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なぜ政府の新型コロナウィルス対応には否定的な声が多いのか?企業が同じ轍を踏まないための心得

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一体誰に向けたメッセージなのか?

政治家のインタビューを聞いていると、国民に向けたメッセージになっていないと感じることが多い。

目の前にいる記者からの質問に答えるだけでは、まるで記者に言い訳しているかのように見える。そこには、メディア側の揚げ足を取るようなやり口もあるため、仕方のない部分はある。たった一つの失言で政治生命が失われる可能性もあるせいか、リスクを取らない発言になりがちだ。その結果、本来意図している内容を届けられず、国民にははぐらかされているような気分を抱かせてしまうのだろう。

またコロナ対応として、いくら安倍首相が思い切った対策を打ち出したとしても、なぜその対策を取る必要があるかの理由が不明確であれば、世間は否定的な反応を示すことが多い。
4月1日に発表された、布マスクを全世帯に2枚ずつ配る件などは典型的な例だろう。対策の主目的が伝わらず、「サイズが小さくて口が隠れない」、「何で2枚だけなのか」といった多くの否定的な意見が記事になった。まるで、そんな対策やらない方が良いという反応を示した記事すらあった。世界保健機関(WHO)が文書で「布マスクはどんな状況でも勧めない」と報告した内容などは、その決定的な否定要因として広まってしまった。
しかし、布マスクには「再利用可能」、「のどや鼻の保湿」、「せきやくしゃみによる飛沫の飛散防止」、「手指が鼻や口に触れることの防止」といったメリットがあるため、布マスク配布の対策を全否定してしまうのは、正しくない判断だ。

問題の根幹は、国民に安倍首相の真意が伝わりきっていないことにありそうだ。新型コロナウィルスという想像を超えた国難を乗り切るためには、日本のトップが国民にストレートな表現でメッセージを発信し、国民の心を一つにまとめていかねばならない。
例えばシンガポールのリーシェンロン首相が2月8日に発信したスピーチは、カンペも使わず自分の言葉で伝えた内容として、高く評価されている。国民を励まし、「新型コロナウィルスにともに立ち向かっていこう」という強いメッセージが込められていた。それを聞いた国民は勇気をもらい、感動する声も多かったという。ドイツのメルケル首相が3月18日に行った演説も、明確で感動的な内容であったと評価されている。連邦政府ができる限りの役割を果たすことを約束し、自分自身も全力を尽くすことを、自分の言葉で訴えた。この演説はドイツ国民の心を十分に揺り動かすものであっただろう。

今はデジタルコンテンツによって、演説した内容がすぐさま世界中に拡散される世の中だ。SNSを使えば、いくらでも自分の言葉で伝えることができる。デジタル化の進む現在は、トップのメッセージは非常に大きな影響を与えうることは覚悟しておく必要がある。

正直で説得力のあるメッセージが求められている

ただ、直近の安倍首相の発信内容を見ていると、徐々に変化が表れているように感じる。
例えば4月17日の会見で、国民1人当たり現金10万円を給付することを発表した際は、安倍首相がカメラの向こう側にいる国民に向けてメッセージを伝えている様子が見てとれた。前日までの「減収世帯への30万円給付」から急に方針転換したことに対して、素直に陳謝する場面は、多くの視聴者が好意的な反応を示した。更には、これからの難局も専門家と相談しながら対応していくという努力を告げたことも高評価であった。
正直で説得力のあるメッセージは、必ず聞き手の心に響くものだ。我々国民としては、マスコミのネガティブなフィルタを介した報道に惑わされることなく、正しいことは正しいと自ら判断することも必要ではなかろうか。

企業においても同様のことが言える。伝え方を間違えなければ、正直で説得力のあるメッセージが、コロナの影響で甚大な被害を受ける企業に必要な潤滑油となる。経営層が自らの言葉で強い想いを社内に発信していくことが重要となっていくだろう。
繰り返しになるが、デジタル化が進む現在では、企業のトップは社員と直接会話するような感覚で発信するくらいが丁度よい。

意志のこもっていないメッセージは他責の連鎖を生み出す

そもそも企業の経営が上手くいくためのトップのあり方として、大きく2つのパターンがあり得る。強烈なリーダーシップを発揮するパターンか、部下のリーダーシップを支援する(変に邪魔しない)パターンだ。ただし、コロナ対応に追われる現在の情勢においては、前者のリーダーシップを発揮するパターンでないと、会社を危機的状況から立て直すことは難しい。
つまり、企業のトップがリーダーシップを発揮し、 “正直で説得力のあるメッセージ”を発信していくことは不可欠となるのだ。もし意志のこもってないメッセージしか発信できなければ、社内には他責の連鎖が生まれる可能性が出てくる。
トップのメッセージが上手く伝わらなければ、社員に意志は伝播していかない。正しく上司から部下へと伝わっていかなければ、「うちの部下は与えられた仕事をこなすだけ」と文句を言う上司が増えていく。一方、部下の目線では、「上司が全然ビジョンを示してくれないから、どうすれば良いかわからない」と嘆くようになる。

企業の経営層としては、同じ轍を踏むと社員の信頼を失っていくものと覚悟すべきだ。コロナ対策として3密を避けるソーシャルディスタンスの必要性が呼びかけられているが、社員との心の距離まで遠ざけてはならない。言わばフィジカルディスタンスのみにしておこうということだ。
デジタル活用でリモートワークを推進していけば、物理的な距離の補完にはなる。しかし社員同士の心の距離まで離れてしまっては企業の団結力が弱まっていく。物理的には離れても、コミュニケーションが今まで以上に活性化している状態を作り出す必要がある。
経営層が率先してフィジカルディスタンスに取り組みつつ、“正直で説得力のあるメッセージ”を伝えていくことが、企業をOne Teamに導く鍵となるであろう。

取り戻せ、日本の武士道精神!

日本人は本来、“人のせいにしない”、“下手な言い訳をしない”という武士道精神が誇りの国だ。だが現在の社会人の多くが、自分のことを上手く主張できず、待遇に不満を募らせる悪循環に陥っている。
武士道精神のある日本人だからこそ、トップの発信で社内の意志を統一できれば、互いに尊重し合う強固な集団を形成できるはずなのだ。そのために足りていないピースは“誇り”だ。社員が自分ならびに自分の所属する会社に自信を持つことから始めていかなければならない。

企業のトップが率先して自信と秩序に溢れたメッセージを発信し、その想いを社員に浸透させていく必要がある。
SNSやYouTubeを使うと、若手世代はより聞く耳を持つ。社員との心の距離を縮めやすくすることにも、デジタル活用は効果を発揮するだろう。

トップが企業として実現すべきことを決め、まずは社内に宣言する。宣言することで腹を括り、そこから実現するための対策を検討していくのだ。対策を発表する際には、「何故そうするのか」の理由を伝えることも忘れてはならない。「反対意見にいちいち耳を傾けてはいられない」という考えで、決定事項のみ伝えるケースは多いが、それは平常時に限った話だ。非常事態においては、疑心暗鬼に陥った社員の気持ちは簡単にそっぽを向く。
社員の気持ちを一つにし、会社全体で腹を括ることができれば、一丸となって無理くりにでも実現する方法を検討し始める。内部で揚げ足を取るような蹴落とし合いをしている暇などなくなるはずだ。

トヨタの豊田章男社長が2020年1月9日に行った社員向けの年頭挨拶は、“正直で説得力のあるメッセージ”のオンパレードであった。豊田社長はラスベガスのCES2020にて、新たなコネクティッド・シティを作る「Woven City」構想を発表し、世界を驚かせたが、何とその1時間後には社員に想いを伝えるために日本にとんぼ返りしたという。
年頭挨拶の内容はトヨタイムズにて外部にも公開されており、私もその全編を拝見したが、あまりにも魂のこもったメッセージに外部の人間である私ですら心を打たれた。日本人として誇らしいと思えるほどの内容なので、是非ご覧いただきたい。
例えば、東富士工場を閉鎖することになった経緯を正直に伝えた点や、一番苦しみを味わっている東富士工場の人達に、その場所にコネクティッド・シティを作る構想を真っ先に伝えた点は、想いの強さが溢れていた。
また、トップとしてモビリティカンパニーにモデルチェンジすることを決意し、腹を括ったうえで見えない未来への道を必死に模索する姿を社員に見せていくことも、絶大なインパクトがある。トップの想いに同調し、自分も変わりたいという人間が増えるほど、会社の総合力は上がっていくであろう。

2019年ラグビーW杯で合言葉となった“One Team”。新型コロナ対応で苦しむ今こそ、最も必要な言葉ではないだろうか。内輪もめや蹴落とし合いは一旦止めて、 “One Team”となって新型コロナ影響に立ち向かえるようなリーダーシップが求められている。企業のトップは自らが思い描くストーリーに意志を込め、自分の言葉で社内に発信していけば、会社はトップに従うようになる。
社員としては「良いものは良い」、「悪いものは悪い」と正しく見極めることが必要だ。何でもかんでも否定的に受け止めているようではダメだ。正しい目を持ち、見極めることができるよう、一人ひとりが自らの仕事に意志をもって取り組む必要がある。最終的には自分達のリーダーに従い、ビジョンを達成するために全力を尽くすのだ。社員が一丸となって腹を括れれば、企業の総合力は各段に上がっていくだろう。

執筆者 Profile

チーフエバンジェリスト / デジタル・イノベーション・ラボ所属八木 典裕

専門分野
DX戦略、DX人材育成、デジタル部門創設、新規事業立案、デザインシンキング、ブロックチェーン、ドローン

当サイト編集長。大手IT企業を経て現職。
2016年のデジタル・イノベーション・ラボ創設時からデジタルの専門家として活動し、DX関連の様々なプロジェクトを主導。R&Dの調査・研究、DX戦略立案、DX人材育成、新規ビジネス創出などのテーマに携わる。ブロックチェーン、AIの技術研究や実証実験もリード。
主な著書に『デジタルトランスフォーメーション』、『 3ステップで実現するデジタルトランスフォーメーションの実際』、『データレバレッ ジ経営』(共著/日経 BP 社)、『DXの真髄に迫る』(共著/東洋経済新報社)などがある。

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