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デジタルを活用した「治療」の高品質・低コスト化

Featruesテーマ別特集

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デジタルの力で大きく変化する創薬コスト

まず「医薬品」であるが、製薬会社は医薬品を研究開発して市場に出すまでの間に莫大な時間とコストを費やしている。

一般的には1つの新薬を開発するために、2000億円以上の費用と約13年の期間がかかり、基礎研究段階から見た成功確率は2万~3万分の1といわれている。そして、これらのコストは年々上昇する傾向にある。製薬会社は、開発過程でとったリスクやかけた費用を回収するために、高額の薬価を製品に設定するが、これが日本の医療財政を圧迫することになる。

以前にも小欄で紹介したが、アルツハイマーや一部のがん等におけるアンメット・メディカル・ニーズ(UMN)に対応した新薬の開発は特に難易度もコストも高い。従来の低分子構造の化合物ではUMNを満たせないため、バイオや細胞医薬品等高分子構造の次世代医薬品開発が求められるためだ。こういった状況の中で、AI等のデジタル技術を活用して、創薬期間を短縮化しコスト削減につなげようとする動きがある。

2019年10月、富士通や武田薬品工業、京都大学など国内の約100の企業や研究機関からなる研究グループは、多数のAIを組み合わせて創薬効率を高める基盤技術を開発したと発表した。製薬会社はスーパーコンピューターを使ったシミュレーション(模擬実験)などを行っていたが、総当たりでの検証では計算量が膨大なため予測精度に限界があった。

そこで、検証する組み合わせを絞り込むためにAIを使って計算量を抑え、新薬候補となる化合物を効率よく探したり、最適な投与法を見つけたりしやすくした。

このような「AI創薬」により、創薬期間の短縮とコスト削減を実現しようとしているのである。

AIで創薬を効率化
引用:2019/10/7 付 日本経済新聞記事
また、AIは既存薬を他の病気の治療に転用する「ドラックリポジショニング」にも応用されている。日米などで整備が進んでいる既存薬の効き目、副作用、投薬の結果としての遺伝子の変化等のデータベースを活用し、AIで新しい効果の予測を行う。

例えば、九州工業大学では約7000種の薬について別の効果を予測し、細胞実験で数種類の効果を確認することに成功。近畿大学もデータベース解析により、心臓病薬ががんリスクを下げる効果があることを発見している。この「ドラッグリポジショニング」であれば、前述の創薬コストを開発費用約300億円、開発期間6年以下に圧縮することが可能とする試算もある。

また、投薬の場面でも技術革新が進んできた。例えば、病気が「がん」の場合、抗がん剤等による化学療法をとることも多いが、これまでの抗がん剤投薬はトライ&エラーが主であった。この方法では効き目が出ずに治療が長期にわたったり、多くの抗がん剤を服薬しなければならなかったりしたのだが、最近は、「がん遺伝子パネル検査」によってがんの遺伝子情報を網羅的に解析。カギを握る遺伝子異常をターゲットとする薬(分子標的薬)の投薬につなげることが可能になっている。

この遺伝子検査を可能にしているのが「次世代シークエンサー」という装置である。ヒトゲノム解読に2003年に成功した国際プロジェクトでは、塩基配列の解読に13年という時間と、30億米ドルもの費用を費やしたが、これに対し「次世代シークエンサー」では、1000米ドルほどの費用と数日の期間で解析が可能となっている。これらの技術革新によって、患者の負担軽減や治癒率の向上、ひいては医療コストの削減が可能となってきている。

手術ロボットは医師のパートナーになり得るか

「手術」にもデジタルの流れが押し寄せている。手術用ロボットとして圧倒的な世界シェアをおさえ、日本でも手術実績が急増しているインテュイティブ・サージカル社の「da Vinci(ダ・ヴィンチ)」がその代表例であろう。ロボットといっても医師に代わって自動的に手術を執刀する訳ではなく、医師が腹腔鏡手術(胸腔鏡手術)を行う際に操作する支援型ロボットである。

では約3億円もするこの手術支援ロボットは、どのような「高度化」「コスト削減」を実現するのだろうか。

腹腔鏡手術をする際には、まず1~2cmの小さな手術創(傷口)を腹部に作り、そこに内視鏡カメラとロボットアームを挿入し、遠隔操作で医師が手術を行う(上記左の写真)。

医師は3Dモニター画面を見ながらあたかも術野に手を入れているかのようにロボットアームを操作して手術を行うことができる。写真を見てお分かりの通り、医師は座りながら手術を行うことが出来る。長い手術だと何時間にも及ぶ手術となり、医師や看護師は立ちっぱなしで相当な体力的負担が伴うが、手術用ロボットによる手術であれば術者の負担を大きく軽減することができるのだ。

また、旧来の人の手による手術の場合、ヒトの手の関節の構造上どうしても動きが限定されてしまうが、手術用ロボットであれば「回転」など、ヒトの手では不可能な動きを使って高度な施術を行うことができる。

更に、人間の手術ではどうしても手の「震え」があり、血管等の細微な施術にはリスクも伴うが、手術用ロボットでの施術では、操作レバーを大きく動かしてもスケーリング機能でアームの先端は数センチしか動かないようになっており、「震え」などの影響を減殺することが出来る。

こういった技術革新によって、従来は開腹手術が必要だった患者の負担は激減している。数カ所の手術創を作るだけなので、術後の回復も早く、退院も早めることが出来るからだ。現在は手術費用も高く、また準備に時間がかかることから緊急手術には向かないが、今後もロボットを活用した手術実績は着実に増えていくだろう。

引用:聖路加国際病院資料
更に昨今、手術室をまるごとデジタル化やIoT化させる動きもある。

2019年度に事業化を目指す次世代のスマート治療室「SCOT」(Smart Cyber Operating Theater)は、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が主導し、東京女子医科大学、信州大学等の5大学、デンソー、日立製作所など企業11社が共同で推進している最先端治療室開発プロジェクトである。

スマート治療室は、IoTを活用して各種医療機器・設備を接続・連携させ、手術の進行や患者の状況を統合把握することにより、手術の精度と安全性を向上させる最先端の治療室だ。

例えば東京女子医大に設置された「SCOT ハイパーモデル」の手術ナビゲーションシステムには手術中の患部が大きく写し出されるとともに、メスを動かした軌跡(トラッキング)や、切除した部位などが記録される。それと同時に戦略デスクにはその映像がリアルタイムに送られ、遠隔地から別の医師や識者、研究者などのアドバイス等を得たり、音声でオピニオンを仰ぐことができる。戦略デスクから各種データベースにアクセスして、多くの症例や過去の事例などを参照しつつ、最適な手術を行うための情報支援が可能となっている。
写真と文の引用:ロボスタ
このように、デジタルの活用により「医薬品」や「手術」の高度化が大きく進められている。

現在は「コスト」の観点では課題を残すものも多いが、将来的には治癒の早期化や健康寿命の長期化で、コスト削減や健康保険財源の確保につなげられるだろう。

これまで、

  1. 第一に病気やケガをしない
  2. 病気やケガの診察コストを下げる
  3. 病気やケガをした場合の治療コストを下げる

をテーマに話を進めてきた。

本シリーズの最終回として次回は、デジタル技術をスムーズに医療高度化につなげていくための「越えなければならない壁(課題)」について考えていきたい。

執筆者 Profile

パートナー大野 伸一

専門分野
事業戦略、新規事業立上げ、IoT、BPR

大手証券会社、銀行、外資系コンサルティングファーム等を経て、ベイカレント・コンサルティングに入社。
金融機関、商社、メーカー等の広範な業界を対象に、経営戦略の策定や事業参入戦略、広告・マーケティング戦略、業務プロセスや内部統制等の改善、次期業務基幹システムの構想策定等の多数のプロジェクトに従事。

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