デジタルトーク

2020.09.03

不動産 これからの地方創生は、魅力ある街への体験移住から

コロナ禍により生活環境に大きな変革が起きている

新型コロナウイルスが世に出てきてから、人々の生活環境には多くの変化が訪れた。特にリモート社会への劇的な移行は目を見張る。多くの大企業では、これまで議論の俎上には上がるも遅々として進まなかったリモートワーク。それが、感染抑止という至上命題としての力を得たことで、フルスロットルの加速へと変わったのだ。

学校教育においては、タブレットなどの導入が急速に進み、オンラインで授業を受けられる環境整備が全国的に進みつつある。
オンライン飲み会も市民権を得たように感じる。実際に体験してみるとこれはこれで良いところもあり、普段は集まることのできない小さな子供を持つ親や遠方の友人も参加することができ、懐かしい話に花を咲かすことができた。

リモート社会化による意識変化

リモート社会への移行により、人々の生活様式や消費行動が大きく様変わりしていることは衆知の通りであるが、仕事においても働く意識に変化が表れている。内閣府の調査結果によると、リモートワーク経験者のうち4人に1人が地方移住への関心を高めていることが明らかになった。未経験者の関心層は10%ほどに過ぎないため、明確な差が出ている。
今回の感染症の影響下において、地方移住への関心に変化はあったか
内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より筆者作成
同様の調査で、「仕事と生活のどちらを重視したいか」という問いに対しては、リモートワーク経験者では「生活を重視したい」が64.2%にも上った。未経験者は34.4%に留まっているため、倍近くの開きが出たという結果である。
感染症拡大前に比べて、「仕事と生活のどちらを重視したいか」という意思に変化はあったか
内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より筆者作成
一日中会社にこもり仕事に打ち込んでいた環境から、在宅勤務に身を移すことで、ランチタイムや隙間時間などに、家族と会話する時間や家事・育児に参加する機会は間違いなく増えたことであろう。ストレスフルな通勤時間をプライベートな時間に充てることも可能となった。そうして日々の生活に関わる時間が増えた結果、これまでの働き方に対する疑問が芽生えてきたことがはっきりとわかる。

“都心”対”地方”の対極イメージからの脱却

都心近郊に住む人たちの中には、通勤時間を短縮する目的で都心を選択している人が一定数いることだろう。上述の統計調査で地方移住への関心が生まれてきていることからも、“とりあえず都心に住んでいる”という状況がうかがえる。その際の思考回路は、都心の喧騒やこぢんまりとした密集空間から離れて、地方でのんびりと悠々自適に暮らしたい、というものではないだろうか。
地方のイメージは、都心の持つ「何でも揃っていて便利だが、人が多く賑やかでせわしない」といったイメージとは対極にあり、「モノが少なく不便だが、人が少なく穏やかでゆったりと時間が流れている」と想起されることが多い。しかし、今後はこの対極イメージ、特に地方は不便だという既成概念は必ずしも当てはまらなくなっていくと思われる。
既にショッピングは、ECを介すことで、どこにいてもネットで済ませられる時代になっている。このまま社会のリモート化が進めば、通勤や通学に時間を要する不便さも無くなっていく。友人とのコミュニケーションも直接会う必要があるといった制約が薄れていく。デジタルを活用することで、地方の不便さは徐々に解消されていくのだ。加えて、今後の地方移住に向けて、スーパーシティの動向が鍵を握りそうである。

動き始めたスーパーシティ構想

今期の国会で、スーパーシティ構想の実現に向けた改正国家戦略特区法案が成立した。政府が提唱するスーパーシティ構想では、IoTやAI・ビッグデータなど先端テクノロジーを活用した未来都市作りを目指している。その領域は、移動・物流・医療&介護・防災など10分野において、より便利な生活を送るための未来像が示されている。

しかし、ここには個人情報の取り扱いが大きな課題となってのしかかる。例えば海外の事例を見ても、グーグル系列企業が主導で推し進めてきたトロント沿岸部の再開発は、プライバシーの侵害や監視社会になることへの懸念から住民の反発を受け、撤退に追い込まれている。情報取得への合意をオプトアウト型で進めようとしたことも要因の一つにあるだろう。
実際、国内でも様々な慎重意見が出ているが、この点においても、地方が都心に先行する可能性はあるだろう。例えばトヨタが東富士工場跡地での建設を発表したWovenCityのように、新しく街を創る場合は希望者が集まるため進めやすい。また、交通や医療・介護などの課題は地方の方がより深刻化しており、コロナ騒動でも顕著となった各首長の強力な求心力・推進力と相俟って、施策が大胆に進む地域もあるだろう。

体験移住の時代へ

都心に住むことにより得られる価値、つまりこれまで地方と対極化されていた価値が薄まっていくと、都心に住むことの必要性は低減していくことになる。そうすると、人々の地方に住むことに対する関心が増し、今度は各地方が持つ独自の魅力が人々を惹き付けていくことになるだろう。それは自然景観や観光・文化などの既存価値だけには留まらず、例えばスマートハウスやウェルネス施設が建ち並ぶ”藤沢”、防災や医療・子育てなどの市政情報のパーソナル化が進む”会津若松”など、先端技術を活用して新たな魅力を打ち出す街も当てはまる。
ただし、これまで都心に住んできた人が、いきなり住んだことのない地方への定住を決断するにはまだまだハードルが高い。リモート社会が進んだとはいえ、たまにオフィスに顔を出す際には不便が生じる。住み慣れた環境や友人と離れるのも、心寂しいものがある。このハードルを下げるため、まずは観光と移住の中間、つまりロングステイや体験移住のようなスタイルが普及していくと良いのではないか。
ひと夏を海辺で思う存分遊んだり、もしくは涼しい地方でのんびりと過ごしたり、また温泉地に赴きのんびり仕事をしながら静養したりと、人々が自然豊かな地方に望む潜在ニーズは必ずあるはずだ。そのニーズを喚起し、受け入れるための仕組みづくりが、これからの地方創生に求められてくるのではないだろうか。私も一年後には、本サイトの記事を熱海で温泉に浸かりながら書いているかもしれない。

マネージャー 吉田 健

デジタル・イノベーション・ラボ所属。
主に保険・金融を中心に、IT、デジタルを活用したサービス企画・導入支援、オペレーション改善等に従事。

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