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情報銀行の大きなうねり、起爆剤となる企業は現れるのか(前編)

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近年、データ(情報)はポスト石油とも言われ、ビジネスの成功につながる非常に重要な資産であるとの認識が高まってきている。GAFAに代表されるプラットフォーム企業は、個人の活動により発生するデータ(個人情報)をマーケティングや広告に活かすことで顧客を囲い込み、成長を遂げてきた。日本においても、様々なテクノロジーを使ってデータの蓄積を進めている企業は少なくない。

その一方で、個人情報は企業が独占するべきではなく、自分でコントロールできるべきという個人情報保護の観点から、EUにおいて「一般データ保護規則」(GDPR)が2018年に施行された。その中でデータポータビリティ権が提唱され、「個人情報を企業間で移転させられる」、「データを削除することができる」など、自分自身で個人情報をコントロールできる権利が認められた。

このような背景から、日本政府は個人情報を保護しつつ、情報の流通を促進するための議論を開始した。2017年、データ流通環境整備検討会(内閣官房IT総合戦略室)の「AI、IoT時代におけるデータ活用WG 中間とりまとめ」では、いわゆる情報銀行の定義が示された。

また、2018年6月、総務省と経済産業省は情報銀行に関する認定制度の在り方に対し、「情報信託機能の認定に係る指針ver1.0」を公表した。2018年10月に行われた情報銀行認定制度の説明会では、200社を超える企業が参加したこともあり、情報銀行というモデルに多数の事業者が参入し、競争が過熱していくものと思われていた。しかし1年経過した現在、情報銀行認定を受けた企業はわずか3社にとどまっている。今回は、情報銀行の現状と今後の広がりについて考えてみたい。

情報銀行とは

上述した指針では、「情報銀行」は以下のように定義されている。

”情報銀行(情報利用信用銀行)とは、個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS(※)等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業。”

非常にわかりづらい表現だが、一言でいえば個人のデータを預かり、代わりに第三者へデータを提供する事業、つまり個人情報流通機能の提供である。

さらに、その指針に基づいた「情報銀行認定」を申請する事業者を審査・認定する事業を「日本IT団体連盟」が開始している。

※PDS(パーソナルデータストア)- 個人情報を蓄積し、管理するシステムのこと

情報銀行に類似した海外の先行事例

情報銀行に対するイメージを膨らませるため、日本に先だってデータを流通・活用した、アメリカ、イギリス、フランスの動きは興味深い。

<アメリカ>
アメリカでは、「データブローカー」というデータ流通におけるPDS・情報銀行と同様の役割を担うプレーヤーが既に存在しており、データ流通市場(2016年推定約1500憶ドル)の80%以上がそれらデータブローカーを介した取引といわれている。パーソナルデータを含む多様かつ大量のデータを収集し、マーケティングなどに有用な示唆を与える形式に加工したうえで外部企業にデータを販売している。

GAFAのようなデータ独占企業以外の企業では、各企業が保有する個人データでは求めるデータを十分に取得できないため、データブローカーが様々な事業者・個人からデータを集約し、販売するモデルが発展したものと考えられる。

<イギリス>
イギリスでは政府が”個人情報を消費者本人が管理・活用できるように、経済成長を促す”ために、官民共同で”midata”プロジェクトを立ち上げ、企業から個人データを収集し、消費者自身がアクセスして情報提供する仕組みを整えた。実証実験では、複数のアプリ(Health,Finance等)を組み合わせて身近に消費者へデータを届けられるようになった。

一方で、データを活用するには、消費者が更にデータを提供する必要があるという企業からの指摘や、プライバシー侵害や情報漏洩に対する消費者の不安感といった問題が浮き彫りになり、アプリは事業化されておらず、データ流通基盤も構築されていない現状にある。

<フランス>
フランスではイノベーション推進機関 Fing社が、将来のパーソナルデータの活用方法や動向などを考察するプロジェクト「MesInfo Experiment」を2012年に開始し、官民共同で様々なデータ活用方法の考察を繰り返している。

2016年以降は、自治体のオープンデータ・パーソナルデータを活用した実証実験を行うなど、パーソナルデータ利活用のさらなる推進を目指している。

このように海外においても、情報銀行事業や個人データの流通に関しては、課題はありながらも官民あげて推進されている状況である。

各社独自で立ち上げ始めた情報銀行的サービス

一方、日本においても情報銀行またはそれに類似したサービスが開始されつつある。

電通グループのマイデータインテリジェンスは、2018年11月に「MEY(ミー)」の運用を開始している。個人情報を登録すると、ユーザーデータを活用したい企業からのオファーが来るといわれている。

この記事を書き始める2週間ほど前にアプリをダウンロードし、登録すべき全ての情報(質問)に回答してみたが、企業からのオファーは1〜2件であった。私の個人データが魅力的でないか、活用企業が集まっていないのかのどちらかだろうが、市場としてはまだまだと言えそうだ。

また、情報銀行に準じた事業としては、信用スコア事業がある。こちらも様々な個人データを組み合わせ、独自のロジックで個人のスコアを算出し、貸出金利優遇やその他様々な企業からの優待サービスなどが受けられるものである。

J-Scoreによって2017年9月に開始された「AIスコア・レンディング」(AIによるスコアリング結果に基づく融資)もその一つであり、2019年11月末時点で、100万人のユーザーと300憶円弱の融資残高となっているようである。
この動きを追いかけるように、ヤフー、LINE、ドコモといった、既に多くの顧客基盤を持つ企業が信用スコアに基づく融資事業を開始している。

過去に例のないビジネスモデルゆえに、なかなか実像が見えにくい。

また、現状の「情報銀行認定」の仕組みでは、仮に認定を取得していなくとも事業を開始することができることもあり、2019年12月時点での認定企業は3社となっている。

三井住友信託銀行は、購買データ、移動データ、健康情報などを収集し、データ活用側に提供するモデルであるが、まだ実証実験レベルにとどまっており、商用サービスは開始していない。

フェリカポケットマーケティングは、地方自治体における様々な活動において個人にポイントを付与、それらのポイントを自治体内で流通させる仕組みを提供している企業であり、すでに情報銀行に近い機能を様々な地方に導入している。今回、認定制度の開始を受け、取得に動いたのであろう。

J-Scoreはソフトバンク、みずほ銀行が共同出資して設立したものであり、2017年9月に信用スコアに基づく融資事業を開始している。今後はその他の個人データも収集し、与信関連情報以外も活用したAIスコアを企業に提供するなど、情報銀行としてのサービスを開始する予定である。

情報銀行の発展に向けた課題

前述したもの以外にも、情報銀行業に参入を表明している企業は多数存在する。データ活用のニーズはあらゆる産業で発生するため、各社がデータビジネスを主導することを狙っているが、一方で発展に向けての課題も多い。
(ア)    認知度の低さ
そもそも情報銀行という概念自体、一般的にはほとんど認知されていない。2019年6月「官民データ活用推進基本計画実行委員会 データ流通・活用ワーキンググループ 第二次とりまとめ」の調査結果によると、PDS、情報銀行の概念認知は1割未満となっている。

消費者の多くは、自身の個人データを企業が裏で活用していることに対しての疑念や不安を抱いており、データを預けることに対して否定的な意見が多い。加えて、情報漏洩に対する危機感、データ管理の煩わしさ等もあり、利用したいという意向もそれほど高くない状況にある。まずはこれらの機運を変えていかなければ、情報銀行は事業として成立しそうにない。

(イ)    情報の分散
参入を表明している各社が情報銀行を本格的に事業化していけば、あらゆる業種や地域においてサービスが始まる可能性もある。しかし乱立すると困るのは個人であろう。利用したいサービスを見つけたとしても、同じような情報を複数の情報銀行に登録せねばならなくなる。

また、行動データや購買データを蓄積してきた企業としても、重要な情報をわざわざ他の企業に提供することに対するインセンティブがない。

そのため、個人データは多くのサイトに分散されたままの状態となり、情報銀行が発足したとしてもデータが分散したままでは、個人にとってもデータ活用企業にとっても利便性が悪く、パーソナルデータの効率的な利活用を実現するのは難しいであろう。

(ウ)    ユースケースの不足
情報銀行は、データの預け手(消費者・個人)とデータの借り手(企業・店舗・自治体等)のニーズがマッチして初めて成り立つビジネスモデルである。需要がなければいくら情報を集めたところで事業として成り立たないが、現在行われている実証実験は、ユースケースがあいまいなまま情報を収集することに注力しているものも多い。このままでは個人データが集まったとしても、結果的に使われないサービスになってしまう懸念がある。

データ活用企業のはデータ自体が欲しいわけではない。自社にあったデータの活用方法を知りたいはずである。情報銀行としては、収集した大量のデータを分析し、そこから得られた”インサイト”を提供し、顧客に対してアクションを促す方法を提供することが重要だ。つまり、集めたデータが「どう使えるのか?」に対しても、答えを出さなければならないのである。

(エ)    個人に対する便益の低さ
有用なユースケースが見出せたとしても、データの預け手(個人)に提供できる便益がニーズをとらえたものでなければ、データは提供してもらえない。現状想定される便益は、ポイントやクーポンを提供するイメージが近いが、まだまだ最善策とはいえない。一般的なクーポンサイトを見ると、各個人のニーズにマッチしないものが多く、クーポンを選ぶ煩わしを感じるものもあるだろう。

個人に提供できる便益を、情報銀行の機能やサービス、使い勝手なども含めた形でとらえ、サービス全体の品質をどこまで高められるかが重要となる。

これらの課題を克服し、情報銀行が<広く>知られ、<企業にデータを>使ってもらい、<個人から様々なデータを>提供してもらえるようになるには、まだまだ多くの壁を乗り越えなければならない。

次回は、情報銀行の発展に向けた打ち手と、発展の起爆剤となりうる企業について考察する。(後編に続く)

執筆者 Profile

エグゼクティブパートナー内田 秀一

専門分野
IT戦略策定、大規模PMO、ITリスク管理、BPR

独立系ITコンサルティングファームを経て現職。
金融、流通小売業を中心に、IT戦略立案、業務改革、ITガバナンス強化、大規模プロジェクトマネジメント等のプロジェクトに従事。共著書に「データレバレッジ経営」

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