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大手ECがディスラプトしつつある百貨店に復活の道はあるか

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ECサイトがもたらした”ショッピングの在り方”の変化

2020年2月24日、老舗衣料品店バーニーズ・ニューヨークは全米の全主力店舗を閉めた。ECサイト登場以来、集客力が鈍化した同社は、ネット戦略を打ち出すも波に乗れず2019年8月に2度目の経営破綻。その後懸命にスポンサーを探すも実らず、97年の歴史に幕を下ろした。このことから、ECサイトは老舗企業をも全店閉鎖に追い込む影響力を持っていることが明らかとなった。

ECサイトがこれほどの影響力を持つことになった最大の理由は、店舗の垣根を取っ払い、消費者の商品選択肢を∞にしたからだろう。従来の「店舗に行き、商品を手に取り、試し、購入し、持ち帰る」という消費者行動は、店舗とWebを行き来しながらより良い商品の在処を探す「Webルーミング」、「Showルーミング」と呼ばれる形態に変わった。このECサイトによる消費者行動の変化により、店舗を持つ小売企業は変革を余儀なくされている。

大手百貨店も変化への対応を始めたが、期待した成果は出ていない

小売界の古株である百貨店も同様に、変革を迫られている。その一例として、百貨店主要5企業はECサイトへの進出を経営戦略として打ち出し、顧客へのアプローチ拡充に注力している。
出所:各社IR情報
しかし百貨店の売上高は減少傾向にあり、店舗閉鎖も立て続けに行うほど窮地に追いこまれている。
出所:日本百貨店協会
なぜ百貨店はこのような状況に陥ってしまったのだろうか。その最大の理由は“前時代的慣習”から抜け出せていない点にある。2つの例から見てみよう。

  • 仕入れ方法
    ​百貨店独自の仕入れ方法に、在庫リスクを背負わずに済む「消化仕入れ」(場所だけを貸す)と「委託仕入れ」(売れ残りを仕入れ先に返品できる)がある。代わりに在庫リスクを抱えたままの仕入先が商品の種類や数量をコントロールしてしまい、百貨店の独自性が出せないデメリットがある。
  • 店舗運営
    上記仕入れ方法により、売り場作りや店頭接客販売まで仕入先の派遣販売員が担うようになった。百貨店側の手間は減るが、ECでは当たり前になっているメーカーの垣根を超えたOne to Oneマーケティングは全くできていない状況である。

景気の良かった時代に築いたこれら商慣習から未だに抜け出せない結果、他小売形態に顧客を奪われている。

そして、打開策として注力しているECサイトを見ても課題は山積みだ。百貨店ECはAmazonやZOZOといった大手ECを真似た作りで独自性がない上、使い勝手は圧倒的に劣る。さらに配送料等のコストパフォーマンス面でも劣るため、利用客にメリットを与えられていない。その為、百貨店側がEC認知度を上げるため案内すればするほど、他社ECサイトに顧客が流出する悪循環が生まれている。
このように店舗でもECでも他小売形態に劣っている百貨店に、復活の道はあるのだろうか。

百貨店ならではの価値に正面から向き合う

ここで一度考えたいのは、「これまで百貨店が提供してきた価値は何か?」だ。百貨店には江戸時代から続く400年以上の歴史があるが、これほど長く存続してきた背景には百貨店独自の価値があるからに他ならない。

それは何か。「百貨店」というブランド力ではないだろうか。

ブランド力の源泉となっているものは2つあると考えられる。1つは高品質なラインナップ(モノ)、もう1つがおもてなしの心(ヒト)だ。
前者は一般的な利用調査*1からも明らかになっている。利用客の多くは”少し高価な食料品”や”差し入れ”、”ギフト”を百貨店で購入しており、日用品等ではない百貨店ならではの商品を求めている。
後者は単なる接客ではない。例えば「外商制度」。これはお得意様に対し“担当者が家まで商品を届けに行く”、“店舗内専用サロンで休憩が出来る”などの特別なサービスを提供する百貨店独自システムだ。ここから派生した場面に応じた丁寧なラッピング等のサービスは、他の小売にはない価値を提供できている。

ECといった新たなサービスに乗り出す前に、まずはこの唯一無二の価値をしっかりと届けられるよう、工夫することを優先すべきである。

百貨店が真の価値を発揮するためのポイント

「高品質なラインナップ(モノ)」を届けるには高品質な接客が無ければならない。その為、「おもてなしの心(ヒト)」の強化が必要になる。おもてなしの強化ポイントは2つある。

①.    おもてなし力のアピール強化

百貨店店員の多くは得意分野の資格を持っているため、その知見をアピールすることが効果的だ。例えば東急ハンズの“Hi! Tenshu”のように売り場の一角をすべて担わせるのも一手である。その他にも、店内サイネージで資格概要や誰が資格保持者かを案内し、その人の居場所や不在時の接客予約対応を可能にするサービスも考えられる。このような店舗で店員と顧客を繋ぐ仕組みを拡充させることがカギになる。

②.    おもてなしのナレッジ強化

ナレッジとは店員が接客を通して得た顧客の性格や好みといったパーソナル情報を指す。現状このナレッジは殆ど店員の脳内に閉ざされ共有できていない。ベテラン販売員はフラッと入店された顧客であっても、「あのお客様は気難しいから普段以上に丁寧に接客しないと」、「あのお客様は春になると黄色のスカーフを買うから倉庫から取ってきてお薦めしてみよう」といった対応が出来るが、若手はその情報を共有されていないため0から情報収集していかなければならない。一方、一流ホテルのリッツカールトンは世界共通の顧客情報管理基盤を構築している。利用客の好みや利き手などを随時登録し、従業員が顧客に合ったサービスを提供できるようになっている。百貨店もこのような基盤を構築し、店員の脳内顧客データベースを統合した上で、随時情報を更新・共有・分析できるシステムを作るべきだ。ナレッジを属人化したままにせず、皆でより接客を高め合える環境を整えることがカギになる。

このような強化には仕入先やフロア等の垣根を超えた対応が求められる。そうすると棚割りや仕入れ方法も新たな形態に変える必要があり、自ずと古い商慣習に変革が起こる。

ECサイトがもたらした変化に対応するには既存店舗の改革が必須となるが、その際の指針となるのが「これまで提供してきた価値」だろう。他社の真似事ではない、自社ならではの価値を見極め、時代に合うよう価値を進化させる施策を打ち、そこにEC等の新しいサービスを融合させることでお客様に求められる新しい店舗に生まれ変わり得る。

百貨店だけでなく、リアル店舗で戦ってきた企業は今一度「自分たちの価値は何か?」を振り返ってみてはいかがだろうか。そこに新たな店舗へ生まれ変わる道があるかもしれない。

執筆者 Profile

シニアコンサルタント金澤 佑依

専門分野
デジタルマーケティング、デジタル人材育成

大手小売店を経て現職。
金融、通信、ユーティリティなどの業界を中心に、オペレーション改善や新規事業立案といったデジタル関連テーマに従事。 デジタル・イノベーション・ラボと協力して国内外のデジタル事例調査・研究、ベイカレントのデジタルマーケティングも担当。

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