デジタルトーク

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2019.07.12

製造 データ可視化の先にあるIoTの価値

IoTのトレンドはデータの収集から活用へ

「データ」が石油に変わる重要な資源であると言われて久しい。そのデータをあらゆるモノから収集し、新たな価値創出につなげる手段がIoTである。石油を採掘するには掘削機が必要だったように、現在データを収集するにはIoTが必要とされている。

IoT市場の国内市場規模は、年間平均成長率(CAGR)15.0%で成長し、2022年に11.7兆円になると予想されている。内訳を見てみると、ハードウェア、コネクティビティー、ソフトウェア、サービスの4つのグループのうち「ソフトウェア」と「サービス」に対する支出割合は61.1%に達する予測だ。

これは、データを取得するためのハードウェアやデータ伝送手段としてのネットワークといったIoTインフラへの支出から、収集したデータをソフトウェアでどう解析し、どう活用してサービスにするかに市場の期待が高まっていることを示唆している。

今後特に、国内でIoTに積極投資していくと考えられている産業セクターは、製造/資源、流通/サービス、公共インフラ、金融、個人消費の5つとされており、近年では各産業セクターにおいてIoTのユースケース策定も盛んになってきている。

実は結構難しい?!IoTによるデータの可視化

IoTのサービス提供者は新たなユースケースの策定に向け、収集したデータの「可視化」に力を注いでいる現状がある。一見簡単に見えるIoTでのデータ可視化だが、実はサービス提供者側にはそれなりの苦労がある。IoTで収集したデータの処理には主に3つのステップがあるが、それぞれに難所が潜んでいるためだ。
各難所をサービス提供者が乗り越え、可視化サービスを提供することにより初めてユーザーはデータ可視化の恩恵を受けることできる。

ここでユーザー側に視点を切り替えてみよう。ユーザーが受けられるデータ可視化の恩恵は、勿論そのデータを見たいシーンによってもまちまちであり一概には言えないが、概ね次の3つに集約されるのではないか。

1つ目の恩恵は、定量性だ。従来、定性的で見えなかったものが定量的に見えるようになる。人の主観的な感覚に左右されず、客観的な数字として状態が浮き彫りになる。これにより、属人的な先入観にとらわれる事なく事実を認識することが可能となる。

2つ目は、迅速性だ。従来、現状を定量的に可視化するまでには専用機器やシステム導入も必要で時間的制約が大きかったものが、センシングやエッジ技術の発達により、より短時間で見えるようになる。これにより、現状把握のための情報鮮度は上がり、把握までの時間短縮も可能となる。

そして3つ目は、簡易性だ。従来、専用機器を利用したり専門家でなければ見えなかったものが、前述で述べたようなサービス提供者側の努力が必要なものの、ユーザーとしてはより安価で簡単に見えるようになる。これらの恩恵を受けることで、ユーザーは日常生活や仕事の中であえてIoTを使っているという自覚はなくなる。ユーザーはIoTにより、フィジカルの世界とデジタルの世界が融合した、いわゆるフィジタルなユーザー体験を得ることが可能となるのだ。

IoTの今後の課題は、「データの可視化と価値化の溝をどう埋めるか」

可視化だけでも相当な苦労があるわけだが、一方で可視化の恩恵もまた大きいのも事実である。故に人も企業もIoTに夢中になるわけで、IoTはまだまだ高いポテンシャルを秘めている。そんなIoTの今後の課題について筆者は、「データとして可視化された先にある価値が何か、その道筋を示し切れていない」ことであると考える。

例えば、今世間で注目を浴びているスマートホーム、コネクテッドカー、インダストリー4.0、スマートグリッド等、どれをとっても近未来を感じる魅力的な世界観ではある。

一方で、こうした世界観を実現するには、個々のサービス提供者が自らの事業領域において収集可能なデータだけで実現できる世界とは言い難い。ユーザーが価値と感じる世界はデータ可視化の更にその先にあり、まだまだ大きな溝が存在している。
データ可視化とデータ価値化の間にある溝
例えば、製造業におけるインダストリー4.0(工場のフルオートメーション)を例に考えてみよう。工場の設備情報や稼働状況はIoTにより確かに以前よりも可視化されているが、製造ラインの制御や人の配置の最適化、あるいは工場の無人化までには至っていない。可視化と価値化の間にある溝が埋められない理由は、大きく2つある。

第1に、IoTありきの社会は、IoTの無い社会よりも人のインテリジェンスが必要である事である。可視化されたデータの因果や相関、データ可視化から得られた示唆は人に委ねられるためIoTは教えてくれない。近年その意味付けはAIに委ねられはじめているが、AIではルールの妥当性がブラックボックス化されてしまうため、投資対効果を得る障壁は高くなりがちになってしまうのではないか。

第2に、IoTの虜になりすぎると手段が目的化する事である。冒頭で述べたようにIoTはあくまでデータ収集の手段であり、目的は価値の創出にある。しかし、個人であれ企業であれIoTで何かを始めようとすると発想の起点がIoTで収集したデータになりがちになる。価値を創出するためにはデータが必要だが、データがあれば価値提供できるとは限らないことを念頭においておく必要がある。今置かれている環境の中から価値を発見し、価値とデータをつなぐシナリオを描く創造性が人になければ、やはりIoTはただのビックデータ収集ツールの域を出ない。

解決の方向性は、「ユーザー視点の共創シナリオづくり」

可視化と価値化の溝を埋めるべく、近年、各セクターの企業は互いに「競争」するのではなく「コラボレーション」を進めることで思い描く未来を実現しようと試みている。例えば、移動のサービス化を目指したトヨタとソフトバンクによる共同出資会社「MONET」の設立などが記憶に新しい。

コラボレーションは、ジョイントベンチャー立ち上げから業務・資本提携等、様々だが、IoTの切り口から見ると大きく2つの方式に大別される。

1つ目は、垂直方向のコラボレーションだ。デバイス、コネクティビティ、ネットワーク、プラットフォームの提供者が各レイヤ間で連携し、ワンストップ化を目指す方式である。もう1つが、水平方向のコラボレーションだ。あるレイヤーで強みを持つ企業同士が横で連携し、アセット拡充を目指す方式である。

業種・業界をまたいだコラボレーションが進む中、今後IoTを武器とする企業はどのような戦略を立てていくべきなのだろうか。筆者は3つの提言をしたい。

1つ目は、IoTで収集できるデータに着目するだけではなくそのデータを使う人にまで視点を上げ、ユーザーの課題解決の視点から価値を発見する事である。

2つ目は、ユーザーは普段の生活や仕事の中でIoTをどう使ってQoLを向上させていけるか、そのシナリオを設計する事である。

3つ目は、ユーザーとシナリオが描けたら、最終的にはIoTを捨てることも想定する事である。価値を出すことが目的なので、必ずしもツールであるIoTにこだわる必要はないかもしれないのだ。企業同士のコラボレーションにより新しい発想が生まれビジョンが現実のものとなった時、データ可視化の先にある価値の本質とは何だろうか。

最後に、本稿で最初に挙げた問いの答えに迫ってみたい。

データ可視化の先にある価値の本質は、コミュニケーションの高度化と行動のリアルタイム化

データ可視化の恩恵は、定量性迅速性簡易性だ。

そしてこの恩恵を受けるのは、人だ(その人は利用シーンにより、消費者であり、運転者であり、従業員であったりはするかもしれない)。 そして人にはもれなく主観や肌感がある。何かを判断する際その主観や肌感は非常に重要なのだが、時にはそれが判断の誤りや判断しきれないという悩みをもたらす場合がある。

逆にIoTは、客観的事実のみを提示する。これは時として、人に代わってその状況のリアリティを代弁してくれる。これは、言語や感覚に依存したコミュニケーションを補い、更に高度化させていける可能性がある。

またIoTは継続的にデータを提示し続けてくれる。これは、その先の未来予測やリスク検知に役だち、新たな行動や挑戦の指針につなげていける可能性がある。これらが、可視化の先にある価値の本質ではないかと筆者は考える。

IoTをケイパビリティとして装填した企業が、可視化と価値化の溝を超えた時、これまでにない質の高さと速さで人々の暮らしや働き方は変化していくのだろう。願わくば、日本の各セクターのリーディングカンパニーがIoTを活用することで社会変革を引き起こし、日本経済を発展させていく未来を期待したい。
データ価値化のフレームワーク
出展
・英「Economist誌」2017年
・IDC japan「国内IoT市場 国内IoT市場 支出額予測と技術グループ別支出割合推移」 2017~2012年
・IDC japan「国内IoT市場 産業分野別/ユースケース別予測」2019年~2023年

パートナー 太田 和哉

ITコンサルティング会社を経て現職。
通信・ハイテク、金融、情報サービス等を中心に、ICT・デジタルを活用した新規事業の立ち上げや企業間アライアンス支援に従事。