デジタルトーク

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2019.10.07

メディア デジタル化を軸とした屋外広告の進化

グローバルで進む屋外広告のデジタル化

近年、スマートフォン(以下、スマホ)による視聴シェアの獲得が急速に進んでいる。電車の中でスマホを触るのはもちろんのこと、家の中でもスマホとの接触が長時間化している。TVを付けながらスマホをいじるという形のデュアル・ディスプレイは多くのユーザーが体験していることであろう。

これらの変化は、数字にも表れている。総務省が行った2017年の情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査によると、TVの視聴時間は年々減少しているのに対し、インターネットは大きく増加している。世代別に見ると30代では、ほぼ同じ時間であるが、20代以下はインターネット利用がTVを大きく上回っている。

グローバルでも同様の結果が出ている。調査会社のZenithが行った世界のメディア接触時間レポートによると、年々増え続けるインターネット利用時間が、2019年に初めてテレビ視聴時間を超えている。

グローバルレベルでのスマホによる視聴時間の増加が進むに従い、当然、広告費もTVからウェブへ急速にシフトしている。
世代別メディア利用時間
※総務省『平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』 
さらに、海外ではスマホより先のリアルに対して、広告面の広がりを見せている。

調査会社のPQ Mediaが2017年に行った調査によると、デジタルサイネージを中心とした屋外広告(OOH:Out-of-home)の急速な発展により、OOH市場全体ではCAGRで5%の成長、Digital OOHにフォーカスすると13%以上の急成長を遂げている。

グローバルでは、より効果的な、そして魅力的な媒体面を獲得するために、スマホの画面で熾烈な争いをするよりも、既存のビルボード広告や映画、エレベーター内のサイネージを活用することで、広告面を急拡大させているのである。
Digital OOH 収益推移
※PQ Media『Global Out-of-Home Media Forecast 2017』

デジタル化が進まない日本の屋外広告

翻って日本ではどうか。

グローバルでの急成長とは異なり、日本におけるOOH市場の成長速度は芳しくない。

電通が毎年行っている日本の広告費の調査において、2018年のOOH広告は前年比99.7%であり、近年100%前後の水準を行ったり来たりしており、横ばいの状態である。

日本国内でのOOHのデジタル化が進まない理由として、大きく3つ推測される。

1点目は、屋外広告物条例による市区町村レベルでの細かな規制である。加えて各地域で街づくり協議会が発足しており、全国レベルでのデジタル化への舵は一気呵成には進み辛い状況である。

2点目は、既得権益である。例えば、銀座や表参道などの一等地では、広告掲載費が1ヵ月数千万円以上となり、デジタル化を進めるべき媒体側にインセンティブが働かないのである。

3点目は、ロケーションオーナーとメディアオーナーが同一なためである。

日本では、いわゆる看板を保有するビルオーナーが媒体の運営主体となっているが、海外では、場所を提供するロケーションオーナーと媒体を保有運用するメディアオーナーが分かれている。資本の力を持ったメディアオーナーが時世を先読みした投資・動きをすることが多いが、資本が分散した日本では大規模な投資は難しい。

上記の理由から、OOH広告のデジタル化の進みが遅いのである。しかし、広告出稿企業から見た場合、効果どころか閲覧されたかどうかの結果さえも見えない広告だという捉え方が根強い。他の媒体と組合せた、一種のにぎやかしとして利用する企業はあるが、WEB広告と異なりROIが見えないため、社内での説明もつかず、OOH広告出稿に踏み出しにくい。

大規模開発・オリパラ開催により潮目が変わり始めた日本

媒体側からの動きがない中、行政サイドからの変化が徐々に起きている。

銀座線のホーム移設や駅周辺の大規模開発、そして2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向け渋谷区では数多くの工事が進んでいる。

渋谷区では屋外広告における規制を一部緩和し、建設中現場の仮囲いを利用した取り組みを進めている。
※渋谷PARCOのアートウォール
渋谷区では場所柄、落書きの問題が多く、行政はNPOと協力し対応を行ってきたが、工事が多く行われることにより、そのリスクと対応コストが顕著化していた。その対応策およびアートによる街のプロデュースとして、広告代理店出身の区長および副区長により推進されている。

具体的には、PARCO建替え時の漫画のアキラ掲載、NPO法人365ブンノイチと行った宮下公園の仮囲いアート、株式会社ヘラルボニーと協業した障がい者による全日本仮囲いアートプロジェクトなどである。

このように、行政が旗を振ることで、民間の知恵を活用し日本独自のOOHとして進化しているのだ。

広告費による都市機能の補填

海外では都市の機能を賄うため、広告を活用する事例が数多く存在している。

例えばフランスでは、バス停を広告にして、行政サービスの利便性を向上している。リアルタイムの運行情報、USBポート、目の不自由な人のための触感ラベル、音声システムなどがある。さらに、ニューヨーク市では、市内に配置したKioskで無料Wi-fiサービスを提供するLinkNYCを2015年から開始している。現在5万人以上の利用者がいるが、全てデジタルOOHによる広告費で賄っている。

公的な財源が限られる中、都市サービスを高度化したい行政と、行政サービスの利用者にアプローチすることで媒体価値を向上したいOOHとの親和性は、デジタル化の進展によって高まり始めていると言える。

狼煙が上がった日本のOOH市場

2019年、電通とドコモが50億円という巨額の共同出資を実行。これによりLIVE BOARD社が設立された。海外から大きく遅れている日本のデジタルOOH市場へ、電通とドコモという広告業界と移動体通信のNo.1企業がタッグを組んで乗り込んできたのである。

通信キャリアのデータをもとにインプレッションベースのプライシング、広告運用の自動化という、WEBの概念を屋外広告に取り込んできたのである。デジタルOOH市場を席捲するため、巨額の資本を使い、ロケーションオーナーからの場所の権利取得と看板のデジタル化を進めることが想定される。

今後、LIVE BOARDを起点に、日本においてもロケーションオーナーとメディアオーナーが分離されていくことが想定される。

今後の国内におけるOOH市場の再編

OOH広告という親和性の高い民間資本の活用を行政が模索する中、LIVE  BOARDという黒船が、規制で守られた市場にデジタルを引き連れて参入してきた。

通信キャリアと組んだ広告代理店がTVの利権を抱えながらOOHへ拡大するのか、WEB広告市場を開拓した新規企業が参入するのか、それともOOHならではのプレイヤーが登場するのか。

屋外の特性を理解し、スマホ疲れしたユーザー真因をつかむ企業が勝ち馬となっていくのではないか、国内におけるOOH広告の今後に注視したい。

シニアマネージャー 山口 星志

外資IT企業を経て現職。
保険・通信・製薬・ITなど業種を問わず、グローバルIT戦略の立案、新規事業の立ち上げ等のプロジェクトに従事。