市場変化に適応する体質改善で、飲食業界にビジネスモデル変革を
売上激減の飲食店があらゆる手段で収入を確保して、当座をしのぐ必要があることは間違いない。ただこれを機に、中長期的な目線でビジネスモデル変革の必要性に気付いていくことも重要である。
なぜならば、新型コロナウィルスの影響でいくら経済が停滞しようとも、人々の胃袋に収まる量は減らないからだ。人は財布の紐は締めても、食事の回数や食事量は大きく変わらない。にも関わらず、飲食店の売上が激減しているということは、「消費の減少」ではなく「消費の転換」が起きているということだ。この転換がコロナショック終息後の世界にも影響を与えるのであれば、ビジネスモデルの変革は必須ということができる。
現在の緊急事態宣言が解除された後も、依然として新型コロナウイルスの脅威を人々が持ち続け、ステイホームという社会的風潮は続いていくだろうと予測されている。人々の生活は変化し、ニーズも変化し、それらに応えられたサービスだけが脚光を浴びるようになっていく。その初期段階として、デリバリーやテイクアウトが勃興しているというのが現状だ。そのため、将来を見据えてビジネスを考えていく必要があるが、そのための観点は何か?現状起きている変化から発想を広げると、以下3点については検討しておいた方が良いと言える。
① 顧客の”不”をどうやって解消するか
直近では、顧客が外食に行けないことで生じる「不満」「不自由」「不足」「不安」といった”不”を解消するため、デリバリーやテイクアウトという手段が有効である。今後はあらゆる顧客の“不”にフォーカスし、解消方法を検討していく流れにすると良い。
例えば「今日は疲労困憊で自炊するのも面倒」という「不自由」があるならば、自宅まで料理をしに行くという店舗があっても良いかもしれない。「あの店の味を再現したいけど、どれだけ工夫しても再現できない」という「不満」であれば、テレビ電話で料理を教えるというサービスが成り立つ可能性もある。
出来合いの飲食を提供するだけでなく、サービスを提供するという発想を持てば、新たな収入源を確保できるかもしれない。
② 自分達の店の“宝”=資産を見直す
新たな取り組みには失敗がつきものだが、自分達の店の「宝」と呼べる価値を生かすことができれば、成功確率を上げることができる。
例えば経営に苦戦していたある洋菓子店は、その洋菓子店はチェーン店に対抗するため、150種類もの製品ラインナップを取り揃え、価格も安く設定していたが、正直商売が上手く行っていなかった。そこで、経営を改善するために“資産”を見直した結果、ケーキのスポンジを焼く技術が自分達の強みであることを発見。ロールケーキを主力商品として売り出す方針に変えたところ、1日に1,000人以上が来店する人気店へと変貌を遂げた。
このように「自分達の店の資産は何なのか」を具体的に掘り下げて考え、答えを導き出す事が出来れば、どこで勝負すべきかを自問自答できるようになるだろう。
③ 来店できない顧客にどう価値を提供するか
自分達の価値を、いかに来店できない遠くの顧客に提供できるかが、重要な論点である。もし食材やレシピに揺るぎない価値があるのであれば、ミールキットをしつらえて販売する、という施策もあり得る。必要な材料とレシピを手にできた顧客は、店舗の味に近づける楽しみを味わうことができるだろう。「顧客の悩み相談に乗る」、「店主のトークがウリ」といった価値があるならば、Web会議を活用したオンライン店舗を開くことで、顧客と会話するという手段が解決策となり得る。
飲食店が提供する本質的な価値は千差万別だ。そのため、採るべき手段も様々だが、顧客にどうやって喜んでもらうかにこだわれば、これまでの常連客だけでなく、遠方のファンも獲得できる可能性があるだろう。
なお、飲食業界のビジネスモデルが変革されていくのであれば、その影響はおそらく業界内のプレイヤーにはとどまらない。
一例を挙げると、デリバリーやテイクアウトの需要増加に伴い、プラスチック容器の需要が高まったことを受け、問屋街である合羽橋は現在活況を呈しており、包装資材業界は供給が追い付かない事態になっている。
他業界のプレイヤーにおいては、飲食業界にもたらされる変化を想像し、先手を打つことは有効な取り組みだ。『消費の転換』が起きる時はビジネスチャンスが到来する。どの業界も他人事ではないことを理解し、絶えず変化に向けた検討を重ねておくべきだと言える。