DXによるビジネス・エコシステムの構造変化
そもそも、デジタルにより変形(トランスフォーム)したものとは何なのだろうか。大局的な視点で見るならば、それは国家や産業の「枠組み」であると筆者は捉えている。
デジタル国家の例としては、エストニアがよく挙げられる。エストニアでは、居住人でなくてもオンライン登録ひとつで国内の一部行政サービスを受けることができる。政府と国民のコミュニケーションは国籍や居住地に依存しないため物理的距離に縛られることもない。デジタルサービスは未だ限定的な側面があるし、国土や人口は日本とは圧倒的に違うが、エストニアはデジタルを活用することで、従来の国家の「枠組み」(領域、人民、権力)の概念を変形しつつある例と言えるだろう。
産業分野でも「枠組み」の変形は起こっている。従来の産業の「枠組み」とは、業種・業界という産業構造によってカテゴライズされた中での企業同士の競争・協力関係(いわばエコシステム)だった。だが近年、大企業やメガベンチャーを中心に資金力・組織力を活かしたエコシステム戦略の事例が数多く見られるようになった。
楽天は、有名なエコシステムの成功事例だが、その戦略はだいぶ前から実行に移されていた。冒頭で記したDXの概念が提唱されて間もない2006年、楽天は「楽天エコシステム(経済圏)」という構想を提唱している※2。現在まで、楽天はIT・デジタルを成長ドライバーとしながら事業多角化を進め、EC→ポイント→金融→決済→電子書籍→モバイル→スポーツ→フリマ→通信キャリアと従来の業種・業界の枠組みに縛られることなく変形し続け、今や売上高1兆円を超える大企業へと成長した。
仮にもし今、楽天の歴史を知らない人に「楽天はどの業界の企業ですか?」と尋ねても、回答に窮するのではないだろうか。従来の産業構造にデジタルの横串が刺さり、エコシステムの再編成は着実に進行している。DXの潮流に乗った日本の企業は今、新たなエコシステムへの移住を余儀なくされている。