賽の河原化するPoCからの脱却一丸で取り組む、スクールウォーズ型PoC

日本企業でも当たり前に実施されるようになってきたPoCだが、その実態を見てみると、日本企業ならではの事情に起因する問題点が浮き彫りになってきた。ベイカレントは、それらを解決するために重要なポイントとして

1.協力が得やすいユースケースを策定する
2.ロードマップを描ききってからPoCを始める
3.取組みをスムーズに進めるための組織と制度を作り上げる

の3つを提唱している。

しかしながら、この3点を言葉通りに受け止めて実施しても、成功に繋げることは困難だ。

ベイカレントの実施したプロジェクトの学びから、これらを実現するために必要な要諦をご紹介する。
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2018.12.10

PoC実施にまつわる問題点

 前回、日本企業ならではの事情に起因するPoC実施にまつわる問題点を解決するために、以下の3点をポイントとして提示した。
  1. 協力が得やすいユースケースを策定する
  2. ロードマップを描ききってからPoCを始める
  3. 取組みをスムーズに進めるための組織と制度を作り上げる
 今回は、1、2の2点について説明してゆきたい。

1. 協力が得やすいユースケースを策定する

 PoC実施において、対象となるユースケースを選択する観点は、自社においてデジタル化を進めたい組織の立ち位置や影響力によって異なる。

 既に専任のデジタル組織が存在しており、充分な実績を積んでいる場合は、全くの新サービス提供や顧客とのタッチポイントのデジタル化と言った先進的でチャレンジングなユースケースを選択し、対象となる事業部とコンパクトな体制でPoCを実施した方が効率的と言える。前回の記事でも説明した「シリコンバレー型PoC」 だ。

 一方で、ほとんどの日本企業はその段階に達していない。デジタル組織が存在しないか、あったとしても"お試し"レベルのPoCに終始していて、実感できる効果を伴っていない。仮に先進的なチャレンジを実施しており、効果が出てきていたとしても、社内にはその内容が伝わっていない事も多いだろう。

 そのような場合には、CDOの下でデジタル化の「最初の1ケース」を全社横断で協力して実施し、成功体験を皆で共有することが重要だ。これにはデジタル組織では取りきれない責任を、複数の事業部で分散してフォローアップする意味もある。全員が1つを助ける「スクールウォーズ型PoC」と言えるだろう。大企業において「全社」というと理想論に聞こえるかもしれない。しかし、「キー部署になりうるところ全て」が実態であったとしても、デジタル組織が単体でチャレンジすることに比べれば、はるかに有意義な取り組みになるに違いない。

 その上で「スクールウォーズ型PoC」を機能させるには、誰もが受け入れやすいものを選択する必要がある。企業として置き換えると、誰もが、業務に大きな変更を加える事なく効果を期待できるユースケースという事になる。代表的なものが、全社共通の業務だ。

さらにA社においては、

全社的なコストカットの大号令の中で、PoCに対する投資をマネジメントに納得させる

という、ハードルの高い前提条件をクリアする必要があった。必然的に、比較的小さな投資で始める事ができ(リーン)、効果がコストカットの成果として目に見える事が要求される。

 CX向上を目的とした顧客向けの取り組みは、成功すれば大きなインパクトを産み出す可能性があることは事実だ。しかし、既存のCXを変えようとすると、前提として一定以上の投資が必要である。また、顧客とのタッチポイントがよほど大規模かつ洗練されていない限りは、フィードバックを得ることが難しく、PDCAを回しにくく、リターンの確度を予測しにくい傾向にある。

 一方、社内向けのサービスであれば、比較的フィードバックを得ることの難易度が低く、それだけPDCAを短いタームで回すことが可能だ。効果も、現状で把握できている業務に対する期待成果は測りやすく、ROIを比較的予測しやすくなるだろう。

 上記の要素を総合的に勘案し、A社においてベイカレントは、

社内の各業務において利用する膨大なマニュアルを、AIを活用して効率的に検索する

というユースケースを選択した。

 このユースケースであれば、事業部門からIT部門、サポートに至るまで、誰もが効果を実感できるだろう。

 1人ひとりに対するインパクトは、時間にすれば検索1回あたり5分程度だ、しかし、前述したように、デジタル化の初期段階においては全社の協力が優先される。薄く・広く、からスタートしないと、デジタル組織が認められるのは難しいのだ。

2. ロードマップを描ききってからPoCを始める

 ユースケースが確定しても、PoCはまだ始まってすらいない。よくあるケースとして、実施内容が決まったことで安心してしまい、トップがデジタル組織に丸投げしてしまう事が挙げられる。これでは、全社の協力どころか、デジタル組織の中ですら意識統一はできないだろう。

 すぐにベンダー選定や、データのサンプリングなど、手をつけやすい作業を始めてしまうのもNGだ。難しいことを、多くの関係者の協力を前提にして実施するのだから、当然ながらロードマップが必要だ。

 もちろん、ロードマップを全く作らずに取り組みを始める企業は少ないだろう。しかし、そのロードマップは、全社展開までクリアに想像できているだろうか?PoCでは効果が出ることを前提として、全社展開までをただフェージングしただけのロードマップになってはいないだろうか?

4つのSTEPからなるロードマップ

 我々はA社においては、大きく4つのSTEPからなるロードマップを作成した。
i   :PoCの企画
ii  :PoCの実施
iii :一部の事業部への試験的な導入
iv :全社への展開

i :PoCの企画

■最後まで描き切る
企画段階で重要なことは、最終的な目的。この場合は全社展開まで描き切ることだ。PoCを実施する事は、目的ではなく手段であることを意識し、効果が出るタイミングを定義する。前述のように、薄く・広く、の効果を期待するユースケースを選択している場合は特に、長い目で効果を測らないとROIが成立しない事が多い。PoCも中盤に入ったあたりで、

進んでいるのはいいが、このまま続けて本当に効果があるのか?

といったマネジメントの質問に答えられるようにしておくためにも、実施ステップごとのROIと最終的な期待成果は明確にしておかなければならない。

■言質を取る・取らせる
覚悟を形にしておく事も重要だ。社内で宣言し、マネジメントを巻き込み、承認を得て、マネジメントの言質を”取る”行動と、社外に対して発信し、世の中に言質を”取らせる”行動の両方が必要になる。特に後者があると、簡単には引き返せなくなる。

弊社は、20XX年までにXXXの成果を実現し、XXXを最大XX%削減する為に実証実験を繰り返してゆきます

といった形で、プレスリリースを打ってしまうのもいいかも知れない。

ii :PoCの実施

■効果検証の観点を明確にする
PoCの要件は、ベンダーに任せて中身だけ理解しておけば良い、などと考えてはならない。しっかりと、ユースケースにおいて達成したい成果(KGI)と、その結果に到るまでのプロセス(KPI)を細かく定義し、PoCの実施中も細かい効果検証のサイクルが回るようにしておく事が重要だ。

具体的には、A社における最終的な目標として、

社内システムにログインしたユーザーが、社内文書にアクセスしている時間を総量でXX%削減する

ことをKGIとした上で、以下3点をPoCで重点的に検証するべきKPIとして設定した。
  • 機械学習の検証環境における、電子化されている文書に対する自動タグ付けの精度
  • よく検索されている文書の、検証環境における検索時間の削減度合い
  • 実際の社内システムを想定した場合の、削減効果の再現性
これら3点がクリアされた段階で、新たに

紙媒体のOCR化による対象文書の追加はすべきか?

という論点が発生したが、上記の切り分けが個別に検証されていたことで、机上の検証段階でROIが不十分である事が明確になり、実施しない事を判断する事ができた。検証プロセスの明確化により、効率的なPoCを実施する事ができたのだ。

iii :一部の事業部への試験的な導入

■社内の反応を見極める
PoCがひと段落すると、次は実際の現場への試験導入になる。ここでは、例えば「効果の大きいところから」であったり、逆に「影響範囲の少ないところから」といった。ありきたりの判断基準で導入するターゲットを選択するのは危険だ。

「スクールウォーズ型」PoCを志し、数週間が経過した段階を考えてみよう。たとえ助け合いに励んだとしても、PoCはあくまでデジタル組織が実施している取り組みと周囲は認識し、他部署では内容の理解が進んでいないケースがほとんどだと考えるべきである。

しかし、それまでの取り組みの経緯を踏まえると、おそらく興味を持つ部署が出て来ているのではないだろうか。もしあれば、そこがファースト・ターゲットだ。

実のところ「スクールウォーズ型」を目指しても、真の「ALL for ONE」を実現することは不可能だ。しかし、その姿勢がある事で「ONE for ONE」であれば実現可能になる。大切に育てた、虎の子のPoC成果を世に出せないまま終わるといった、最悪の結末を避ける為にも、日頃からの情報発信と反応の見極めに努めていただきたい。
iv :全社への展開
■最後まで描き切る
全社への展開に関しては、さらなる苦難が待ち受けているだろう。この段階では、今回説明した
 1. 協力が得やすいユースケースを策定する
 2. ロードマップを描ききってからPoCを始める

に加えて
 3. 取組みをスムーズに進めるための組織と制度を作り上げる
事が重要になる。この点については、本連載の最終回である第3回で詳しく説明してゆく。