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デザイン思考とアート思考の違い、その真価を問う

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DXに求められるイノベーティブな発想

 昨今、あらゆる企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みを加速させていることは論をまたない。弊社の定義では、DXとは「デジタルテクノロジーを活用し、従来のビジネスモデルを抜本的に変革すること」である。企業が従来のビジネスを抜本的に変革するためには、既存のビジネスモデルや業界の慣習に囚われないイノベーティブな発想が必要となる。加えて、モノが飽和している現代において、顧客の消費スタイルはモノからコトへと変化しており、企業としてはどのような価値や体験を顧客に提供するべきかが重要な論点となっている。

  

 つまりDXに取り組む上では、企業目線ではなく、顧客(人間)を中心としたイノベーティブな発想が必要なのである。

 そして、人間中心のイノベーションの思考法として、真っ先に取り上げられるのが『デザイン思考』であろう。詳細は後述するが、デザイン思考とはデザインファームIDEOよって提唱・確立された、人間中心の課題解決思考アプローチである。さらに近年では、『アート思考』という考え方も出てきている。本稿では、この2つの思考法について、アプローチの違いから考察し、活用する際のポイントを見ていく。なお、アート思考については共通認識されるような定義がまだ存在しないため、弊社が整理・体系化した内容を用いて解説する。

デザインは顧客課題を解決し、アートは自己を表現する

 デザイン思考とアート思考、それぞれの思考アプローチを説明する前に、まずはデザインとアートの違いから考えていきたい。両者は似て非なる関係にあるのだ。ともに造形物やコンテンツなどのクリエイティブを制作するという点は同じであるが、その目的と出発点は大きく異なる。この違いを理解することで、デザイン思考とアート思考についての理解も深まるはずだ。

  

 デザインとは、クリエイティブを用いて顧客の課題を解決することである。例えばWebデザインにおいて「商品説明ページを分かりやすくしたい」という課題があった際は、レイアウトを工夫してコンテンツを制作する。その結果、ユーザーにとっての分かりやすさが実現されていく、つまり課題が解決されていなければならない。デザインを担う人はデザイナーと呼ばれるが、デザイナーはクライアントから依頼を受けて、その依頼を解決するためにデザインをする。

  

 一方のアートは、クリエイティブを用いて自己を表現するものである。例えばメディアアートでは、作り手の感性や表現したいことを基に造形物が制作される。アートはそのクリエイティブによって、いかに人々や社会に影響を与えられるか、共感を得られるかが成功の尺度となる。アートを担う人はアーティストと呼ばれるが、アーティストにはクライアントは存在しない。

   

 まとめると、両者の違いは以下の2つである。 

   

  • デザインは顧客の課題解決、アートは自己表現
  • デザインは他者(クライアント等)を起点とし、アートは自己を起点とする

デザイン思考は共感から始まり、アート思考は共感に帰結する

 デザインとアートの違いについて理解していただいたところで、続いてはデザイン思考とアート思考の違いを解説していく。

  

 デザイン思考はデザインファームIDEOによって提唱された人間中心の課題解決アプローチである。デザイナーが課題を解決していく手法に着目し、それを体系化したことでビジネスの世界にも広まっていった。以降、様々なアプローチ手法が生まれてきたが、その起源でもあり、現在も広く使われ続けているIDEO式のアプローチを本稿では取り上げる。

 デザイン思考は、共感(する)、問題定義、アイデア発想、プロトタイプ、テストの5つのプロセスから構成されるものであるが、ポイントは人の行動を観察するなどして共感することだ。これはつまり、他者が起点となっていることを意味する。このアプローチによって、人間中心の課題解決策が創出されていくというわけだ。

 デザイン思考によるイノベーションで有名な事例として任天堂のWiiがあげられる。任天堂はまず、社員の家族の様子を観察することから始め、ゲーム機が子供と親の関係を悪化させている要因となっていることに気付いた。そこで、家族が一緒になって楽しめるゲーム機Wiiの開発に繋がったのである。

    

 一方のアート思考は、作り手の実現したい世界観からサービスやプロダクトを生み出すアプローチである。その世界観は、作り手の原体験から生まれることが多いことが特徴的だ。

 アート思考のプロセスは原体験、アイデア発想、プロトタイプ、共感(してもらう)の4つから構成される。ポイントは作り手自身が起点となっている点であり、熱のこもったアイデアを想起しやすい 。ただし、いくら作り手自身が「こんなサービスやプロダクトがあったら良いな」と思っても、自分1人しかファンがいなければビジネスとして成り立つはずがない。そのため、プロトタイプを作って多くの人に共感してもらい、ファンを増やしていく必要があるのだ。

 アート思考によるイノベーションの例としてはFacebookやUber等があげられる。創業者らの「こんなサービスがあったら良いのに」という原体験から発想を得て、サービス化に至っている。

 次に両者の長所と短所を整理していく。

  

 まずデザイン思考の長所は、既存のビジネスモデルを尖らせるアイデアを発想しやすいことである。既存の顧客に対して共感することで、既存ビジネスモデルの急所をあぶり出すことができる。一方、短所としては、問題定義やアイデア発想のプロセスにおいて、思考の幅を広げられないとありきたりな発想しかできず、既存サービスの改善などに留まることが多いことだ。例えば前述のゲーム機を例にとると、「ボタンが押しづらそうだから、次回作ではボタンの位置を変更しよう」というような発想に留まると、施策が小粒になってしまう。

  

 アート思考の長所は、何も制約がないところからアイデアを発想していくため、既存のビジネスモデルや業界の慣習に囚われない自由な発想が可能ということだ。ただし、そうであるが故に、これまでのビジネスで培ったケイパビリティを活かせないアイデアになってしまう可能性があることが短所である。

   

 デザイン思考とアート思考の長所と短所を理解したうえで、どちらを採用するか選ぶと良いが、人の性格によって向き不向きがあることも考慮した方が良い。利他的で他人の課題を自分事化できる人はデザイン思考、自分の原体験を改革の原動力に変えられる人はアート思考が向いており、変革への情熱を長続きさせられるだろう。そのため、取り組む施策の方向性やチームメンバーの性格に応じてアプローチを切り替えたり、併用したりする使い方が有用だ。

デザイン思考、アート思考がイノベーティブな発想を生み、推進する原動力となる

 デザイン思考とアート思考のアプローチの違いと、それぞれの長所短所を見てきた。モノが飽和し、モノからコトへと消費スタイルが変化している現代において、人間を中心としたこれらのアプローチによるイノベーティブな発想が、DXに有効なのは間違いない。WiiやUberなどの事例もその有効性を物語っている。

 ただ注意していただきたいのは、世の中の成功事例はデザイン思考とアート思考のプロセスをなぞって進めたわけではなく、結果的にそれぞれのプロセスでアイデアを形にしたということだ。プロセスをなぞる事はそれほど重要ではない。重要なのは、他者にせよ自分にせよ人が抱くペインポイント(不満・不条理・不合理など)に向き合い、どうすれば良いかを考え抜くことだ。

  

 考え抜いた結果、いかに既存との違いを生み出すのか、どれだけ価値あるカスタマージャーニーを描けるか。そしてそれを実現したいという情熱が、生まれたアイデアの種を芽吹かせる原動力になる。このような思考の持ち方こそが、デザイン思考とアート思考の真価なのである。

執筆者 Profile

シニアマネージャー/ デジタル・イノベーション・ラボ所属加藤 秀樹

専門分野
顧客体験設計、デザインシンキング、アジャイル

大学卒業後、ベイカレントに入社。
金融・製造業を中心に、DX戦略、CX向上、新規サービス立上げなどの領域で、企画立案から実行支援までの幅広い領域のプロジェクトを支援。
特に顧客体験を起点としたサービス・オペレーション・組織構築を得意とする。

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