コンサル版DXで求められる現場監督力
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例えば “ピュア戦略” と呼ばれるMcKinsey社はデジタル領域や実行領域に足を踏み入れている(McKinsey Digital やImplementation)。一方で、SIerと呼ばれるITの担い手もコンサル領域に手を伸ばしている。直近でいえば、富士通がAI領域におけるコンサルティングサービスの提供を開始した(もともとPCIDSS※といった特定領域におけるコンサルはしていたが)。
もちろん “デジタル領域” だ。
※国内ビジネスコンサルティング市場 支出額予測、2018年~2023年(作成:IDC Japan)より抜粋
なぜこのような姿になったのか?主だった要因は、以下に挙げるような企業の変化だと考えられる。
- 事業創造の機動性が高まったこと
- 経営と現場の情報の非対称性が逆転し、現場の重要性が高まったこと
- 単一の事業部では事業創造が困難になり、社内外の知見に明るい調整役がより重要になったこと
これまでの時代は、一つのビジネスアイデアを、時間をかけて検討し、必ず成功できると確信できるビジネスモデルや商品となるまで磨きこみを行ってきた。代表的なものは、自動車や家電といったものだ。
しかし、デジタルの時代は違う。アイデアが浮かんだら、とりあえず形にしてみる、問題があれば、もう一度最初から作り直す、問題なければ、必要最小限の要素をビジネスモデルに落とし込んで、リリースしてしまう。こういった時代だ。話題のキャッシュレスでいえばPayPayの開発期間はわずか3か月である。
本サイトの別稿「日本企業におけるアジャイル」から引用するが
”現在のビジネス環境を表す言葉として「VUCA(ブーカ)」という言葉が昨今よく使われている。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べたものだ。急速なITの進歩・浸透により顧客のニーズは多様化し、ディスラプター(破壊者)と呼ばれるIT企業が次々に、そして速く誕生し、既存のビジネスモデルの再構築を促している。そのような中、顧客の求めるものに即座に適合し、産業構造の変化に対応できるような機動性のある「アジャイル」が広がってきたことは必然と言える”
とあるように、ビジネスの機動性が高まっていることは共通認識と言って良いだろう。 このような時代に、戦略策定やアジャイル組織の構築、といったテーマをコンサルタントの強みである「速い提言」で支援していくだけでは顧客は物足りないだろう。実際に、実行可能な状態にまで落とし込んでいくことこそが求められているのだ。
経営の主な仕事は戦略という「経営資源をどこに投入するか」という大きな問いに答え、決断することであった。しかし、その大きな問いに答える「だけ」では不足している。IT・デジタル技術の技術革新により、大量かつ多様なモノに加え、情報すらも市場や国をまたいでやりとりされるようになった。変化の激しい時代―ビジネスのタネは生まれては消え、ユーザーの行動は絶えず変化し、新しい競合そしてパートナーが増え続ける―この情報量に対応し続けられるだろうか?
この変化を真っ先に捉えられるのは、ユーザーに、市場に最も接している「現場」だ。だからこそ、先に挙げたように現場が感じたことを、より早くサービスに反映するアジャイルの重要性が高まっているのだ。
一方で、経営が情報を知ることの重要性に変わりはない。そこでコンサルタントの登場だ。たしかにこれまでもコンサルタントが現場視察を行い、研修を受け、新たな気付きを得て、経営に対して提言することはよくあることであった。しかし、それは点であり、線ではなかった。
現在におけるコンサルタントの役割はより現場に近づくことで(具体的に言えば、現場で協業することで)、より「リアル」な情報をもとに提言を行うことが求めらているのだ。
上記に示した 1. 機動性の高まり、2. より現場に近い=深い知見が求められていること に加え、企業活動を困難にしているのが、横断的なサービスが求められている。もはや単一の事業部だけでの事業創造が困難になりつつあるのは自明の理だろう。社内横断的な事業部間連携に留まらず、(内製化も含むが)社外の知見も必要となっている。顧客やそのビジネスをどれだけ知っているかというドメイン知識や、デジタル技術の知見、といったところは確かに各事業部や各分野のプロフェッショナルが持つ強みだ。だからこそ、この2つをつなぐ社内外の知見に明るい調整役(=コンサルタント)がより重要になったといえよう。

“これまでの「社内にあるコアとなる事業、プロセス技術に資源を集中させ、他は大胆なアウトソーシングを図ること。「コア・ノンコア」のメリハリをつけてより筋肉質な組織で商品・サービスを作り上げる」となるのではなく、「短期間に社内外の多様な能力を集め・かけ合わせて、徹底的に差別化した商品・サービスを市場に負けないスピードで作り上げる」=アグリゲートする人々、これをアグリゲーターと呼ぶ。”(引用)
考え方の例としてわかりやすいのは、プレイステーションの開発だ。元ソニー副社長の久夛良木(くたらぎ)健氏は有能な人材を自社内に集めることに執着せず、「ゆるい」つながりを保ち、その時代に応じて、ソニー内に限らず世界のベストプラクティスをその時々で貪欲に集めた。たとえば、GPU・CPUを自前にこだわらず、先端を走っていた東芝やIBMと共同したことは有名な話だろう。
「短期間に社内外の多様な能力を集め・かけ合わせて、徹底的に差別化した商品・サービスを市場に負けないスピードで作り上げる」ことを実現しようとしたときに、問題になるのが、予算取り・社内政治・調整といったプロジェクトの壁になるものだ。(前述の久夛良木氏は、事業部ではなく研究所というかたちでチームを作り、自部門の知的財産権収入により予算取りから逃れ、遠隔地に居を構えることで心理的な独立性を保った)
つまりPMOやアジャイルマネージャのような存在である。PMOと聞くと、日本では管理者のように見られるが、プロジェクト推進型のPMOは上記のような機能を持つことが多い。
なにも旧来のSIや業務改革におけるPMOを想定しているわけではない。弊社則武が定義したような「速い提言と実行を兼ね備えたコンサルタント」が、(時には予算取りや社内政治、調整といった地道な課題解決をしつつも)変革の媒介となり、クライアントや多様な社内外のメンバーとともにアグリゲーターとして変革を実現する、新しいサービスを開発する、そんな未来がすぐそこにやってきている。
執筆者 Profile

シニアマネージャー櫟木 峻介
- 専門分野
- 大規模PMO、BPR、RPA
日系コンサルティングファームを経て現職。
金融業界を中心に、航空、インフラ、製造等、多数の業界を経験。
主に大規模プログラム/プロジェクト推進として計画・実行・マネジメントに従事。
ほか、業務改革、RPA導入支援などに従事。