デジタルトーク

2020.04.14

共通 情報銀行の大きなうねり、起爆剤となる企業は現れるのか(後編)

前編では、情報銀行の定義から発展における現状課題までを述べた。今回の後編では、情報銀行の発展に向けた打ち手や、発展の起爆剤となりうる企業について考察する。

情報銀行発展に向けた考え方

情報銀行は銀行のビジネスモデルの派生として捉えて良いだろうか? 顧客からお金の代わりに情報を預かり、利用したい企業に貸し出すことで手数料を得るという意味においては、銀行のビジネスモデルに近いといえる。
“情報銀行(情報利用信用銀行)とは、個人とのデータ活用に関する契約等に基づき、PDS等のシステムを活用して個人のデータを管理するとともに、個人の指示又は予め指定した条件に基づき個人に代わり妥当性を判断の上、データを第三者(他の事業者)に提供する事業。“
出所:情報信託機能の認定に係る指針 ver1.0
一方で、お金と情報には大きな違いがある。情報は加工が容易であり、加工の仕方によって付加価値が大きく変化する。この付加価値を高める情報加工を情報銀行の機能として捉えるか否かが、情報銀行発展のカギを握る。
前編でも述べた通り、データを活用したい企業はデータ自体が欲しいわけではない。自社にとって最適な活用方法を知りたいはずだ。そのため情報銀行は、収集した大量のデータを分析することで、得られた“インサイト”を利用する事業者に提供し、顧客に対するアクションを促すようなサービスを提供すべきなのである。
情報提供者である個人に対しても、ただ対価を与えるだけではなく、サービス全体の品質を高めることで安心安全を提供し、容易に情報をコントロールできるプラットフォームを提供すべきだ。
情報銀行は単なる個人情報ブローカーではなく、個人情報や他の様々な情報を利用し、顧客に対する具体的なデータ活用シーンを想像したうえで、“情報提供者”と“情報を利用する事業者”の双方に利益を与える役割として捉えなければならない。つまり、情報銀行を銀行のビジネスモデル派生型と短絡的に考えてはいけないのだ。

情報銀行のビジネスモデルは一気通貫サービスとして捉える

情報銀行としては、個人情報管理機能が重要であることは言うまでもない。
ただ、ビジネスとして成立するかという観点では、提供するサービスが事業者の悩みに応えるユースケースとなっているかが重要なポイントとなる。個人情報をただ溜めて管理するだけでは、ビジネスとして成り立たないことは明らかであり、いかに事業者が対価を支払う価値を作り上げられるかにかかっている。すなわち、情報活用のためのサービス企画が最も重要となる。

サービスの企画から、販売・アフターサービスまで一気通貫で提供しなければならないという意味では、製造小売業のバリューチェーンが参考になる。
◆    情報活用のためのサービスを企画する
◆    サービスに必要な個人情報を収集する/仕入れることで調達した情報を自社に取り込む
◆    分析ロジックやサービスを製造する
◆    利用企業に販売することで対価を得る
◆    利用方法に関する問い合わせ対応など、アフターサービスを実施する


例え個人情報を膨大に保有していようと、サービスとなるユースケース・分析ロジックがどれだけ優れていようと、どちらか片方だけでは成り立たない。両方がうまくつながる一気通貫のサービスを提供することで、情報銀行を利用する事業者のデータ活用が活性化し、情報銀行にとっての顧客基盤が広がっていく。

情報を利用する事業者にうれしいサービスを提供する

サービス企画で最優先すべきは“「情報を利用する事業者の利益」につながるサービス提供”、まずはこれにフォーカスすることだ。そのためには、より具体的な価値に落とし込んだユースケースを取り揃えていかなければならない。

王道の攻め手は情報銀行となるプレーヤーがPoCを繰り返し、得意領域から有効なユースケースと必要な情報を定義し、徐々に拡大していくことだろう。しかし単独で行うと時間も資金も莫大にかかる。複数の情報銀行プレーヤーで共創する形を取れば、実現できることも増えるはずだ。そのためには、情報銀行間で有効なユースケースや情報を共有し合い、お互いのサービスを拡大していくといった施策なども検討すべきだろう。

速攻性のあるユースケースを提供することも重要だが、それだけではいけない。例えば、事業者の特性に合わせ、独自の活用方法を実現できるような情報活用リテラシーを向上させる。あるいは、情報銀行の認知度を向上させるための施策を打つ。というように、やるべきことは多岐にわたる。情報銀行を情報活用プラットフォームとして拡大していくためには、協力者を得ながら共創型で進めていかなければならない。

情報提供者が安心して情報を預ける仕組みを磨くことも重要

情報提供者に対してCX(顧客体験)を磨き続けることも非常に重要である。安心であり、堅牢であることは当たり前の要件であり、「どれだけ情報提供者である個人が容易かつ分かりやすく情報を預けることができるか」、また「容易に便益を受け取ることができるか」を考え続けなければならない。

例えば、あるECサイトの情報を情報銀行に移転する場合、
  • 1クリックで簡単に移動
  • 情報を利用する事業者からのデータ利用オファーをスマホ上に通知し、その場で提供可否を判断できるUI
  • データ提供の対価としての便益の使い勝手の利便性向上 など
とにかく面倒な操作を排除し情報提供者がストレスを感じない仕組みを作り、自然と情報銀行にデータが集まってくるような仕掛けづくりをしなければならない。

メルカリは後発のフリマサイトであったが、サービス開始当初は顧客数も少なく、データも蓄積されていなかった。しかしその中で、他のサービスとは違った工夫でCXを追求し価値を提供してきた。例えば、UIの磨きこみだ。アプリ起動から1タップでの商品撮影を可能としたり、商品を撮影すると即座にその相場が提示されたりすることで、ユーザーはストレスを感じることなく利用できる。それ以外にも、ファーストターゲットを20代女性に絞り、口コミやCMによる効果を最大限活用するなど、様々な工夫でユーザーを囲い込んできた。売買データが揃ってくることで「欲しい商品が必ずある」状態を実現し、新たな顧客とともにデータが集まってくる、といった好循環を生んでいる。

同様に情報銀行においても、まずは特定のペルソナに限定して圧倒的なCXを実現していくことで、“情報提供者”と“情報を利用する事業者”の双方が利便性や価値を感じられるプラットフォームが構築しやすくなる。まずは一定の規模まで作り上げることだ。その後は、他のターゲットやユースケースへの展開に対し、収集してきたデータを生かしながら進めることで、取り組みが容易になっていくだろう。

データ移動を容易にするためには、法制度の整備も不可欠

データの交換・移動に関する対応も必要となる。情報銀行プレーヤーが顧客目線でCXを磨き、事業者の利益につながるユースケースを拡充しても、必要なデータが収集できなければ意味がない。そのため、上記メルカリの例のように新たな個人情報やそれらに紐づく情報を容易に収集できるような仕組みや、個人の同意のもと情報銀行間でデータを容易に移転できる仕組みを、関係事業者間で調整しながら整えていく必要がある。

加えて、法制度の改正(パーソナルデータの利活用やデータポータビリティなど)も含め、プラットフォーマーが保持している膨大な個人データを個人に引き戻し、それらを容易に流通させる仕組みも必要である。しかし2020年の個人情報保護法改正にはデータポータビリティ権は言及されない見通しである。センシティブな情報もあり慎重な検討が必要なことは理解できるが、情報銀行の発展に向けては必要不可欠な制度であり、早急な整備が望まれる。

起爆剤となる企業は、経済圏を構想するプラットフォーマー

情報銀行というビジネスモデルを成功させるためのケイパビリティは非常に多岐にわたり、成功のハードルは高い。サービスの企画から販売、情報の仕入れなども含め、あらゆる手段を講じて利用者を増やさなければならない。協力者を得ながら共創型で進めていかなければならないことは、上述した通りである。

そこで有用なのは、ポイントや決済で経済圏を作り上げようとしている各社の戦略・戦術を分析することではないだろうか。彼らはすでに膨大な個人情報を蓄積している。さらには、決済やECを軸に他のサービスへの導線をシームレスに繋ぐことに優れており、複合サービスが共創するエコシステムを形成し、そこで収集した様々な情報を新たなサービスにつなげようとする試みを推進している。また、資金力もあり、必要となれば認知度を高めるための資金は惜しまず投入する。

同じような概念で様々なユースケースに対して個人情報を利用できる状態、すなわち「情報経済圏」が作れるのではないか。そういった意味では、やはり「ポイント・決済・顧客基盤」といったキーワードを持った企業が情報銀行においても重要なプレーヤーとなってくるかもしれない。J-Scoreのような信用スコア事業などを軸に、徐々に情報銀行事業にシフトしてくるシナリオも考えられる。

2020年は、経済圏を構想するプラットフォーマー各社による情報銀行の大きなうねりが巻き起こる年になるかもしれない。

エグゼクティブ・パートナー 内田  秀一

独立系ITコンサルティングファームを経て現職。
金融、流通小売業を中心に、IT戦略立案、業務改革、ITガバナンス強化、大規模プロジェクトマネジメント等のプロジェクトに従事。

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