デジタルトーク

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2019.08.26

エンタメ 激震!NBAドラフトの裏側

日本人も注目した2019年NBAドラフト

バスケットボールの世界最高峰リーグ「NBA」の2019年ドラフトは、NCAAのゴンザガ大で活躍を重ねる日本人「八村塁選手」の動向に注目が集まった結果、日本人にも大注目された。八村塁選手と言えば、日本の高校バスケ界で数々の成功を収めたことは記憶に新しい。その日本バスケ界の至宝が、世界最高峰のバスケットボールリーグ(NBA)入りを実現させたのだ。

これまでNBA入りを実現させた日本人選手はいるが、ドラフト外でワークアウトに挑戦して勝ち獲ったものだ。今回、八村塁選手がドラフト指名されたことは日本人初の快挙である。*1
*1:2019年6月20日のドラフト会議にて八村累選手は、全体9位でWashington Wizardsから指名を受けた

NBAドラフトの意思決定は必ずしも成功していない

世界中が注目するドラフトを間近に控えた時期、必ず話題に挙がるのが「過去のドラフトの成功と失敗」だ。過去のドラフトを振り返ると、ドラフト指名時点で評価が低かった選手がリーグ入り後、才能を開花させトップクラスに上り詰めることがある。

例えば、直近5年連続でプレーオフ決勝まで勝ち上がっているGolden StateWarriorsのスター選手(3度のオールスター出場)である「ドレイモンド・グリーン選手」は、2012年ドラフトの指名順位は全体で35位だった。

また、ドラフト指名外の選手がオールスタークラスに成長した例もある。「ベン・ウォーレス選手」はドラフト外からNBAに参画したが、4年連続でオールスター出場を果たした。また、4回もNBA最優秀守備選手賞を受賞しており、高い守備能力を発揮するディフェンシブプレーヤーだった。

NBAでは、ドラフト外から「超掘り出し物プレーヤー」が台頭することやドラフト指名時の評価を覆すようなパフォーマンスを発揮するプレーヤーが存在することは、多々ある。

NBAチームにとって「失敗しないドラフト指名の意思決定」は、実現できるか?

現在、各チームはスカウトの評価をもとにドラフト指名選手を決定している。指名候補選手の評価は、スカウト達の「脚で稼いだ情報」×「経験に基づく勘」を中心につくられている。チーム運営サイドは、このスカウト達のレポートをもとに候補者を並べ、チームが持つ指名権を行使する対象を決定している。

現状では、スカウト達が追跡し情報収集できる選手の数には限りがある。スカウト達の評価には、時として「思い入れ」など客観性を欠く場合も少なくないという。「失敗しないドラフト」を実現するためには、情報収集の対象拡大や誰もが納得できる、より定量的な評価の実現が鍵となるだろう。

可視化され始めた選手のパフォーマンス

情報収集の対象拡大や定量的評価といった課題に対するサービスを開発した「STATS社」という企業がある。

STATS社はドラフト候補者のデータ収集・データ解析・トラッキングサービス『AutoSTATS』を開発した。このサービスでは、試合の動画データさえあれば、追跡対象選手のプレーをデータ化・解析することができるため、収集対象の拡大や定量評価を実現できる。これまで、選手・ボールの位置のトラッキングを試合動画に適応するためには大きく三つの問題があった。

一つ目は、放送映像ではカメラが動いたり、ズームしたりするため、選手がコートのどこにいるのかを取得するのが難しいこと。  

二つ目は、プレーヤーが映像のフレーム内に出入りするため、評価対象を見失ったままになること。  

三つ目は、撮影カメラの台数が少ないと映像内で選手同士が被ったりすると、判別ができなくなることやや別の選手と混同すること。

AutoSTATSでは、ボール・選手を追跡できるようにするために、ディープラーニングを用いて試合動画からボール・選手にX/Y座標を設定している。各プレーヤー・ボールの位置情報やプレーヤーの役割、試合時間、スコア、イベント(シュート/アシスト/スティール/リバウンド 等)をもとにデータを分析し、能力を評価・可視化することができる。

これにより、選手の良い点も悪い点も詳細に浮き彫りにすることができる。例えば良い点として「アンセルフィッシュなプレーにより、チームに対して献身的であることの度合」や悪い点として「個人のボール保持時間が長く、状況判断をせずにシュートを多投し過ぎる度合」や「さぼっている時間の度合」等が定量化され、丸見えになる。

さらには、この技術を活用することによってこれまでより多くの選手やチームの大量な動画データを扱うことが可能となり、分析結果の精度・信頼性を大きく向上させることが期待できる。
図 AutoSTATSのイメージ
出所:AutoSTATS社ホームページの情報をもとにベイカレントにて作成

AutoSTATSサービス活用に踏み切ったNBAチーム

2019年2月、NBAチームの1つOrlando Magicは、このサービスを活用することを発表した。Orlando Magicは、2018-19シーズンをイースタン カンファレンス7位という成績を収め、プレーオフに進出したが1回戦で敗退した。このチームは有望なルーキーをドラフトで獲得し、チームを再建することを目論んでおり、ドラフトの成功を必須課題としている。AutoSTATSサービスを活用することで情報収集を効率化し、より多くのドラフト候補者を高い精度で分析・評価し、「お宝選手」を発掘したいと考えているようだ。

実際、Orland Magicは、AutoSTATSサービスの活用にあたり、「一握りの試合のデータだけでなく、全ての大学の試合からドラフト候補をピックアップすることが可能となる」という声明を発表している。

AutoSTATSサービスを活用することを決めたNBAのチームは、2019年6月現在では、まだ1チームのみ。NBAに並ぶ人気スポーツ、メジャーリーグにおける「マネー・ボール」にみる「野球を統計学的手法で分析すること」も1チームが始めた。現在では広く球界に浸透し、リーグ全体に大きなインパクトを与えた。

このAutoSTATSサービスの活用により、ドラフトの成功・失敗が評価されるのは、まだ先になるが数年後には選手評価の高度化により、NBAのコート外で各チームが情報戦を繰り広げるようなリーグ全体にインパクトを与えることになるかもしれない。

選手の人材情報戦を制するチームがNBAチャンピオンシップを制す。

チャンネルはそのままで…。

パートナー 髙橋 輝充

デロイトトーマツコンサルティング、KPMGメンバーファームの立ち上げなどを経験し現職。
金融業界を中心にM&A(PMI)支援、事業戦略立案、人材育成の企画・実行、IT中期経営計画策定、ITガバナンス強化など多数のコンサルティングサービスを提供。
共著書に「デジタル化を勝ち抜く新たなIT組織のつくり方」。