日米の産業振興に関する意識の違い
2009年7月14日、米国のミサイル試験場から「ファルコンⅠ」というロケットが打ち上げられた。打上げは成功し、マレーシアの地球観測衛星「ラザクサット」を地球の軌道上に投入した。「ファルコンⅠ」はこれまでのように国の資金で開発されたロケットではなく、SpaceXというベンチャー企業の資金で完成させたロケットである。民間の投資で完成したロケットが、初めて打ち上げられたのだ。
ただし、この背景には、米国政府の宇宙産業振興政策が大きく寄与している。SpaceXは2006年にNASAと商業軌道輸送サービス(COTS)を契約した。COTSとは、NASAが計画し調整を行っている国際宇宙ステーション(ISS)への民間企業による輸送サービス計画である。この計画は、2006年1月18日に発表され、SpaceX、Orbital ATK(米)が落札した。ここで重要なのは、2006年時点でロケットの打ち上げ実績のない、ベンチャー企業であるSpaceXが落札したことである。つまり、米国政府は民間活用について、米国政府が要求する一定基準を満たし、米国政府にとって有益となるのであれば、それが例え、実績のないベンチャー企業であっても問題ないと認めたのだ。
この点は、日本と比較すると大きな意識の差がある。同様の計画が日本で実施される場合、まず問われるのは、「過去の実績」や「会社の規模」である。恐らく、「国民の税金を使うため、可能な限り失敗を避ける」といった意識が優先されるためだろう。公共事業において可能な限り失敗は避け、無駄な税金を使わないという考え方は重要である。ただし、産業振興においては、失敗を許容し、前進していく意識が政府側になければ、民間の活力が停滞してしまう。
ではどうすればよいか。一つは上記のとおり、一定基準を満たし、日本政府にとって有益となるのであれば、それが実績のないベンチャー企業であっても選定されるような政策を立案し、実行していくことである。
もう一つは、資金を投入する分野を宇宙科学、例えば宇宙の果てを観測する宇宙望遠鏡や宇宙・惑星を探索するための観測衛星や探査機等、に絞ることである。宇宙望遠鏡や観測衛星、探査機から得られるのは科学的知識だ。すぐに経済的な利益につながるわけではないが、持続的に知識を蓄積した結果、イノベーションが起こり経済に結びつく場合もある。ハッブル宇宙望遠鏡、火星探査機シリーズ、火星の表面を走破した無人探査車のスピリットとオポチュニティ等、米国が宇宙科学の分野で次々と成果を挙げた。その結果、民間企業側から「宇宙旅行」、「火星移住計画」等の目標が掲げられ、SpaceX、BlueOrigin等の企業においては実際に経済にも結びついている。