ECサイトがもたらした”ショッピングの在り方”の変化
ECサイトがこれほどの影響力を持つことになった最大の理由は、店舗の垣根を取っ払い、消費者の商品選択肢を∞にしたからだろう。従来の「店舗に行き、商品を手に取り、試し、購入し、持ち帰る」という消費者行動は、店舗とWebを行き来しながらより良い商品の在処を探す「Webルーミング」、「Showルーミング」と呼ばれる形態に変わった。このECサイトによる消費者行動の変化により、店舗を持つ小売企業は変革を余儀なくされている。
Digital Blogsコンサルタント記事
ECサイトがこれほどの影響力を持つことになった最大の理由は、店舗の垣根を取っ払い、消費者の商品選択肢を∞にしたからだろう。従来の「店舗に行き、商品を手に取り、試し、購入し、持ち帰る」という消費者行動は、店舗とWebを行き来しながらより良い商品の在処を探す「Webルーミング」、「Showルーミング」と呼ばれる形態に変わった。このECサイトによる消費者行動の変化により、店舗を持つ小売企業は変革を余儀なくされている。
景気の良かった時代に築いたこれら商慣習から未だに抜け出せない結果、他小売形態に顧客を奪われている。
そして、打開策として注力しているECサイトを見ても課題は山積みだ。百貨店ECはAmazonやZOZOといった大手ECを真似た作りで独自性がない上、使い勝手は圧倒的に劣る。さらに配送料等のコストパフォーマンス面でも劣るため、利用客にメリットを与えられていない。その為、百貨店側がEC認知度を上げるため案内すればするほど、他社ECサイトに顧客が流出する悪循環が生まれている。
このように店舗でもECでも他小売形態に劣っている百貨店に、復活の道はあるのだろうか。
それは何か。「百貨店」というブランド力ではないだろうか。
ブランド力の源泉となっているものは2つあると考えられる。1つは高品質なラインナップ(モノ)、もう1つがおもてなしの心(ヒト)だ。
前者は一般的な利用調査*1からも明らかになっている。利用客の多くは”少し高価な食料品”や”差し入れ”、”ギフト”を百貨店で購入しており、日用品等ではない百貨店ならではの商品を求めている。
後者は単なる接客ではない。例えば「外商制度」。これはお得意様に対し“担当者が家まで商品を届けに行く”、“店舗内専用サロンで休憩が出来る”などの特別なサービスを提供する百貨店独自システムだ。ここから派生した場面に応じた丁寧なラッピング等のサービスは、他の小売にはない価値を提供できている。
ECといった新たなサービスに乗り出す前に、まずはこの唯一無二の価値をしっかりと届けられるよう、工夫することを優先すべきである。
①. おもてなし力のアピール強化
百貨店店員の多くは得意分野の資格を持っているため、その知見をアピールすることが効果的だ。例えば東急ハンズの“Hi! Tenshu”のように売り場の一角をすべて担わせるのも一手である。その他にも、店内サイネージで資格概要や誰が資格保持者かを案内し、その人の居場所や不在時の接客予約対応を可能にするサービスも考えられる。このような店舗で店員と顧客を繋ぐ仕組みを拡充させることがカギになる。
②. おもてなしのナレッジ強化
ナレッジとは店員が接客を通して得た顧客の性格や好みといったパーソナル情報を指す。現状このナレッジは殆ど店員の脳内に閉ざされ共有できていない。ベテラン販売員はフラッと入店された顧客であっても、「あのお客様は気難しいから普段以上に丁寧に接客しないと」、「あのお客様は春になると黄色のスカーフを買うから倉庫から取ってきてお薦めしてみよう」といった対応が出来るが、若手はその情報を共有されていないため0から情報収集していかなければならない。一方、一流ホテルのリッツカールトンは世界共通の顧客情報管理基盤を構築している。利用客の好みや利き手などを随時登録し、従業員が顧客に合ったサービスを提供できるようになっている。百貨店もこのような基盤を構築し、店員の脳内顧客データベースを統合した上で、随時情報を更新・共有・分析できるシステムを作るべきだ。ナレッジを属人化したままにせず、皆でより接客を高め合える環境を整えることがカギになる。
このような強化には仕入先やフロア等の垣根を超えた対応が求められる。そうすると棚割りや仕入れ方法も新たな形態に変える必要があり、自ずと古い商慣習に変革が起こる。
ECサイトがもたらした変化に対応するには既存店舗の改革が必須となるが、その際の指針となるのが「これまで提供してきた価値」だろう。他社の真似事ではない、自社ならではの価値を見極め、時代に合うよう価値を進化させる施策を打ち、そこにEC等の新しいサービスを融合させることでお客様に求められる新しい店舗に生まれ変わり得る。
百貨店だけでなく、リアル店舗で戦ってきた企業は今一度「自分たちの価値は何か?」を振り返ってみてはいかがだろうか。そこに新たな店舗へ生まれ変わる道があるかもしれない。
シニアコンサルタント金澤 佑依
大手小売店を経て現職。
金融、通信、ユーティリティなどの業界を中心に、オペレーション改善や新規事業立案といったデジタル関連テーマに従事。 デジタル・イノベーション・ラボと協力して国内外のデジタル事例調査・研究、ベイカレントのデジタルマーケティングも担当。