デジタルトーク

2019.10.30

共通 イノベーションを萌芽させるために

イノベーション創出に苦悩する日本企業

近年、様々な企業でイノベーションを起こすための試みが見受けられるが、思うような成果に結びつかずに苦労されている企業がほとんどではないだろうか。今回は企業が苦労しているポイントと、その解決策としてのアジャイルに言及していきたい。

テクノロジーが目覚ましく発展していることを背景に様々な商品・サービスが生まれていることは事実だが、それ故にイノベーション=新しい技術という考えが強く、トップダウンでソリューションドリブンの検討が進められている。しかし、ソリューションドリブンで考えると、アイデアの種自体は発想できる反面、どうしても顧客のニーズを置き去りにしがちである。ブロックチェーンが好例だ。時代を変えるテクノロジーと言われて久しいものの、”高い送金手数料を解決したい” という課題から生まれたビットコイン以外の成功例に乏しい。(そのビットコインも今では投機目的のユーザーがほとんどであるが) ”ブロックチェーンで何かできないか?” といったソリューションドリブンの考え方では、良い商品・サービスは生まれないのだ。しかし、多くの日本企業では、経営陣からの「○○というテクノロジーを活用したサービスを検討せよ」という号令のもと、今日もソリューションドリブンでの検討が進められている。

顧客起点によるイノベーションの発想

イノベーションは人間を中心に課題や価値を考えるからこそ産まれてくる。例えば、”APIエコノミー” の代表格として知られるUber も「今、この場所でタクシーに乗りたいのに中々つかまらない」という創業者のペインポイント(不平・不安・不満)から産まれたと言われている。Amazonも物流ロボティクス等に注目されているが、その源泉はCEOのジェフ・ベゾスが一貫して掲げている “顧客至上主義” であり、顧客がECサイトに求める “速い・安い・良い品揃え” に対し、“おもてなし” ではなく “仕組み” での解決を徹底的に考えている。

日本の大企業において、顧客の抱える課題・要求を最も理解しているのは、若手・ミドル層である。私はクライアントと共創するコンサルティングスタイルが得意で、いわゆる ”現場” の若手・ミドル層の方々とお仕事させていただくことが多い。現場の方々は日々、顧客と向き合っている事が多く、顧客が抱えているペインポイントを感じている。そうした方々とアイディエーションのワークショップを実施すると、面白いアイデアが出てくる。顧客のペインポイントからアイデアが発想されるため、皆が課題に ”共感” し、それを解決するようなアイデアが生まれる。これはイノベーションを考える上で有効なフレームワークであるデザイン思考の最初のステップである。
デザイン思考のプロセス:共感、問題定義

殺されるイノベーション

しかし、ここからが問題だ。そのアイデアを実行に移そうとする際に、経営管理部門や経営陣にこのように聞かれる。

「ROIは?」
「その根拠は?」
「類似事例は?」

本来、イノベーションとは非連続なものであり、既存の価値観や判断プロセスにマッチしないことが多い。例えば、カメラ付き携帯電話の元祖であるJ-PHONE(現SoftBank)のJ-SH04も、開発メーカーであるSHARPが企画した当初は、「携帯電話にカメラなんていらない。こんなものは売れない」と大手キャリアに製品化を断られていた。しかし、当時シェア3位だったJ-PHONEから発売されるや、これが大ヒット。写真をメール添付できるサービスを “写メール” いう名称で展開し、携帯電話に “体験の共有” という新たな価値を付け加えた。特に若い世代に人気で、女子高生の間で流行していた “プリクラ” のような感覚で “写メール” が使われた。
「実際に市場に出さないと測れない価値」が真に重要であることは多い。特に顧客のライフスタイルが多様化し、急速に変化する現在においてはそれが顕著だ。イノベーティブな商品やサービスの市場性は、他社事例や市場調査からは評価しにくいのである。

そのような背景もあり、現場の有志はなんとか経営管理部門や経営陣に説明を果たそうと様々な調査・ロジックを用意するが、なかなかクリアできない。ロジックで返せないレビューを受けているうちにアイデアに対する熱量は下がり、イノベーションの芽はシュリンクしていく。
●イノベーションを殺さないアジャイル
そんな中、アジャイルな組織・働き方に注目している。アジャイルというと、システム開発の手法と思われがちだが、アジャイルとは価値観であり、その考えを”働き方”に転用する企業が増えてきている。詳しくは年初に寄稿したブログを参照頂きたい。

クロスファンクショナルなメンバーで構成され、権限が委譲されたアジャイルチームは、新規サービスのような不確実性の高いビジネスにチャレンジする遊撃隊としては最適なチームなのだ。

とはいえ、アジャイルチームを組成し、スクラムガイド通りにスプリントを回しただけでは、新規サービスの企画・実行には不十分である。既存業務の改善や、既存顧客のCX向上においては、アジャイルの様々なフレームワークで提唱されているプラクティス(朝会、タスク進捗ボード、スプリント、etc)を取り入れてみるだけでも一定の効果は出る。しかし、新規サービス等のプロジェクトにおいては、アジャイルの組織・プロセスを取り入れただけでは、効果は限定的である。チームの権限・自律性を強固にするような仕掛けが必要だ。
顕著なのが、予算の調達と、プロダクトの考え方である。予算の調達においては、会社のお金を使う以上、社内外、様々なステークホルダーに説明責任が発生する。そうすると前述のようにイノベーションはシュリンクしていく。そうならないようにいわゆる ”出島”  戦略をとり、独立性を高めるような仕組み化が必要だ。クラウドファンディングから資金調達するのも手である。既存の会社の枠組みとは別の形で資金を調達することで、独立性が確立できる。また、クラウドファンディングにはそのプロジェクトに”共感”してくれる人を測れる側面もある。近年、大企業においてもテストマーケティングの意味合いも含めてクラウドファンディングを活用する企業が現れている。

プロダクトにおいては、まずはコンセプトを明確にし、完璧ではなくても良いので早く市場に投入することが重要である。プロトタイプという形でユーザーテストを実施するのも有効だ。Dropboxは当初、実際のプロダクトではなくデモ動画を作成し、ユーザーからのフィードバックを得ている。ユーザー不確実性の高いVUCAワールドにおいては、机上の仮説検証ではなく、マーケットに早く出して、顧客のフィードバックから継続改善していく方が、早く目標に到達できる。仮にそのアイデアの筋が悪ければ、やめれば良い。Amazonは「世界一の失敗をする企業である」と公言しており、様々なサービス・機能をトライ&エラーで試している。その裏には厳格な撤退基準を設けており「フェイル・ファスト = 失敗するなら早く」を体現している。この仕組みを設けるだけでも、「とりあえずやってみる」ということに踏み出しやすくなるだろう。

”イノベーションを起こしたい” そう思っている企業は多く、そのために調査会社やコンサルタントを雇い、検討に多大な労力・コストをかけている。だが、そんなことをしなくても現場にイノベーションの芽は眠っている。意欲に満ちた有志を集めたアジャイルチームを組成し、「ノリで良いからやってみる」ことから始めてみてはどうか。
 

シニアマネージャー 加藤 秀樹

大学卒業後、ベイカレントに入社。
金融・製造業を中心に、DX戦略、CX向上、新規サービス立上げなどの領域で、企画立案から実行支援までの幅広い領域のプロジェクトを支援。
特に顧客体験を起点としたサービス・オペレーション・組織構築を得意とする。

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