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“市場と呼吸する”方法を、もっとも難しい“顧客”を抱える保育園から学ぶ

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新規事業開発には“市場と呼吸する”ことが不可欠

近年、デジタル技術の急速な発展により、業界構造の再編が進んでいる。各業界を代表する企業もこれまで築いてきた強固な地盤が突然崩れるリスクがあり、業界問わず新たな収益源の獲得が急務になっている。しかし、新しい事業を生み出すことは一朝一夕でできるものではない。AIやIoTといったデジタル技術を研究し、使いこなす準備を重ねても、顧客に響くサービスにならねば大きな収益は望めない。
世の中にモノが溢れている現代では、これまでの大量生産時代から多種生産時代、つまり消費者一人ひとりのニーズに寄り添う時代へと切り替わっている(※変化の中身は図1を参照)。そして、多種生産時代に重要視されているのがCX(顧客の体験価値)の向上。そのためには顧客のニーズをしっかり理解する必要がある。ただし、これが非常に難しい。なぜなら、顧客ニーズは非常に移ろいやすく、多様化しているためだ。
「顧客と同じ空気を吸って、気持ちを理解できた」と思っても、少し時間が経つと顧客は別の空気を吸いに行っていることが多々ある。私がこれまで支援してきた日本の大企業にも、顧客の気持ちを理解する、すなわち“市場と呼吸する”ことが非常に苦手な印象があった。
図1:大量生産時代から多種生産時代への変化

大企業が顧客ニーズを汲み取れない理由とは?

私がこれまでクライアントと一緒に新規事業の開発や営業戦略を策定してきた経験も踏まえて考察をすると、「大企業が“市場と呼吸する”ことを苦手とする理由」は主に以下の2つだといえる。

①    完璧主義で時間がかかる
例えば、「過度に精緻な調査結果を求めて、いつまでも机上で調査をしている」、「失敗が許されないという考えから社内決裁の手続きが多過ぎる」といった事が挙げられる。
変化の激しい多種生産時代では、事業の立ち上げに時間がかかってしまうと、「市場と呼吸できた」と思った時には顧客は次の空気を吸いに行っており、取り残されてしまうケースがある。

②    自前主義で自社の強みに拘り過ぎる
自社の強み(技術シーズ、アセット等)を主張するだけでは、顧客に対して盲目になる。「自分達の強みを生かせば、きっと顧客は満足してくれるだろう」といった考えでは、新たな顧客の獲得は難しい。自社の強みや想いを主張するだけではなく、顧客の話を聞くことが重要である。“吐く”だけでなく“吸う”。そうして顧客と呼吸を合わせることが、本当に求められている事業につながるのだ。

ではどうすれば良いのか。私が新規事業開発において“市場と呼吸する”ために、特に大切にしている考え方と具体的なアクションについて、保育園における育児対応を例に解明していきたい。

もっとも難しい“顧客”を抱える保育園から呼吸方法を学ぶ

保育園において、園児のために保育士が取っている行動は、多種生産時代における新規事業開発に通ずる部分がある。

まずは、要求の変化が激しい園児を相手にしている点だ。園児たちは、さっきまで楽しんでいた遊びでも急に飽きてしまうことが多々ある。顧客ニーズの変化が激しい現代で新規事業を行う難しさと類似している。
そして、園児の要求が非常に潜在的である点も挙げられる。園児、特に乳幼児は言葉を使った意思疎通が難しいため、保育士は各園児の要求を汲み取って対応している。時には子どもが泣きそうなことを察知し、事前に対応する。これは、顧客の潜在ニーズを検知して、先回りするサービスを検討していく新規事業の考えと類似している。
保育士は園児達と呼吸を合わせることで、素人が簡単には真似できない育児対応をしている。まさに、多種生産時代の企業の動き方である“市場との呼吸”を体現しているのだ。では、具体的な呼吸方法、つまり園児のニーズを汲み取るために、どのような行動を取っているのだろうか。

まず、良い保育園の条件として、常に園内が整理整頓されているということが挙げられる。保育士は常日頃から周囲に目を配っているため、園内が散らかっていると死角ができてしまい困るのだ。だからこそ、保育士は園内の状況や園児の変化に対する状況把握能力が長けている(=常に状況を把握している)ため、リスク(噛みつき等の事故)へ迅速に対応し、園児のニーズ変化を汲み取った価値を提供できるのだ。

次に、園児を楽しませることが上手な保育士は、新しいアニメをチェックしたり、YouTubeで手遊び(手を使って子どもと遊ぶ手法)を学んだりと、常に新しいことをインプットしていることが挙げられる。時には保育と直接的に関係が無いことでも、園児を楽しませる効果的な手段となり得る。保育士が趣味でやっていたヨガやDIYが、保育現場で大人気になることは珍しくはない。園児達の多種多様なニーズを満たすために、自ら様々な情報を取りに行き、状況に合わせてアウトプットしているのである。
これら良い保育園の条件から、“市場と呼吸する”ために重要なポイントを考えてみると、以下の内容に整理できる。

・    新鮮な空気を吸う
市場のニーズをリアルタイムに察知し、ニーズに応える施策をすぐさま投入する。
・    外の空気を吸う
外の市場のニーズにも目を配り、自分達の市場におけるサービスの幅や顧客基盤を拡張する。

新鮮な空気外の空気は、自社の既存サービスにはなかった観点をもたらし、新たなサービスのアイデアを吐出する糸口となる。この取り組みの繰り返しが、市場との呼吸において重要な要素である。

図2:良い保育園から学ぶ市場との呼吸方法 

新規事業開発で “市場と呼吸する”ための具体的なアクション

では、“市場と呼吸する”を実践するために、どのような行動をとるべきか。その具体的なアクションを3つご紹介する。

アクション1:まずは市場の空気を吸いに行く
自身のアイデアや知識を吐出する前に、まずは顧客候補や協業候補からヒアリングする(市場の空気を吸う)ことを徹底的に意識すべきである。自分の固定概念を覆す新たな意見に触れることができれば、アイデアへの大きな参考となる。

アクション2:吸い込んだ空気を自分の空気に変換する
しっかりとヒアリング相手の意見を聞きつつも、意見に溺れるのではなく、「どの価値を提供すればCX高められるか」という観点で、自分自身が深く理解できるまで検討を繰り返していく。ヒアリング相手からの情報を盲目に信じてしまうと、真のニーズを拾えない可能性が高い。現に保育園の園児も、状況に応じて本当の気持ちを表現しないことがある。

アクション3:新たな空気を組織内に送りこむ
新たなニーズにたどり着いたら、最後は組織内に空気を送る仕組みを作ることだ。その際、特に重要となるのが担当者を設置することである。担当者は、社内の同調圧力に屈しない立場や気概のあるメンバーをアサインすべきである。社内の旧態依然とした文化に流されてしまうと、市場と呼吸した結果がサービスに生かされない。
更に、担当者以外の協力も不可欠だ。新たなニーズを収集した場合は、エクセルに打ち込むでも、ポストイットに書き留めるでも良いので、組織内に展開することを忘れないで欲しい。担当者はそれを一元管理する。時系列やヒアリング対象の属性(顧客候補、競合候補、パートナー候補)等でまとめることで、常に新鮮な空気を組織内へ送り込むことができ、組織全体で“市場と呼吸できる”環境を構築できるだろう。

顧客ニーズを掴むためには「ヒアリングすれば良い」とシンプルに解釈をしているケースが多い。前述した2種類の空気(新鮮な空気と外の空気)を吸った上で、自分の空気に変換するまで実施しないと真にニーズを掴めたとはいえない。今回ご紹介した“市場と呼吸する”ことを意識して新規事業開発を進めることで、多種生産時代に合ったサービスを提供できる可能性が高まるだろう。

執筆者 Profile

シニアマネージャー東海林 武雄

大手教育事業会社を経て現職。
エネルギーや通信、製造業界における新規事業の立案や営業戦略の策定、組織設計・人材戦略など、広域なインダストリーと多様なテーマのプロジェクトに従事。 “クライアントの意思が第一”をモットーにクライアントと徹底的に議論し、クライアントとコンサルタント、互いの魂を込めた戦略作りを目指している。

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