スマートシティ ~「誰一人取り残さない」持続可能な社会の創造~スマートシティ先進国から学ぶ、市民協創型アプローチ

2021.01.19

勃興するスマートシティプロジェクト

 スマートシティプロジェクトが世界各国で勃興している。スマートシティとは、都市の課題に対してICT技術等の先端テクノロジーを活用しつつ、都市マネジメントが行われる持続可能な都市のことである。
 2000年頃から欧州を中心に、環境問題への対応やエネルギー政策に端を発してきたが、近年ではAIやIoTといった先端テクノロジーの発展とともに、モビリティ、ヘルスケア、防災などにも適用されるようになった。スマートシティは、MaaSや5Gなどの次世代テクノロジーの社会実装の場にもなっており、先行する多くの国や企業は、自分達の成功事例をモデルケースとして、他の地域に展開したいと考えている。

 現在は、世界2000以上もの都市で、スマートシティプロジェクトが進行していると言われており、花盛りと言わんばかりである。各都市のプロジェクトは、そのアプローチ方法によって下記のように大きく3つに分類できる。どのアプローチが優れているという訳ではなく、各国の情勢や都市の抱える課題によって、最適なアプローチが異なるという考え方である。
図:スマートシティの3類型

スマートシティ推進の肝は、住民の賛同を得られるかどうか

 スマートシティは、都市を舞台としている特性上、市民の協力を得られるかどうかが肝となる。

 グーグルの系列企業である都市イノベーション企業「Sidewalk Labs」がカナダのトロント沿岸部で進めてきた再開発プロジェクトは、街中のデータを集めることに対して、プライバシー侵害や監視社会につながることへの懸念から、市民や再開発当局の反発を招き、プロジェクトの撤退に追い込まれている。

 スマートシティの成功事例として取り上げられているバルセロナも、スマートシティ構想をスタートさせた2000年当時はインバウンド向けの施策を優先して進めたことから、市民の間に不満が広がっていた。しかし、その後、行政と市民が一緒に社会課題を解決する方針に見直され、「市民が中心」という考えによって、独創的な再開発が進むこととなった。

 中国やシンガポールのように、国家が強力なリーダーシップを発揮できる国を除いては、市民の協力を得ることがスマートシティ推進の絶対条件となる。更地に都市を作る「グリーンフィールド開発」であれば、その都市のコンセプトに同意する市民を集めやすい。しかし、既存都市をスマートシティ化する「ブラウンフィールド開発」では、都市の個性を生かしつつ、建物を壊さずに既存市民の賛同を得ながら進めることになるからだ。

スマートシティ先進国に学ぶ成功の要諦

 いかに既存市民の賛同を得ていくか。スマートシティ先進国の取り組みから、その成功の要諦を見ていきたい。以下は、スイスのビジネススクールIMDと、シンガポール工科大学が2020年9月に公表した『世界のスマートシティランキング』である。世界で実施されている2000以上のプロジェクトから109の都市を選定しており、その都市の市民120名に対し、都市インフラやサービスの満足度、テクノロジーの進展度合について、市民の認識を調査、集計したものだ。
*帯掛けは欧州の都市
smartcityindex_2020.pdf
 このランキングを見ると、欧州の都市が多く選出され、また、上位にランクインしていることがわかる。欧州は歴史的に見ても各都市の自立性が高いため、自治体が主導してスマートシティの様な取り組みを進めることに慣れている。加えて、欧州は環境問題などの社会課題に対し、国民の意識が高い傾向にある。それ故、環境問題やエネルギー政策を文脈としたスマートシティに、早くから取り組むことができたという背景もある。

 また、自治体が市民と共に地域の課題を解決していく「市民協創型」のアプローチを採用しているプロジェクトが多いことも特徴的である。上述した通り、バルセロナも「自治体主導型」から「市民協創型」に方針を転換したことで、取り組みが進み始めた。
 では、「市民協創型」のアプローチは、具体的にどのようなことを実践していけば効果的なのか。自治体・市民・企業が連携した都市計画・運用を実現しているポルトガルのカスカイスのプロジェクトは、多くの取り組みが参考になるため、例にとって解説していく。

カスカイスに見る「市民共創型」プロジェクトの特色

 カスカイスはポルトガルの首都リスボンにある都市で、国際的なリゾート地として知られている。カスカイスでは、市民のQOL(Quality Of Life)向上、都市としての魅力の向上を目的に、自治体・市民・企業が連携した都市計画・運用を実現している。2019年にスペインで行われたSmart City Expo World Congressでは、「市民協創型」のモデルケースとして紹介され、注目を集めたほどだ。

 カスカイスではMaaSに着目し、モビリティマネジメントシステムである「MobiCascais」というアプリを運営している。市民や旅行者は、このアプリをダウンロードすることで、バイクシェアリング、タクシー予約、バスや電車の情報入手など、モビリティに関する様々なサービスを一括で利用することが可能となる。市内の移動がスムーズになることによって、市民や旅行者の利便性が向上するだけでなく、市民のマイカーでの移動も減ることになるため、環境に配慮した街づくりを目指せているのだ。
図:MobiCascais
 「市民協創型」のモデルケースとして注目される理由は、企画と運営のそれぞれのフェーズで、市民に参加してもらう工夫がなされているからだ。
 企画フェーズでは、「リビングラボ」と呼ばれる共創活動の拠点を活用し、都市計画について市民との対話を重ねることで、共感を得ていった。この「リビングラボ」は、日本では聞きなれない言葉だが、欧州ではユーザー(市民)との共創の場として、多くの自治体や企業で活用されている。
 運用フェーズでは、「シティポイント」と呼ばれるサービスにより、市民が参加できる仕組みを構築している。例えば、市民が道路で問題が起きていることを発見した場合、スマートフォンのアプリ経由で行政に報告ができ、その行動対価として市内の商業施設等で利用できるポイントが付与される。この「シティポイント」は、国連からもイノベーティブな取り組みとして評価されている。

 このように、企画フェーズから市民を巻き込んで共感を得つつ、運用フェーズにおいても市民に参加してもらえるような仕組み作りを実現している。

日本版「市民協創型」アプローチの可能性

 日本においても、この「市民協創型」アプローチが有効なプロジェクトは多いと考えられる。日本は特に国民のプライバシー意識が高いため、「企業主導型」のアプローチが適合するケースは多くない。トヨタのウーブンシティのようなグリーンフィールド開発や、市民に信頼のある地場企業が主導するようなものに限られるだろう。そのため、市民との対話を重ね、共感を得ながらスマートシティ化を進めていくことが、結果的に早期の成果創出につながっていく。

 ただ注意しなければならないのは、「市民協創型」は市民の言いなりになることではないということだ。世界が取り組むSDGsや日本が目指すスマートシティのビジョンについて、市民がしっかりと理解したうえで、自分達の地域が抱える課題解決や求めている都市サービスを共に創り上げていく必要がある。

 欧州の様な「市民協創型」のアプローチを参考にしつつ、日本独自であり、かつ地域の個性を生かしたスマートシティへと発展させていく取り組みが、“課題大国日本”を“課題解決先進国日本”へと昇華させていくことになるだろう。

シニアマネージャー 加藤 秀樹

大学卒業後、ベイカレントに入社。
金融・製造業を中心に、DX戦略、CX向上、新規サービス立上げなどの領域で、企画立案から実行支援までの幅広い領域のプロジェクトを支援。
特に顧客体験を起点としたサービス・オペレーション・組織構築を得意とする。

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