経済圏ビジネス~2020年代のコンシューマー市場に起こるうねり~通信キャリア4社が形成しつつある”経済圏”の今

前稿の連載第1回では、「”経済圏”が今後のコンシューマー市場での外せないキーワードとなること」「経済圏を創っていく有望プレイヤーは、通信キャリア4社(頭文字を取って”SRAD”)だということ」を語った。今回は、経済圏への理解を深めていくために、SRADの現状を深掘っていく。SRAD各社は今どのようなことに取り組んでいるのか?強みや課題は何か?といった考察を通して、コンシューマー市場の将来像を見通す材料が提供できれば幸いである。
2020.04.27

SRAD(国内通信キャリア4社)が、”経済圏”を形成しつつある

本連載の第1回(参考:前回記事へのリンク)では、主に以下の内容について記載した。

・コンシューマー市場では、多様なサービスの連合体(=経済圏)の形成が進んでいる
・サービス群を連帯し、経済圏のインフラとなるものは、ポイントプログラム・統一アカウント・統一決済・統一チャネル等である
・通信キャリアのソフトバンク、楽天、au、ドコモ(頭文字を取って、以下SRAD)が有力な経済圏クリエイターである
・経済圏の勢力争いの戦場は、EC/決済領域からライフスタイル領域(外食/旅行/サロン検索や、配車/フードデリバリー等の生活消費領域)に移りつつある


今回は、SRADが形作ろうとしている経済圏の現状を追っていきたい。1社ずつ詳細に見ていく前に、まずは4社の取り組みの概要を下図に示す。
1.ソフトバンクグループ 株式会社、2019/3期有報より
2.楽天 株式会社 2018/12期有報より
3.KDDI 株式会社、2019/3期有報より
4.株式会社 NTTドコモ、2019/3期有報より
特にソフトバンク、au、ドコモの3社は、盤石な通信キャリア事業が大きな利益規模を誇っており、膨大な投資力の源泉となっている。更にソフトバンクの場合、保有株式からの収益も大きく、他社を凌駕した投資力を持っている。

経済圏内のサービス群をどう増やしていくかについても、SRAD各社で対応が分かれる。ソフトバンクはベンチャー出資と自社サービスが中心である。楽天はほぼ全て自社サービスで経済圏を構成している。ドコモは楽天とは対照的に、他社との業務提携が中心だ。auについては、出資/業務提携/自社サービスのいずれも用いている現状と見受けられる。

このような経済圏を構成するサービス群の違いが、「経済圏にサービスを取り込みやすいか」、「経済圏クリエイターが各サービスの意思決定に介入しやすいか」に関わってくるため、今後の将来展望を見通す上で重要なポイントとなる。

それでは、SRADの取り組みについて各社個別に見ていきたい。

ソフトバンク:経済圏としての潜在力は最高レベル。乱立するブランドの取り扱いが課題

これまで経済圏の主戦場であったEC/決済領域において、ソフトバンクはYahoo!ショッピング、ヤフオク!、ヤフーカード等で一定のシェアを獲得してきたものの、楽天経済圏より優勢だったとは言い難い。

では勢いに乗る「PayPay」はどうか?「LINE Pay」の吸収もあり、ソフトバンクがQRコード決済領域で主役になることはほぼ確実と言って良さそうだ。しかし、QRコード決済が決済手段全体のスタンダードとなるのは難しい現状にある。決済領域全体を俯瞰すると、「楽天カード」や「楽天Edy」を擁する楽天が一歩リードしていると言えそうだ。

だが、それでもソフトバンクは非常に高い潜在能力を持ち、強大な経済圏クリエイターとなり得ることを証明できている。ソフトバンクグループの持つ圧倒的な投資力は言うまでもないが、誰にも真似できないアセットが他に2つ存在するからだ。

1つ目は、ヤフーやLINEの持つ顧客接点力だ。特に生活インフラとしての地位を確立したLINEは、日本人の利用率と利用時間ともに、ほぼ全てのサービスを圧倒する。

2つ目は、アジアで既に成功している大手デジタルサービスを、事業投資先として数多く抱えていることだ。例えばEC/決済領域やライフスタイル領域だけを見ても、Alibabaを始めとして、DiDi(中国/ライドシェア)、Grab(シンガポール/ライドシェア)、Paytm(インド/決済)等、枚挙にいとまがない。各国で高いシェアを獲得しているサービスのノウハウ・データ・システム等を横展開できることは大きい。実際に、PayPayのシステムはPaytmをベースとして作られている。

一方で、ソフトバンク経済圏の主な課題は、”経済圏インフラの作り方”にあるのではないだろうか。現状のソフトバンク経済圏は、「ポイントプログラム(Tポイント、PayPay系ポイント、LINE系ポイント等)」、「アカウント」、「決済サービス」、「サービスブランド」等の観点で乱立している状態だ。背景には孫正義会長兼社長の掲げる”群戦略”において、資本投下した企業のブランドを、ソフトバンク色に統一させることは避けてきたことにある。出資先のブランド棄損や投資機会/売却機会への悪影響を気にした上での戦略ではないかと予想するが、経済圏としての体制を強めるためには、サービス群の一体感は不可欠だ。”群戦略”と”経済圏のあるべき姿”を高次元で両立させるには、今後何をどこまで統一するかが難しいところである。

楽天:最も経済圏化が進む。経済圏住民の高いロイヤリティが最大の財産

”経済圏”と聞いて思い浮かべる企業No.1は楽天ではないだろうか。事実として、経済圏の完成度はSRADの中でも群を抜いているのだが、それを裏付ける背景は3点ある。

①    「EC」、「クレジットカード」の2大キラーサービスと、双方のシナジー
EC領域においては「楽天市場」、決済領域においては「楽天カード」というキラーサービスを持ったことが大きい。そして、ECとクレジットカードは相性が良い。「楽天市場」は「楽天カード」で決済するとポイント還元率が高くなるように設定されているが、これが普段「楽天市場」でショッピングしている人にとっては「楽天カード」を使い始めるインセンティブとなる。逆もしかりで、「楽天カード」を普段使いしている人は、ネットショッピングする際に「楽天市場」を選んでくれる傾向にある。このように、ECからでもクレジットカードからでも、どちらからでも相互利用にたどり着き、自然と楽天ポイントが貯まっていく。これが、消費者が楽天住民化する最も一般的な入口だ。

②    楽天系サービスへの相互送客の仕掛け
相互送客への仕掛けも確立している。その代表例が「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」だ。楽天系サービスを複数にわたって利用すれば、「楽天市場」でのポイント還元率がアップする制度である。例えば「楽天トラベル利用月は+1%」、「楽天銀行+楽天カード利用者は+1%」、「楽天証券利用者は+1%」という具合だ。

③    分かりやすく統一されたサービスブランド
ほとんどの楽天系サービスには、「楽天」や「Rakuten」が名前に入っており、統一されたサービスブランドを感じられることも大きい。消費者は、サービス名に付く「楽天」の冠を見るだけで、楽天スーパーポイントが貯まるサービスであることを認識できるのだ。このような”分かりやすさ”を実現するため、楽天はサービス名に「楽天」の冠を付けることに強い拘りを見せる。

以上①から③の効果もあり、楽天経済圏住民のロイヤリティは非常に高い。

弊社の実施した消費者行動調査の一部がそれを示している。ホテル・宿を予約する際、楽天経済圏住民ではない人の多くは、「地名+ホテル」等でWeb検索し、上位に表示された順にアクセスするのが普通であった。
一方で楽天経済圏住民は、以下のどちらかに当てはまることが多かった。
1.    直接「楽天トラベル」にアクセスし、サービス内でホテル・宿を検索
2.  「地名+ホテル」等でWeb検索し、上位に表示された「楽天トラベル」のページにアクセス

楽天経済圏住民は、出来る限り楽天のサービスを使うことが習慣化している。ここまで巧みに経済圏を形作ることができた主な背景には、「楽天市場という創業事業が、キャッシュカウとなれたこと」、「他企業に先んじてポイントプログラムを中心とした経済圏化を意識し、ノウハウやデータを貯めてきたこと」、「三木谷会長兼社長のトップダウン型意思決定により、サービス横断的な施策を機動力高く実現できたこと」といった点があると考えられる。

ただし、いくら楽天経済圏住民のロイヤリティが高いとはいえ、どんなサービスでも使ってもらえる訳ではないことは付け加えておく必要がある。弊社の消費者行動調査で分かってきたことだが、経済圏住民は “手間”は許容してくれるが、”商品価値の棄損”は許容してくれない。

例えば、経済圏住民は「別の銀行口座から楽天銀行の口座に、給与の支払いを切り替える」、「楽天市場の還元率を上げるために、毎月楽天証券で小額のポイント投資を行う」といった”手間”をかけることは厭わない傾向にある。しかし、「楽天ビューティーを使っていたが、掲載店舗数が少ないため離脱した」、「楽天モバイルは通信がつながるかどうか心配なので、他社から乗り換えるべきか様子見している」といった声も非常に多く、品質に目をつぶって「楽天のサービスだから使う」とはならないのである。

あくまでサービス品質は地道に、そして真摯に磨く必要があることを裏付けている。

ドコモ:EC/決済領域では待望のキラーコンテンツ「メルカリ」を獲得。「dポイント」ブランディングが喫緊の課題か

通信キャリアとしては最大手であるドコモだが、これまで経済圏争いにおいては、上述のソフトバンクや楽天の後塵を拝す形であった。しかし、今年2月に「メルカリ」との業務提携が合意に至ったことで、大きく前進したと見ている。’19年の「ジモティー」との業務提携もあり、ドコモはC2C型ECの最大手に躍り出る切符を手にしたと言える。

次の主戦場であるライフスタイル領域においては、タクシー配車(JapanTaxi/MOV/S.RIDE)や都内で展開するシェアサイクル等のモビリティサービスを持っており、MaaS領域で他社に先行している。

また、ドコモはリクルートとの業務提携も開始する。現状、リクルートのサービスは「Ponta(=au経済圏)」とも連携しているものが多い(じゃらん、ホットペッパー 等)。ドコモからすれば、なるべくリクルート系のサービスを自社経済圏に囲い込みたいところだ。

このようにC2C型EC 、MaaS、多くの顧客を抱えるリクルートサービスの取り込み等で、経済圏クリエイターとしてのポテンシャルを高めてきたドコモであるが、喫緊の課題はポイントブランディングにある。ソフトバンクのTポイントやPayPay系ポイント、楽天の楽天スーパーポイント(楽天)、auのPontaと比較し、dポイントの認知度/利用度は一歩ビハインドだからだ。実際、ドコモユーザーですらdポイントを意識したことがないという声は多い。ドコモ経済圏を構成するサービスが、相互に活性化するためには、dポイントのブランディングの更なる強化が求められる。

au:経済圏クリエイター達の主戦場で一歩出遅れ。キラーサービス確立が急務

SRADのなかで、経済圏競争に一歩出遅れたのがauであろう。

これまで主戦場であったEC/決済領域ではキラーサービスに欠ける。決済領域においては、au PAYの大型キャンペーン施策等により一定の認知度を獲得したものの、au PAY決済のスタンダードとなるまでには厳しい戦いが待っている。

次の主戦場であるライフスタイル領域では、昨年12月に「au WALLET」と「Ponta」の統合を発表したが、舵取りの難しい局面を迎えている。「Ponta」はこれまでリクルート系サービス(ホットペッパー、じゃらん、ホットペッパービューティー等)とタッグを組んできた。しかし2020年1月30日、リクルートはドコモと業務提携を図り、dアカウントとリクルートIDの連携開始を発表した。

auにとっては、Pontaを介したリクルートとの蜜月関係が構築し難い状況となり、関係整理が求められる局面だ。なお、auはホットペッパーと競合する「食べログ」を配下に抱えていることも、リクルートとの関係整理に影響を及ぼす可能性がある(食べログの運営会社カカクコムの主要株主がKDDI)。

1通信キャリアから脱却して経済圏化を図るには、まずフックとなるキラーサービスの確立が急務であるが、auは金融系サービスを今後の戦略領域として定め、非キャリアユーザーも含めた利用者獲得を方針として掲げる。競合も多い金融サービス領域で、auがどのように立ち回るかに是非注目してもらいたい。

経済圏化の動きを強めるSRAD。完成度の差はあれ、4社いずれも強力なポテンシャルを持つ

本第2回ではSRAD各社それぞれについて、現状の取り組みや見えてきた課題について考察してきた。慨すると、かねてから経済圏を創ってきた楽天と非常に高い潜在能力を誇るソフトバンクが一歩リード。昨年から進める業務提携で様々なサービス群を抱えるドコモ、Ponta を抱えるauが後を追う形だ。

各社で完成度の差はあれ、いずれも強力で有望な経済圏クリエイターと言ってよいだろう。もし他に経済圏クリエイターを目指す企業があれば、この4社とのガチンコ勝負となる。コンシューマー市場の多くの企業にとっては、SRADと戦うのではなく、彼らが形作る経済圏ゲームの中でどのように立ち回るかが主要な論点となっていくであろう。

次回以降は、今後のコンシューマー市場に訪れようとしている変化を捉えたい。まずは、世を騒がせ始めたキーワード「スーパーアプリ」について考察する。「スーパーアプリ」はSRADの力を強める中長期トレンドの1つとなると考えられるが、その理由については第3回でお伝えしていきたい。

マネージャー 中原 柊

大学卒業後、現職。
メディア・Webサービス・商社・消費財を中心に、 デジタル活用戦略や、新規ビジネス企画・立上げ支援等に従事。

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