ものによっては何千何万といったおびただしい量の学習用データ(教師データ)の準備、ラベル付け(正誤・カテゴリ 等)を行う。それが終わったかと思えば、精度を上げるためのチューニングのために辞書データの改良を迫られる。(この段階辺りで頓挫した企業も多いのではないであろうか…)それでも上手く精度が得られなければ、データの「前処理」にもノウハウを注ぎ込む。画像認識AIで有名なベンダーは優れた画像処理技術を持っていることが多いが、AIが”理解しやすい”ようにする前処理には、やはりユーザーノウハウが必須だ。そして、これらは開発段階だけでなく運用段階でも生じるものである。運用を通じた精度の向上がAIの真骨頂だからだ。
2つ目は性能・効果の不確実性である。「○○%の稼働率で」とITシステムのように定義できれば良いものの、AIでは初めから「○○%の画像認識」とは保証しにくい。ベンダーも「データを実際学習させてみないと分からない」が正直なところだろう。すると、ユーザー企業にとっての導入判断はベンダーの過去実績に頼らざるを得なくなる。AI導入において費用対効果が精査できないといって断念する企業の話はよく耳にする。
ここまででお気づきのとおり、上記2点でAI開発・運用をアシストできるのがユーザー企業の強みである。1つ目はまさにユーザーノウハウ、それによって完成した機能特化のAIという成果物は同様のAIソリューションを導入しようとする企業にとって有益なものである。2つ目はユーザー企業内での実感を伴う導入効果だ。前述の苦労を乗り越えて達成した効果が、ベンダーが提供する他社事例における効果よりも訴求力があるのは想像に難くない。
また、ベンダー側にもユーザー企業と協業して外販をするメリットがある。協業ユーザー企業のノウハウを使うことで開発・運用工程における導入企業の負荷を減らし、事例による想定効果の裏付けができる。導入検討企業に刺さる要素を獲得できるのである。特に、一般画像認識の普及、予測/最適化におけるモデリングの定石化が進み、普及段階に来たOCR関連のAIサービス等では、AI技術単体での差別化が難しくなってきている。この競争力は加速するのではないか。