宇宙ビジネスビッグバン宇宙産業の現状

宇宙産業の市場規模は全世界で約37兆円(約3290億米ドル)と言われる。宇宙ビジネスにおいては、従来の「宇宙機器産業」に加えて「宇宙利用産業」が注目されている。そして、「宇宙利用産業」において主役となるのが衛星と地上のコミュニケーション強化を軸としたデータビジネスだ。データビジネスを始めとした「宇宙利用産業」の今後と、それを支える小型衛星の現状について考察する。
この記事をシェア
2018.08.28

宇宙産業の現状とは

宇宙産業の市場規模は全世界で約37兆円(約3290億米ドル)と言われ、2010年以降、年間5%の成長を続けている(図1)。

図:Space Foundation の公表数値を基にベイカレントが作成

 宇宙産業の内訳は、衛星を打ち上げるための「宇宙機器産業」と、打ち上げられた衛星を使ってサービスを提供する「宇宙利用産業」に大別できる(図2)。このうち、市場の約3/4を占め、その規模も年々拡大しているのが「宇宙利用産業」だ。宇宙に飛び出すための機器製造よりも、「衛星をどのように活用するか」といったサービスに軸足が移っていると言える。ロケットの打ち上げよりも、打ち上げられた衛星の活用が重視されてきているという現状は、地上での通信サービスに例えると、街中のWi-fi敷設に通ずる所がある。インフラ整備がある程度整ってきたことで、インフラ上で提供されるOTT(Over The TOP)サービスが収益化の主役になっているということだ。

図:内閣府「我が国の宇宙機器産業の課題、現状及び対応の方向性検討における論点」を基にベイカレント・コンサルティングが作成

 衛星活用が進んできた背景には、宇宙輸送サービスの低価格化がある。加えて、IoT化、AI(人工知能)や機械学習によるビッグデータ解析技術の高度化、クラウド化といったデジタル技術の革新により、衛星を活用する用途が今後ますます拡大するものと予想されている。特に、図2で色を付けたサービスは新たな産業分野として注目を集めている。

 衛星利用サービスの市場規模は現在約13兆円。その中では通信・放送サービス分野が大半を占めており、約10兆円となっている。この市場を刺激しているのが、米Alphabet社(米Google社の親会社)や米Amazon.com社などの大手IT企業だ。

拡大するデータビジネス

 元来、衛星データは各国政府が保有し、その用途は主に地球観測、安全保障、学術研究に限られていた。だが、2008年に米国政府がオープン&フリー化の方針を打ち出し、Landsat(低中分解能の陸域・環境観測向け衛星)のデータを無償公開したのを皮切りに、民間企業の動きが活発化した。

 Amazon.com社は、Amazon Web Service(AWS)上で誰もが利用できる公共データセット(Public Data Set)を公開した。これまで衛星データは、その収集・処理・解析がいわば“特殊”であり、専門家でなければ取り扱うことが難しかった。だが、AWSによってAPI連携が可能となり、一般のアプリケーション開発者でも容易に取り扱えるようになったのだ。

 現時点でAWSを利用している主要なユーザーは政府機関であるが、“使いやすさ”や“トータルコストの安さ”が徐々に浸透し、民間企業の利用も進んでいる。民間企業では、衛星データ提供サービスの大手である米Planet社、米DigitalGlobe社、米Astro Digital社など、商用衛星を保有する企業が観測したデータをAWS上で公開している。

 こういったビッグデータ解析を行うための環境が整備されてきたことで、データビジネスを展開する民間企業も増えている(図3)。

図:宇宙システム開発利用推進機構(JSS)による「欧米宇宙利用事例集」を基にベイカレント・コンサルティングが作成

ネット利用地域の拡大に向けIT企業が注力

 “インターネットの利用者の増加” こそが “サービス価値の向上” につながると考えるのが、Alphabet社や米Facebook社だ。そこで、これらの企業はインターネット環境が整備されていない40億人(アフリカ、アジア及び離島、へき地等)にサービスを提供することを目指し、通信衛星などを活用しようとしている。GoogleがNBU(Next Billion User)としてアフリカを挙げていることからも、これらの企業の注力ぶりが伺えるだろう。加えて、米SpaceX社、米OneWeb社なども数百機規模の小型衛星インターネット網の構築を目指している。

 とは言っても、IT企業大手や宇宙ベンチャーがネット網拡大に取り組む目的は40億人のユーザーを確保するだけではない。「インターネットによって提供されるビジネス」を40億人に提供するためだ。(図4)

図:各種資料を基にベイカレント・コンサルティングが作成
マルチGNSS:2周波を利用するGNSS(Global Navigation Satellite System、全地球衛星測位システム)。米国GPS、欧州Galileo、日本みちびき(準天頂衛星、QZSS)などを組み合わせること。
LBS:位置情報サービス(Location Based Service)
リモセン衛星:リモートセンシング衛星
UAV:無人飛行機(Unmanned Aerial Vehicle)

超小型衛星が実用化、宇宙サービスを担う

 衛星そのものにも大きな変革の波が押し寄せている。超小型化と “ばらまき” だ。2017年7月23日に世界最小・最軽量のチップ型衛星 “Sprite” が6機、衛星軌道上に配置された。大きさ3.5cm四方、重さ4gの正方形をしたこの衛星は、衛星としての最低限の機能を備えている。マイクロコントローラーや、温度計、磁力計、ジャイロセンサー(角速度計)、加速度計など各種センサー及び、無線機器、太陽電池である。そして、同年7月26日には “Sprite” と地球にいるアマチュア無線愛好家との間で通信に成功したのだ。

 Spriteは “Kicksat” と呼ばれる超々小型衛星がベースとなっている。(図5) “Kicksat”は、2011年に “KickStarter” と呼ばれるクラウドファンディングにより開発資金が集められた。調達資金は、$30,000を目標とし、現時点で$74,586調達に成功している。

出展:Gunter's Space Page「KickSat 1, 2」

 こういった小型衛星の最大のメリットは、安価で速く製造ができる点だ。従来通りの大型の衛星であれば、設計から打上げまで約5年を必要とする。一方、超小型衛星になると1~2年程度で作ることも可能だと考えられている。ビジネス投資を考える上でこの差は大きい。5年も経ってしまえば、市場の動向も大きく変わってくる。ビジネスとして成立しなくなってしまうリスクが大きいのだ。超小型衛星であれば、1~2年程度かつ数千万円の低予算で実現できるため、ビジネスの見通しも立てやすく、リスクも小さく済む。

 上述で紹介した ”Sprite” は実証段階ではあるが、将来的には約300ドル/機を目指している。ここまで低価格となれば、一般の人にも広く浸透していくだろう。”My衛星” が流行るかもしれない。
もちろん、小型化すれば、機能的には劣化するし、信頼性も低下する。これらのデメリットを補うため、複数の人工衛星を協調動作させ、一つの機能やサービスを提供する方法である衛星コンステレーションにより目的を達成しようとしているのだ。

 実際に、こうした超小型衛星、衛星コンステレーションを利用した様々なビジネスが創り出されようとしている。 SpaceX社や米OneWeb社などが計画している数百機規模の小型衛星インターネット網の構築も、まさにこうした背景から展開されようというビジネスだ。日本においても、東京大学・東京工業大学発の超小型衛星技術を原点とするベンチャー企業アクセルスペースが、低コスト・短期開発を実現する超小型衛星に関して設計から運用までをサービス展開している。

 宇宙ビジネスが注目され始めた主因は、地球上で情報通信技術(ICT)を使ったサービスが発達し、かつ、衛星サービスへの参入障壁が下がったことにある。衛星の製造から打ち上げまでであれば、数千万円で実現可能となるところにまできた。このような市場を見据えた取組みとして、2017年8月9日、小型衛星専用の宇宙輸送サービス事業を提供する「新世代小型ロケット開発企画」が設立されたことで話題となった。新会社は資本金2億円で、キヤノン電子が70%、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行の3社がそれぞれ10%出資している。

 以上のように、宇宙産業の最前線では衛星コストの低下が現実化し、さらなる可能性が膨らみ始めている。衛生コストが下がることによって、資金を持つ大手企業や専門技術を持つベンチャーが活発に動き始めた。コスト低下が続けば、今後は幅広い業種の中小企業までもが参画できるようになる。宇宙ビジネスの可能性は今よりもさらに拡大をしていくだろう。