経済圏ビジネス~2020年代のコンシューマー市場に起こるうねり~【第4回】迫りくる大経済圏時代 「PayPay」と「LINE」の2大スーパーアプリが共創するソフトバンク経済圏

 日本の消費者に寄り添うソフトバンク経済圏が大きく拡大しようとしている。これから経済圏を構築していくプラットフォーマーの中で、最強のポテンシャルを保持しているのがソフトバンクグループであり、その動向には常に注目が集まっている。
2021.05.25

ソフトバンクグループの未来を切り開く群戦略

 日本の消費者に寄り添うソフトバンク経済圏が大きく拡大しようとしている。これから経済圏を構築していくプラットフォーマーの中で、最強のポテンシャルを保持しているのがソフトバンクグループであり、その動向には常に注目が集まっている。

 ソフトバンクは元来、インターネットとともに成長し、ブロードバンドのサービスを提供してきた企業であった。2006年にボーダフォンを買収し、通信キャリアとしての歩みを始めた当時は新参者という印象が強かったが、今では多くの人がソフトバンクのメインビジネスは通信キャリアだと認識している。それほどまでに、通信キャリアとしてシェアを獲得することは、世の中に対する影響が大きいということだ。
 以前の記事でもお伝えしたことだが、やはりこれからの大経済圏を構築していく筆頭候補は通信キャリアといえるであろう。
 参考:THE21オンライン「迫りくる大経済圏時代 最有力候補である通信キャリア「SRAD」の動向を読み解く」

 そして現在のソフトバンクは、ビジョンファンドとしての一面が大きく顔を出している。孫正義会長兼社長は“群戦略”と表現し、グローバルで多くの企業と手を組み、エコシステムを形成している。
引用:ソフトバンクグループ ホームページより
 独自の経済圏を構築している楽天は、自社ブランドに統一する方針で進めているのに対し、ソフトバンク経済圏は他社を取り込む(冠を変える)のではなく、共存していくやり方を取っている。様々なブランドネームが共存するソフトバンク経済圏は、一体どのような未来を描き、消費者を取り込んでいくことになるのだろうか?

日本におけるソフトバンク経済圏は新たな領域へ

 ヤフーを傘下に持つZホールディングス(ZHD)とLINEは、2021年3月1日に経営統合し、両社は新生ZHDの一員として協力し合う関係となった。日本人の生活に深く溶け込んだ2大ブランドが手を組むことは大きなインパクトをもたらすだろう。

 こうしてLINEを取り込んだソフトバンクグループが創り上げていく経済圏は、ソフトバンク、ヤフー、LINEの3社サービスが核となっていく。そして、ソフトバンクグループが投資する様々な企業のサービスを巻き込み、壮大なエコシステムを形成していくという流れになるだろう。
図1:ソフトバンク経済圏のサービス群
 経済圏争いの主戦場がEコマースと決済領域から始まったことは、以前の記事でもお伝えしたが、この領域においてソフトバンク経済圏は、Yahoo!ショッピング、ヤフオク!、ヤフーカード等で一定のシェアを獲得してきた。しかし、楽天市場や楽天カードを擁する楽天経済圏の力は極めて強く、ソフトバンクはお世辞にも優勢であったとは言い難い。

 だが、それでもソフトバンクは非常に高い潜在能力を持っており、経済圏プラットフォーマーとして唯一無二の存在となり得る。その理由として、ソフトバンクグループの持つ圧倒的な投資力に加えて、他社では真似できない2つの重要なアセットがあげられる。

 1つ目は、ソフトバンクグループが持つ顧客接点力である。3大通信キャリアの一角を占めるソフトバンクは、ソフトバンクユーザーの持つスマホを介して毎日接点を持てている。
ヤフーに関しては、多くの最新ニュースをYahoo!ニュースで閲覧する人が多い。「ニュースはヤフーで見ている」という人は、大多数いると思われる。そして近年、Yahoo!ニュースの対抗馬の地位を確立したLINEニュースも、同じ経済圏に属する共創サービスとなった。つまり、「時事ネタに触れるならソフトバンク経済圏」という構図が成立しているというわけだ。
更に、LINEは生活インフラとしての地位を確立している希少な存在である。日本人の利用率と利用時間ともに、ほぼ全てのサービスを圧倒するLINEは、最強の顧客接点力を持つアプリの一つといえるだろう。

 次に2つ目のアセットは、ソフトバンクが世界中の大手デジタルサービスを事業投資先として抱えていることだ。例えば経済圏の主戦場となるEコマース、決済、ライフスタイルの領域を見てみると、Alibabaを始めとして、DiDi(中国/ライドシェア)、Grab(シンガポール/ライドシェア)、Paytm(インド/決済)等、枚挙にいとまがないほど海外の雄が並ぶ。
各国で高いシェアを獲得しているサービスのノウハウ・データ・システム等を横展開できることは大きい。実際、PayPayのシステムはPaytmをベースとして作られたのだが、これがPayPayのスピード感ある躍進に繋がったのであろう。


 一方で、ソフトバンク経済圏の主な課題は、“経済圏インフラの作り方”にあるのではないだろうか。現状のソフトバンク経済圏は、各領域においてサービスが乱立している状態が目立つ。例えばポイントプログラムにおいては、Tポイント、PayPay系ポイント、LINE系ポイント等が共存している。楽天経済圏の場合は、どのサービスを使っても楽天ポイントが貯まるというわかりやすさがあるため、比較してみるとソフトバンク経済圏はサービスブランドが乱立していることがわかるだろう。
 この背景には、“群戦略”において資本投下した企業のブランドを尊重するやり方がある。あえてソフトバンクの色を出し過ぎることは避けているようにも見える。現にヤフーとLINEの統合においても、ある程度各社に任せている様子が伺えた。

 出資先のブランド棄損や投資機会/売却機会への悪影響といったリスクがあり得るため、どこまでソフトバンク色に塗り替えるかは難しいところだが、経済圏の結束を強めるためにサービス群の一体感は不可欠となる。柔軟なグループ経営を維持する“群戦略のあるべき姿”と、結束したサービス間がシナジーを創出する“経済圏のあるべき姿”を高次元で両立させるには、今後何をどこまで統一するかが難しいところである。

 そこで、経済圏のサービスブランド確立に向けて、重要な役割を担っていくのが「PayPay」ブランドではないかと思われる。

PayPayを基軸に一気呵成に攻める

 PayPay株式会社は、ソフトバンク株式会社とヤフー株式会社の合弁会社として2018年6月に設立されたが、この時期は決済市場で新たなサービスが乱立しており、各社がしのぎを削っている状況にあった。
 この争いのなか、PayPayアプリはなんと2019年の1年間で、50回以上ものサービスアップデートを繰り返した。しかもほとんどがアプリの使い勝手に関わるUIのアップデートであり、その頻度は1週間に1回以上のペースであった。ライバル各社が年間を通して数回のUIアップデートであったことと比較すると、驚くべきハイペースである。

 デジタルサービスにおいてUI/UXの重要性が声高に叫ばれているが、PayPayはどのサービスよりも実践してきたということだ。これだけハイペースに機能強化や改善を繰り返せた理由は、開発の全てを内製化していることにある。PayPayは開発拠点を日本、インド、カナダにおいて、24時間体制で開発し続けるための環境を整えていたのだ。
 
図2:QRコード決済アプリのアップデート頻度(2019年)
 直近のソフトバンクグループの動きを見てみても、ソフトバンク経済圏が日本でいかに「PayPay」を軸としているかが理解できる。PayPayは、乱立するキャッシュレス業界で覇者になるために、これまで矢継ぎ早に施策を打ち出してきた。

 まず決済においては、「LINE Pay」を吸収することが発表されており、両サービスを合わせるとQRコード決済市場の約半分のシェアを締めることとなる。ライバルとなる他の通信キャリア「d払い」、「楽天ペイ」、「au PAY」はいずれも10%台に留まっているため、ソフトバンク経済圏がQRコード決済領域で主役になることはほぼ間違いないだろう。
 ただし、決済手段全体を俯瞰した時に、QRコード決済自体がスタンダードになる可能性は高くない。未だクレジットカードが主導権を握るなか、「楽天カード」や「楽天Edy」といった他の決済手段を擁する楽天経済圏は、やはり強力なライバルとして立ちはだかるであろう。

 そんな楽天のSPU(スーパーポイントアッププログラム)に対抗するかのように、2020年10月から「PayPayステップ」を開始した。これでソフトバンク経済圏も、サービスを使うほどオトクな仕組みを構築できる。今後、PayPayのポイントを中心に、生活者の消費行動をいかに取り込んでいくかが、重要な論点となっていくだろう。
 そのための布石として、2020年7月にZホールディングスは、既存の金融系サービスをPayPayブランドに統一し、更なる連携を図ることを発表した。クレジットカード、銀行、証券、保険、FX・外国為替、資産運用の6サービスが、“PayPay”の冠を付けたサービス名に生まれ変わることになる。日本国内において、 “PayPay”でサービスブランドを拡充していく流れが、より一層進んでいくだろう。
 このように、PayPayは「勝つまで手を緩めない」という、ソフトバンクグループが時折見せる圧倒的な戦い方で施策を進めている。QRコード決済から始まったPayPayブランドは、様々な金融サービスのラインナップを揃え、「PayPayモール」や「PayPayフリマ」のようなEコマースにも広がっている。この広がり方は、まさに経済圏の戦い方の王道である。
 ソフトバンク経済圏のなかで、独立性を持った「PayPay経済圏」が誕生しようとしている。独自にサービスを拡充している「LINE」もいるため、それぞれが経済圏を構築し、互いにシナジーを創出していくことが、ソフトバンク経済圏全体の強みとなっていくであろう。

「PayPay」と「LINE」の2大スーパーアプリが経済圏の根幹となっていく

 ソフトバンクグループは「情報革命で人々を幸せに」というフレーズに代表されるように、未来を見据えたビジョンを打ち出し、グローバルでの“群戦略”拡大を続けている。
 そういう意味では、日本の経済圏構築は極めて重要とはいえ、全体の取り組みの一部に過ぎないという見かたもできるかもしれない。ただ、「PayPay」に徹底的に投資してきたこれまでの経緯と、「PayPay」を軸に進めようとしている現状の方針を踏まえると、これからも投資の手を緩めることはないと予想できる。

 まず当面は「PayPay」と、新たに仲間入りした「LINE」の双方が、スーパーアプリ化していく流れが進むだろう。
 スーパーアプリとは、「スマホアプリの中で他の様々なアプリを起動できるプラットフォームアプリ」のことを指す。用途に応じて個別アプリをダウンロードする必要がなく、スーパーアプリの中だけで完結できるため、生活に合わせて多種多様なサービスを提供できるようになっていく。経済圏プラットフォーマーとなるためには、スーパーアプリを整備していくことは不可欠ということもできるだろう。
 スーパーアプリが先行している中国では、WeChatやAlipayなど多くのプラットフォームが普及してきた。一方、日本の取り組みは遅れていたのだが、昨年あたりからスーパーアプリ化が加速しており、その代表格こそが「PayPay」と「LINE」なのである。

 両サービスはそれぞれの道でラインナップを拡充しつつ、疎結合で連携し合う構図となっていくだろう。例えばコロナ禍で市場を伸ばしたフードデリバリーを見てみると、PayPayが「Uber Eats」と連携しているのに対し、LINEは「出前館」と連携している。ソフトバンク経済圏としてはサービスを絞り込むのではなく、より拡充していく流れにあり、その結果としてフードデリバリーの2大巨頭を経済圏に迎え入れることができたというわけだ。

 そして、PayPayとLINEの“現状の”スーパーアプリを、アジアの代表的なスーパーアプリと比較してみると、既に見劣りしないほど充実したサービスラインナップを揃えていることがわかった。
 中国の「WeChat」、インドの「Paytm」、インドネシアの「Go-jek」という、いずれも各国を代表するスーパーアプリと比べてみたが、大きく欠けているサービスは見当たらず、日本人の生活スタイルに合わせて必要なサービスを整備している印象であった。
 
図3:スーパーアプリからアクセスできるサービス比較(2021年4月1日時点)
 楽天の場合、「楽天市場」、「楽天カード」、「楽天モバイル」という役割の違う3大キラーサービスが、経済圏の入り口として機能していることを以前の記事で解説した。

 一方でソフトバンク経済圏の場合は、「PayPay」と「LINE」の双方が様々な役割を担うスーパーアプリとして拡張していく流れになる。経済圏全体としては「ソフトバンク」、「ヤフー」、「PayPay」、「LINE」といったビッグネームが共存していくことになるだろう。

 ブランドイメージを統一している楽天は、消費者自身が選択することによって経済圏ユーザーとなっていく。一方、各社にある程度任せながらも連携し合うソフトバンクは、消費者が気付いた時には経済圏にどっぷりと入り込んでいるのかもしれない。
 楽天とソフトバンクの経済圏は、それぞれ違うアプローチで拡充していくことになるが、個別サービスではシェアを奪い合っていくことになる。両者がどのように市場を形成していくのか、注目しながら一消費者としてサービスを使っていくと良いだろう。

チーフエバンジェリスト 八木 典裕

大手IT企業を経て現職。金融・製造・通信などの業界を中心に、IT 戦略立案から実行まで幅広く支援。直近は、DX、新規ビジネスの創造などをテーマとしたプロジェクトを主導。
ブロックチェーン、AIの技術研究や実証実験もリード。
主な著書に『デジタルトランスフォーメーション』『3ステップで実現するデジタルトランスフォーメーションの実際』『データレバレッジ経営』(共著/日経BP 社)などがある。

マネージャー 中原 柊

大学卒業後、現職。
メディア、Webサービス、通信、商社、消費財などの業界を中心に、 DXや新規ビジネスの企画・立ち上げなどのテーマに従事。 デジタル・イノベーション・ラボと協力し、デジタル技術やデータを活用するプロジェクトを多数手掛ける。


画像クレジット:sdx15 / Shutterstock.com

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