デジタルトーク

2020.07.07

ヘルスケア スリープテックが誘う“最高の睡眠”の可能性を問う

盛り上がりを見せるスリープテック市場

日本は“睡眠後進国”である。OECDの調べによると、欧米諸国に比べて平均睡眠時間が1時間ほど短く、睡眠意識の低い国と言われているのだ。
ただ、“人生100年時代”の到来で健康志向が強まる中、日本でも睡眠への関心は高まりつつある。 「睡眠負債」が流行語大賞トップ10に選出されたことからも、一般消費者に睡眠の重要性が浸透してきたことがわかる。
昨今、デジタルテクノロジーを活用したxTechという言葉があらゆる業界で使われているが、 “眠り”の領域でも例に漏れず、スリープテックが人々の睡眠の質を一気に向上させている。

実は、“眠り”の領域はデジタルテクノロジーとの相性が抜群に良いと言えるのだ。テクノロジーの助けを得れば、「体が冷えてきたから足元の気温を上げる」、「眠りが深くなってきたからリラックスできる音楽を流す」等、眠る人の潜在的なニーズを汲み取り、睡眠の質を高めるための打ち手を提供できる。このように、無意識の人間の状態を正しく把握し、適切なソリューションを提供できることこそ、スリープテックの真骨頂なのである。

スリープテックは今後ますます隆盛な市場となるだろう。なぜなら、人間誰もが睡眠に一定時間を割き、世界70億人全員がユーザーとなり得るからである。また、スリープテック市場は、米国の大手テック企業にも注目されている。例えば、Appleはベッドパット型の睡眠トラッカーを開発するBeddit社を買収し、Googleは睡眠の質を把握できるアクティビティトラッカーを開発するOura社に出資している。

昨今、スリープテック関連のプロダクト/サービスは乱立状態

既に多くのプレイヤーが、スリープテック市場でプロダクトやサービスをリリースしているが、提供方法で整理してみると3つのタイプに分類できる。
“ウェアラブル端末型”はバイタルデータを取得することで、サービスにつなげるタイプだ。例えば、Philips社のヘッドバンド『Deep Sleep Headband』は、額と耳の後ろのセンサーから脳波を取り、計測した睡眠の深さをアプリ上で可視化できる。更に、眠りが深くなったタイミングで音楽を流せば、深い睡眠の時間をより持続させることもできる。
※「Deep Sleep Headband」を使用した筆者の睡眠データ
“寝具一体型“は、マットレス等の寝具の形をしたプロダクトだ。MTG社の『NEWPEACE』は、マットレスに内蔵されたセンサーから、寝返りや心拍数を感知することができる。感知したデータを基に、マットレスの動きや温度を微調整することで、心地よい眠りへと誘うサービスを提供している。

“スマホ単体型”は、アプリのみで完結するプロダクトであるため、スマホ内蔵のセンサーデータを活用することが多い。例えば、Sleep Cycle AB社のアラームアプリ『Sleep Cycle』では、“マイク”や“加速度計センサー”を用いて、眠りが浅くなったタイミングを見計らってアラームを鳴らすことができる。おかげで、利用者はスッキリと目覚められるというわけだ。

様々なプロダクトが出てきているとはいえ、人の睡眠体験(入眠~ノンレム睡眠~レム睡眠~覚醒)における課題は多岐に渡る。まだまだ現状のスリープテック業界は、1つか2つの課題解決に限ったプロダクトが主流であるため、今後の更なる発展を予感させる。 

スリープテックプロダクトは3つのポイントを押さえるべし

では今後のスリープテックにおいて、「良いプロダクト」を提供するコツは何か。筆者は、次の3つのポイントをおさえるべきと考えている。

①    エビデンス:医学的根拠を示すこと
スリープテック領域において、医学的根拠は非常に重要だ。なぜなら、睡眠中は誰しも無意識であるため、睡眠状態の分析結果を突きつけられても納得しづらい。消費者を納得させるためには、医学的観点からも信頼に足るデータであることをアピールする必要があるのだ。
また、FDA(米国医薬食品局)や厚生労働省の認証を得ると、プロダクトが医療機器として認められる。もしヘルスケアサービスとの連携を狙う場合、これは欠かせない。例えば、FDA認可を得たアップルウォッチの心電図(ECG)は、ジョンソンエンドジョンソンが実施している脳卒中のリスク調査に活用されている。

②    ソリューション:睡眠の質を上げる打ち手を提供すること
プロダクトを使っているにも関わらず、睡眠の質が上がらなければ、消費者は価値を感じない。一見当たり前のようだが、睡眠の質を上げるというソリューションまで踏み込むのは意外と難しい。現に、睡眠状態のデータを取得する”可視化“に留まり、その先の”打ち手“は消費者任せにするプロダクトが散見される。睡眠中の無意識な消費者に価値を感じてもらうには、結果にこだわらなければならない。”可視化“に留まるプロダクトは、最初は面白がって使われるかもしれないが、すぐに使われなくなるだろう。

③    リテンション:プロダクトを使い続けてもらうこと
プロダクトを”使い続けたくなる“ための工夫も重要だ。消費者に途中で離脱されるとデータが蓄積されないため、プロダクトの改善もままならない。キーワードは、”意識させない“と”使って楽しい“だ。前者については、心地よく眠るためにプロダクト使用時の違和感を排除する必要がある。後者については、睡眠状態をスコアリングする等の工夫をすることで、ユーザーに楽しく効果を実感してもらうことが必要だ。加えて、ゲーミフィケーションというアプローチも面白い。2020年に発売予定の「ポケモンスリープ」は、睡眠そのものをエンターテイメント化し、「朝起きるのが楽しみになる」というコンセプトだという。無意識である睡眠中は楽しさを実感できないため、起きた時に楽しさを感じるという仕掛けは良い観点と言えそうだ。

睡眠データの利活用により、更なるビジネス展開を期待できる

今後のスリープテックがもたらす価値は、“質の良い”睡眠にとどまらないだろう。睡眠データを生かせば、様々なビジネスに展開できる。現に、他領域で活用している事例が既に生まれ始めている。

物流業界では、運転手の健康管理にスリープテックが活用されている。運転手の睡眠データを取得し、一人ひとりに適した睡眠アドバイスを提供することで、事故防止の一端を担っているのだ。
保険業界においては、健康状態に応じて保険料金を設定するサービスがあるが、健康状態を図るインプットデータの1つとして睡眠データが利用されている事例もあるのだ。

昨今、健康経営・働き方改革が重要視されている中で、業界を問わず睡眠データを用いた従業員の健康管理、生産性向上に取り組む企業も現れている。例えば、従業員の睡眠データを解析し、メンタルヘルス不調者の早期発見や、生産性低下の要因と対策につなげるといった事例がある。

まだまだ未開の地である睡眠データは、様々な業界で使われることで無限の可能性が広がっていく。スリープテックがより普及すれば、スリープテック企業のみならず関連領域の企業にも、更なるビジネスチャンスが広がるに違いない。

コンサルタント 祓川 豊

大学卒業後、大手人材会社を経て現職。
ハイテク・商社・Webサービスを中心に、新規ビジネスの立ち上げ、オペレーション設計/改善等に従事。

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