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アフターDX ~新たなエコシステムでの戦い方~

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予測できないDXの終焉

デジタルトランスフォーメーション(DX)の概念※1が提唱されてから約15年の月日が経っているものの、DXは未だ花盛りといった印象だ。ただこれだけの月日を経てもなお、DXの本質や実態を掴むことは容易ではない。その理由は、トランスフォーメーションが変化の過程を指す言葉であってゴールではないからだ。それでも「アフターDX」が来るとするなら、その際、日本企業はどう戦っていくべきなのだろうか。

DXによるビジネス・エコシステムの構造変化

そもそも、デジタルにより変形(トランスフォーム)したものとは何なのだろうか。大局的な視点で見るならば、それは国家や産業の「枠組み」であると筆者は捉えている。

デジタル国家の例としては、エストニアがよく挙げられる。エストニアでは、居住人でなくてもオンライン登録ひとつで国内の一部行政サービスを受けることができる。政府と国民のコミュニケーションは国籍や居住地に依存しないため物理的距離に縛られることもない。デジタルサービスは未だ限定的な側面があるし、国土や人口は日本とは圧倒的に違うが、エストニアはデジタルを活用することで、従来の国家の「枠組み」(領域、人民、権力)の概念を変形しつつある例と言えるだろう。

産業分野でも「枠組み」の変形は起こっている。従来の産業の「枠組み」とは、業種・業界という産業構造によってカテゴライズされた中での企業同士の競争・協力関係(いわばエコシステム)だった。だが近年、大企業やメガベンチャーを中心に資金力・組織力を活かしたエコシステム戦略の事例が数多く見られるようになった。

楽天は、有名なエコシステムの成功事例だが、その戦略はだいぶ前から実行に移されていた。冒頭で記したDXの概念が提唱されて間もない2006年、楽天は「楽天エコシステム(経済圏)」という構想を提唱している※2。現在まで、楽天はIT・デジタルを成長ドライバーとしながら事業多角化を進め、EC→ポイント→金融→決済→電子書籍→モバイル→スポーツ→フリマ→通信キャリアと従来の業種・業界の枠組みに縛られることなく変形し続け、今や売上高1兆円を超える大企業へと成長した。

仮にもし今、楽天の歴史を知らない人に「楽天はどの業界の企業ですか?」と尋ねても、回答に窮するのではないだろうか。従来の産業構造にデジタルの横串が刺さり、エコシステムの再編成は着実に進行している。DXの潮流に乗った日本の企業は今、新たなエコシステムへの移住を余儀なくされている。

図1:ビジネスエコシステムの構造変化

アフターDXの新たなエコシステムの輪郭

新たなエコシステムで共生する相手は、古参のプレイヤーだけではない。業界慣習にとらわれない異業種の企業や、最初からデジタル実装されているテック企業もいる。黎明期にある新たなエコシステムにおいて企業間の共生が成立するかは、高次なビジョンが共有できるかどうかにかかっている。高次なビジョンは、社会貢献や未来価値の創造につながる何かである必要があるのだと思う。何故ならば、個々の企業のデジタル戦略、製品・サービスやそれを支える資源は異なっているため、一見して共生の意義が見出しづらいからだ。

共生の意義が見出せないとエコシステムでの淘汰リスクを孕むことになる。一方、例えば、「環境に配慮したスマートシティ」や「人や暮らしを豊かにするデータ活用社会」のような、できるだけマスが共感しうる共通ビジョンを掲げることで、「各論は様々あれど、総論としてお互い目指す方向は一緒だね」という事になり、賛同者が集まるというわけだ。DXの潮流に乗った日本企業が新たなエコシステムに移住したと気づいたら、まずやるべき事は「この新たなエコシステムで共感を得るビジョンを掲げ」、「生存戦略を練る」ことだと思う。しかしながら実態は、DXの実利を急ぎ、共通ビジョン(目的地の設定)を明確化しきれていない点が、現状の課題ではないだろうか。

さらに、ビジョンの共通化に加え、目的地に対する行動指針(Values)も必要だろう。特に大企業の場合は、規律や組織、指示系統を重んじるため、ビジョンだけ掲げて「後は個の能力でやっといてね」と簡単に実行には移せないし、一度実行に移したら簡単には引き返せない。新たなエコシステムにいることを自覚し、社会貢献/未来価値につながる共通ビジョンや行動指針を策定し、生み出される価値が各企業の利益にどう還元されていくか、その循環シナリオ作りがますます重要になってくる。

図2:新たなエコシステムの輪郭

新たなエコシステムでの生存手段

新たなエコシステムで生き残るためには、エコシステムの輪郭を捉え、価値の循環を理解する必要がある。更には他社との共生可能性を見極め、環境適応能力を最大化させなくてはならない。新たなエコシステムでの企業のポジションは、プラットフォーマー、クリエーター、メンバーストア、キャピタリストの4つに大別される。
図3:アフターDXにおけるポジション/勝負ポイント
必ずしも望むポジションが取れるわけでもないし、取ったポジションは不動でもない。単一の企業であっても事業セグメントに応じてポジションを使い分けたり、ロードマップの過程で能動的にポジションをシフトしていくオプションも想定しておけば対応の柔軟性は増すが、これは容易い事ではない。実際、プラットフォーマーやクリエーター、キャピタリストになって生き残れる企業はごく一部に限られるだろう。企業がそのポジションで戦いを挑み、勝者になるべく戦うかどうかはひとつの分岐点だ。

他方、多くの企業はメンバーストアとして出発することになる。メンバーストアとなる事を受け入れた企業は、最初から新たなエコシステムを統べる事は出来ないが、顧客接点に集中し魅力価値の訴求につながるコンテンツ作りに集中する事が可能となる。プラットフォーマーやクリエーター、キャピタリストが作ったエコシステムの輪郭や基盤はうまく使いながら、顧客接点の維持・強化を行うほうが現実的。特に日本に根付く企業にとっては、強みが活かせるのではないだろうか。

アフターDXの新たなエコシステムでは、これまで以上に厳しい生存競争が待ち受けている。苦難を乗り越え、デジタルが調和した新たなエコシステムで果たして日本企業はどういう進化を遂げる事ができるのか。まだまだDXからは目が離せそうにない。

※1 デジタルトランスフォーメーション
Eric Stolterman, Anna Croon Fors  Information Technology and The Good Life

※2 楽天の歴史

執筆者 Profile

パートナー太田 和哉

専門分野
新規事業立上げ、マーケティング戦略、ITモダナイゼーション

ITコンサルティング会社を経て現職。
通信・ハイテク、金融、情報サービス等を中心に、ICT・デジタルを活用した新規事業の立ち上げや企業間アライアンス支援に従事。

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