日常的に消費者が利用するサービスを提供していること
C.    顧客接点となるチャネルを持っていること

A.B.があることで、「①ポイントプログラム」が盤石となる。C.があることで、自経済圏の「②統一アカウント」「③統一決済」を消費者に根付かせやすい。古くから経済圏化を狙ってきた楽天は、楽天市場や楽天カードを持つため、条件A.~C.をクリアしている。更には、3大通信キャリアも概ね上記に当てはまり、現に彼らは経済圏化の動きを強めている。通信キャリア各社はフィーチャーフォン全盛期から、iモードやezwebの中でサービスラインナップを広く展開していたという強みも持つ。

その他の勢力に目を向けると、次々とサービスラインナップを拡充してきたLINEは、キャッシュカウとなるサービスを作り切れなかったため、独自での経済圏化は難しかったのだろう。そのため、資金力の豊富なソフトバンクとの統合を迫られたと推察される。

今後はSRAD4社が中心となり、国内の経済圏勢力争いが進行していくと見られる。楽天も通信キャリア事業に参入したため、経済圏クリエイター=通信キャリアの構図が完成した。彼らはこれまで通信キャリア領域で1億の日本国民を分割したが、今後はあらゆるコンシューマー領域でシェアを奪い合うのである。消費者としては、複数の経済圏に所属することが当たり前となるかもしれない。

経済圏化に向けた前哨戦が、QR決済領域であった

SRADの経済圏拡大は既に始まっており、その代表例は混戦を極めたQR決済市場だろう。

”猫も杓子も”状態であったこの領域は、2019年度後半から一気に収束化した。いち早く勢力を拡大していたLINE PayとPayPayは統合することとなった。また、最古参のOrigamiを吸収したメルカリは、ドコモと協業している。結果、大手のQR決済プレイヤーは、既にSRADに収れんしたと言える状況である。

ソフトバンク(PayPay)、楽天(楽天ペイ)、ドコモ(d払い)に加え、鳴りを潜めていたau(au PAY)も動き出した。本年2月より『au PAY 誰でも!毎週10億円もらえるキャンペーン』で、一気に自社キャリアユーザー以外の消費者も取り込もうと動きはじめ、いよいよSRADの争いは本格化した。このような戦いが、今後他の市場でも見られることだろう。

経済圏クリエイター”SRAD”の目指す戦場

~これまではEC / 金融領域が主戦場。次は、ライフスタイル領域に~

SRADが争う主な戦場(サービス領域)と戦況を整理すると、以下の通りである。
経済圏クリエイターの活動目的は、「経済圏内の流通額」最大化であった。「経済圏内の流通額」を分解すると、「経済圏住民の数 × 1住民あたりLTV(サービス利用単価 × サービス利用頻度)」となる。この内、真っ先に重要なのは頻度である。利用頻度の高いサービスから順に戦場となると考えられ、現に通信以外では金融 / EC領域がこれまでの主戦場だった。
例えばEC領域に着目すると、ソフトバンクグループによるZOZOTOWN買収や、メルカリとドコモの業務提携により、Amazonを除けば実質SRADが制圧したと言える。

次の陣取り合戦は、ライフスタイル領域(外食 / 旅行 / サロン検索や、配車 / フードデリバリー等の生活消費領域)である。ここでは、リクルート系やUber系等、経済圏には属していない”独立系プレイヤー”も活躍している。2020年は、SRADに代表される“経済圏クリエイター”と“独立系プレイヤー”の陣取り合戦が激しくなる年と予想する。

第1回は、経済圏について概論してきた。次回以降は、SRADの動向や彼らを取り巻く環境分析を通して、コンシューマー市場の将来像を描きつつ、独立系プレイヤーの対抗策についても考察していきたい。

マネージャー 中原 柊

大学卒業後、現職。
メディア、Webサービス、通信、商社、消費財などの業界を中心に、 DXや新規ビジネスの企画・立ち上げなどのテーマに従事。
デジタル・イノベーション・ラボと協力し、デジタル技術やデータを活用するプロジェクトを多数手掛ける。

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