さて、当アプリの収益化方針を勘繰るべく料金体系を見てみると、2019年4月時点では1か月360円、3か月720円、年1450円のプロ版と1日10種類しか認識できない無料版が存在する。ただ、このアプリを日常的に使い続けるペルソナの想定がなかなか難しい。
使い続けるきっかけとなる水族館でのユーザーは、一日に10種類超の需要があるため無料版ではなくプロ版を課金すると思うが、毎月のように水族館を訪れるユーザーは少数のため、訪問の月のみ都度登録すれば十分となる。日常的にある程度魚に関わるユーザーとしては釣り人、漁業関係者、飲食店・・・が考えられるが、釣り人は1日に10種類以上の外道(釣りの目的ではない魚)を釣り上げることはまれであるため、無料版で十分である。
一方、魚河岸関係者や日々、河岸で食材を目利きしている個人経営の街中割烹店などは、普段扱わない種を見分けることができると活用の余地があるかもしれない。さらにはキノコ狩りや山菜取りにおいて毒キノコや毒草を見分けたり、釣果に対して毒魚ではないかを見分けたりといったことも期待できる。ただし、誤判定のリスクがある以上全面的に信頼できないと命を預けることは難しい。いずれにせよユーザーは限定的である。
では、B2Bモデルでのマネタイズは可能だろうか?最近のアプリでは、アプリ利用者の行動データを蓄積し、データ自体に経済的価値を見出しマネタイズに成功していることが多い。ただ、このアプリから得られるデータを企業のマーケティング活動に活かす先は極めて限定的であり、データ自体に経済的価値を見出して収益化することは難しい。
現時点では、水族館や動物園との提携がされているようであるが、他の可能性としては、農業への活用や、ホームセキュリティサービスへの活用が考えられるのではないか。
たとえば農業では、定置に設置し、益虫と害虫を見分けることで、益虫の保護や害虫に対する防除の農薬を必要最低限に抑えることが期待でき、農業組合や契約農家を囲っている外食産業がターゲットとなる。またホームセキュリティサービスでは、ホモサピエンスを細分化して空き巣犯として認識することはできないにしても、熊やイノシシ、猿の出没する地域においては、対象動物を見分け住民へ通知するサービスへの展開が考えられる。
エンタメでの成功の道筋はないだろうか。開発者は「ダイビング中にARゴーグル上で生き物の名前がリアルタイムで表示・記録されたら面白い」と思ったのが開発の原点らしく、『発見ログを世界中のダイバーで共有できると面白い』とのこと。(ocean’α「かざすAI図鑑アプリ『LINNÉ LENS(リンネレンズ)』誕生までの軌跡に迫る!〜開発者インタビュー〜」)
そこでダイビングにこのアプリを普及させるための方法を考えてみた。
ダイバーにはおなじみのダイビングコンピュータ(ダイコン)という腕時計型の機械があり、もともとはダイバーの安全管理のために深度やダイブ時間の確認に使う道具であるが、ダイブログを記録したり、GPSがついたりとテクノロジーの発展に伴い日々進化している。今後ディスプレイやネット機能の充実が行われると、いずれはスマートウォッチと合流すると思われる。このダイビングコンピュータのブランドと提携して普及させることができれば、成功するのではないか。なによりダイコンで魚の種類が分かる未来はわくわくする。
ダイビングコンピュータを通じて多くのデータが蓄積されると生態系の情報や詳細な画像・動画の分析ができるようになる。明かされていない生態の解明にもつながる。同定の精度が上がると新種の発見も可能になる。ダイバーたちの収集した動画により、魚をVR上で再現できるようになると、ダイビング練習用プールを活用したダイビング体験が可能な水中VRというエンタメ施設も登場するかもしれない。
余談だが、和食の大将に魚の種別が特定できるアプリの話をしたところ、その魚が養殖なのか、天然なのか、産地はどこかが分かると嬉しいといった話を聞いた。本物を食材に使用している大将ならではの言葉である。これを実現するためには泳いでいる魚だけではなく、水揚げされている魚、切り身、刺身、一夜干し、開きなど様々な状態の魚を見分ける必要があるが、これが実現したとして回転ずしの代用魚を見抜いたり、スーパーで産地偽装を見抜いたり、割烹で天然詐欺を見抜いたりといったことが可能になった未来、はたしてユーザーは幸せなのだろうか。
AIは養殖業界にも進出しており、天然と養殖との差異が少なくなり、養殖AIと養殖判定AIのいたちごっこが始まるとすると、安価で天然に近いネタが流通し、ユーザーは幸せになるのかもしれない。輪廻だけでなく、人の業にも思いを馳せつつ、サービスの成功に期待したい。