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【第4回】“2025年の崖”の本質的な問題と、もたらされる悪の正体

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DXの取り組みを阻む“2025年の崖”とは何者なのか?

 かねてより強まる一方であったDXの潮流は、新型コロナの影響により急加速し、政府や各企業の姿勢も“いつかやる”から“今やる”へと変化している。DXの取り組みを加速させている企業の多くは、弊社の唱えるDXへの3ステップに準えると、デジタルパッチからデジタルインテグレーションの領域に踏み出そうとしているわけだが、その前に大きな障壁となって立ちはだかるのが“2025年の崖”である。

 この2025年の崖を乗り越えるべく、多くの企業で大規模なシステム刷新プロジェクトが進行しているが、解決すべき問題の本質を正確に捉えている企業は少ないように感じる。そこで本記事では、2025年の崖の本質的な問題を整理し、企業にとってどのような解決法が必要かの方向性を示す。

 特に歴史のある大企業では、長年のビジネス成長に伴い、システムの増改築を繰り返した結果、システムが肥大化していることが多い。そのシステムのお守りにリソースが食いつぶされるため、攻めのITに取り組む余力が奪わる。つまり、老朽化と肥大化を繰り返したシステムが重荷となって、企業のDXに向けた取り組みを停滞させてしまうことが“2025年の崖”と言われている。

 しかし、これだけでは表面的な問題点を捉えたに過ぎない。この困難な“2025年の崖”を乗り越えていくためには、問題の本質をもっと深く理解しておく必要がある。

大企業が“2025年の崖”に呑まれていく流れ

 何十年にも渡って運用されたきたシステムは、地層のように蓄積された問題を抱えており、一筋縄では解決できないものだ。そのため、総論では「2025年の崖からの脱却が必要」という点に異論を唱える余地はなくても、各論に入ると途端に出口の見えない迷走が始まる。レガシー刷新の実装段階に入ると、膨大なリソース(費用/期間/人材など)が必要となるため、現行リソースでは対応が難しく、中途半端な検討を繰り返すケースが頻発するのだ。

 DXで結果を出そうと焦る企業は、そんな状況下でもデジタル化の検討は進めてしまうのだが、いずれ老朽化/肥大化した難解なシステムが障壁となって立ちはだかり、実装に踏み切れない状態で時間だけが過ぎていく。

 このように大企業が崖の前で足踏みしている間に、革新的な新サービスを掲げたスタートアップ企業が登場してくると、有望と思われたブルーオーシャン領域が侵食され、すぐにレッドオーシャン化してしまう。すると成長余地が限りなく小さくなり、検討中の新サービスにおける投資対効果は悪化していく。その結果、サービス自体が頓挫する場合もあるし、思い切って実装したとしても想定どおりの収益が上がらず“お荷物サービス”に成り下がることもあり得る。

「レガシーシステム=負の遺産」ではない!

 レガシーシステムが抱える問題が足かせとなってDXの取り組みが進まなくなるわけだが、一方で「レガシーシステム=負の遺産」と一括りで考える風潮には違和感を覚える。 “レガシー(Legacy)”は「遺産」を意味する言葉で、「世代から世代へ受け継ぐものごと」とされる。システムにおいて、レガシーという言葉は“時代にそぐわない古びたもの”という文脈で使われがちであるが、本来は伝統的な良い物に対しても使われるものなのである。

 私はこれまで数多くの基幹システムを見てきたが、その中には“これは美しい!”と感銘を受けた“古き良き遺産”ともいえるシステムがあった。それは、某小売りチェーンのシステムで、精緻な機能分割により各機能が疎結合となっていた。プログラムも限りなくシンプルな作りで、必要十分な機能のみを備えていた。

 そのシステムは大量データを日々、正確かつ迅速に処理しており、決して止まることなく稼働していた。特筆すべきは、そのシステムが老朽化の原因にされがちな “COBOL”言語で実装されていたことである。緻密な設計とこだわり抜いた開発により、ムダな贅肉が一切なく業務ノウハウが詰まったシステムは、数十年の時間を経ても色あせない輝きがある。洗練されたシステムで機能間が疎結合になっており、部分的に切り出してデジタルを進めることも可能なのである。古いシステムだからといって、必ずしもDX推進の障壁とはなるとは限らない。

 一方で、昨今のマシンスペックの飛躍的な進歩により、多少稚拙な設計でもシステムは問題なく動くため、新しいプログラム言語で実装されたシステムの中には、表面的には革新的でも裏側の造りは贅肉だらけといった、美しさを感じないシステムが多くなっている傾向も見える。

 つまり「レガシーシステム=負の遺産」と安直に考えるのではなく、数十年経っても良き遺産として誇れるように、設計/構築しておくことが重要なのである。

「システムの大規模化=肥大化」ではない!

 ビジネスが拡大すればシステムも大規模化するものである。加えてDXの潮流によって、業界の境目がなくなり、ビジネス領域が拡大、多様化する流れが進んでいる。そのようなビジネスを支えるためには、システムも比例して大きくならざるを得ないが、闇雲に増改築をしてしまうと出口の見えない肥大化した状態になるのは明白だ。

では、このシステム肥大化とは何かであるが、以下のような状態に陥ることだと定義することができる。

  • 無駄な機能やコードが多い
  • 各機能が密結合しており、機能追加/修正時の影響範囲が無駄に広い
  • プログラムロジックが無駄に複雑で、ブラックボックス化が進んでいる など

 

つまり肥大化したシステムとは、稚拙な設計の上に無秩序に膨張したシステムとすると合点がいく。美しく設計されたシステムは、大規模化したとしても肥大化にはならないのだ。

老朽化/肥大化が進行する流れと、もたらされる悪の本質

 老朽化/肥大化が問題となっているシステムも、最初はビジネス部門とシステム部門が協力し、思いを込めて生み出されたものであったはずだ。ただ数十年前に開発された当時は、開発環境が現在よりも脆弱であったため、小規模なシステムであらざるを得ず、少数精鋭で生み出すことが可能であったともいえる。

 そして長い年月をかけて企業が成長し、ビジネスが拡大していく一方で、当初のメンバーはいなくなり、システムに込めた理念などは薄れていく。すると、ビジネス部門にとってシステムは単なる道具に成り下がり、システム部門も“よりよいシステムを作り上げよう”といった熱意を失っていく。

 このような目指す姿を失った状態で、ビジネス部門からシステムの変更要望があがってきたとしたら、無秩序な機能追加/改修が繰り返され、煮ても焼いても食えない不格好で複雑な巨大システムが出来上がっていくことであろう。手に負えない巨大システムは金食い虫として厄介者扱いされ、「ITコスト削減」は経営にとっての至上命題になるというわけだ。

 意図せず出来上がってしまった老朽化/肥大化したシステムは、新サービスの追加が容易ではなく、コストや納期面でビジネスニーズに合わなくなる。そんなシステムを刷新しようにも、数十億から数百億円といった莫大なコストを要する問題を引き起こす。

 しかし、ここで改めて考えていただきたいのだが、コストが増大すること自体が問題の本質なのであろうか。私の考えはそうではない。コストは表面的な問題であり、もたらされる悪の本質とは、ユーザーが使いたくない(CXが低い)、システム開発者/保守運用担当が触りたくない(EXが低い)システムになってしまうことである。こうなってしまっては、DX推進を妨げる存在といえるだろう。

 大企業におけるDX推進は、CXとEXを如何に高めていくかにかかっているものだ。それなのに老朽化/肥大化したシステムがCXとEXを低下させてしまうのであれば、それは企業のDX活動をマイナススタートさせてしまうようなものなのである。つまり、DXの活動自体を停滞させてしまうといっても過言ではない。

 この悪循環こそが“システムの老朽化/肥大化がもたらす2025年の崖”の正体なのである。

 

 次回は、この悪循環をもたらす“2025年の崖”問題を脱するために、鍵となる“システム化構想”をテーマに考察する。良いレガシーをいかに作っていくべきなのかを解説していきたい。

執筆者 Profile

エグゼクティブパートナー山本 将之

専門分野
小売×DX、DX人材育成、CX思考、レガシー刷新

IT業務改革、DX推進などを強力にリードし、「日本企業をより元気にする」ことをモットーに、現場の一線で活躍するコンサルタント。
大手シンクタンクを経て現職。流通/小売/製造などの業務・システムに精通。
豊富なIT経験とDX知識を武器に、幅広い領域でのコンサルティングに従事。
主な著書に「デジタルトランスフォーメーションの実際」(共著/日経BP社)、 「DXの真髄に迫る」(共著/東洋経済新報社)等がある。

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