宇宙ビジネスビッグバン宇宙産業における日本の課題と未来

国際的に宇宙産業が活性化している大きな要因は、技術の発展や宇宙空間の用途拡大による開発の進展に伴い、輸送技術がドラスティックに低減されることが見込まれているからだ。一方で、我が国における宇宙ビジネスは限られたプレイヤーによって、官からの需要である官需として提供された、限られたパイだけを分配している状況にある 。このような状況を打破するため、当社では宇宙産業のロードマップを策定した上で、日本の宇宙産業が果たすべき役割について提言している
2018.08.07

国際的に宇宙産業が活性化している大きな要因

宇宙空間を地上の経済と結びつけて、ビジネスを立ち上げるためには、何よりも低コストの輸送手段が必要となる。近年、宇宙産業が活性化している大きな要因は、そのコスト低減が現実的になりつつあり、2020年~2030年には宇宙輸送システムが現在から数十分の一になると見込まれているからである。
このドラスティックなコスト低減が実現されれば、衛星サービス(通信/放送/測位/リモートセンシング)及び宇宙・惑星探査に関わる宇宙輸送の需要は現在の10倍程度増えるものと予測されている。また、現在まだ実現していない需要、例えば、エンターテインメント(観光、旅行など)、医療、エネルギー等については、そのコストが百分の一程度になれば、大規模な需要が生まれるものと見込まれている。もちろん、コスト以上に宇宙・惑星で何が実現できるのか、という点が需要拡大において重要だ。(出典:内閣府 宇宙政策委員会資料)

このような状況を捉えて、政府間においては、宇宙探査ハイレベル会議の開催(2009年)を皮切りに、国際協力の重要性を共有し、政府レベルでの対話・意見交換を行う動きが活発化してきている。直近では、2018年3月3日に、国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が日本において開催された 。

これまで、宇宙開発は長期に渡り国の予算で実行されていたため、宇宙産業を維持することを目的とした公共事業であった。実際に、宇宙産業の需要の多くは官需とされ、日本では8割を占めている。長期に渡りこのような状況が維持され続けたため、宇宙産業は官に下支えしてもらうことが恒常化し、イノベーションへの意欲が長らく減退した産業になった。官の意思を優先する産業となってしまい民間の活力が失われてきたのだ。

しかし、この状況に反発する動きが米国を中心に始まり、それが、宇宙産業において大きな動きになりつつある。民間企業においては、SpaceX(米)、BlueOrigin(米)、SKYLON(英)等の宇宙輸送システムを再使用することで宇宙ロケットの打ち上げコストを削減した。Lockheed Martin(米)は、2028年までに火星軌道に宇宙ステーションMars Base Campを整備すると発表。今年は、探査技術・スピードを競う月面探査レースであるGoogle Lunar XPRIZEの開催が予定されている。これら宇宙インフラと呼ばれる産業の活発化に伴い、火星移住計画、宇宙旅行等の新サービスが創出されてきている。今後は、政府、民間の協力体制をどのような方針に基づき実現していくかが課題となっている。

日米の産業振興に関する意識の違い

2009年7月14日、米国のミサイル試験場から「ファルコンⅠ」というロケットが打ち上げられた。打上げは成功し、マレーシアの地球観測衛星「ラザクサット」を地球の軌道上に投入した。「ファルコンⅠ」はこれまでのように国の資金で開発されたロケットではなく、SpaceXというベンチャー企業の資金で完成させたロケットである。民間の投資で完成したロケットが、初めて打ち上げられたのだ。

ただし、この背景には、米国政府の宇宙産業振興政策が大きく寄与している。SpaceXは2006年にNASAと商業軌道輸送サービス(COTS)を契約した。COTSとは、NASAが計画し調整を行っている国際宇宙ステーション(ISS)への民間企業による輸送サービス計画である。この計画は、2006年1月18日に発表され、SpaceX、Orbital ATK(米)が落札した。ここで重要なのは、2006年時点でロケットの打ち上げ実績のない、ベンチャー企業であるSpaceXが落札したことである。つまり、米国政府は民間活用について、米国政府が要求する一定基準を満たし、米国政府にとって有益となるのであれば、それが例え、実績のないベンチャー企業であっても問題ないと認めたのだ。

この点は、日本と比較すると大きな意識の差がある。同様の計画が日本で実施される場合、まず問われるのは、「過去の実績」や「会社の規模」である。恐らく、「国民の税金を使うため、可能な限り失敗を避ける」といった意識が優先されるためだろう。公共事業において可能な限り失敗は避け、無駄な税金を使わないという考え方は重要である。ただし、産業振興においては、失敗を許容し、前進していく意識が政府側になければ、民間の活力が停滞してしまう。

ではどうすればよいか。一つは上記のとおり、一定基準を満たし、日本政府にとって有益となるのであれば、それが実績のないベンチャー企業であっても選定されるような政策を立案し、実行していくことである。

もう一つは、資金を投入する分野を宇宙科学、例えば宇宙の果てを観測する宇宙望遠鏡や宇宙・惑星を探索するための観測衛星や探査機等、に絞ることである。宇宙望遠鏡や観測衛星、探査機から得られるのは科学的知識だ。すぐに経済的な利益につながるわけではないが、持続的に知識を蓄積した結果、イノベーションが起こり経済に結びつく場合もある。ハッブル宇宙望遠鏡、火星探査機シリーズ、火星の表面を走破した無人探査車のスピリットとオポチュニティ等、米国が宇宙科学の分野で次々と成果を挙げた。その結果、民間企業側から「宇宙旅行」、「火星移住計画」等の目標が掲げられ、SpaceX、BlueOrigin等の企業においては実際に経済にも結びついている。

民間企業の役割と宇宙産業の今後の可能性について

政府からの政策を待つだけではなく、宇宙産業を新産業と位置づけ、あらゆる可能性を秘めていることを前提に、民間企業側から積極的に宇宙産業へ参画することも必要となるだろう。実際に、SpaceXが掲げる「2025年有人火星飛行・移住計画」やBlueOriginが掲げる「数百万人が宇宙で暮らし、働く世界を作る」が実現するならば、大規模な産業が創出されることが期待される。

我々は、2030年代頃に月、火星、小惑星で居住できる状態が実現したと仮定し、そこに至るまでの発展ステージを図表3のとおり5つに定義した。そして、そこから必要とされる産業を図表4のとおり想起した。
宇宙産業において必要となる産業は、インフラサービスとして、宇宙輸送産業、惑星探査産業、惑星ライフライン産業及び、宇宙サービスとして、宇宙エンタメ産業、惑星レジデンス産業、宇宙エネルギー産業に大きく6つに整理することができる。それに基づき、6つの宇宙産業における主な製品・サービスは図表5のとおり整理することができる。
このように、SpaceXやBlueOriginが掲げている目標を整理するだけでも、大規模な産業が創出されることが容易に想定される。そして、月、火星、惑星等にて人が住むことになれば、地上におけるあらゆる産業が宇宙産業に参画するチャンスがある。そこで得られた技術を地上に転用し、活用することもできるかもしれない。
 
宇宙産業は、まだステージⅠの状態にある。米国のベンチャー企業が中心に取組み、技術革新のもと大幅なコスト削減が進んでいる。今後は、ステージⅡに向けた取り組みである、基地の建設・水・エネルギー等が中心となるだろう。国際的に高度なインフラ技術を保有する日本はその取組みの中心になる可能性が大いにある。

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