デジタルトーク

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2019.08.09

共通 メルカリに学ぶ(後編)

メルカリはデジタルビジネス立上げ・展開の肝を押さえていた

<サービス開始時>
当初はプラットフォーマーと言えるほどの顧客数がなく、データも蓄積できていなかった中、既存サービスとは違った機能を工夫し、顧客に価値を感じてもらいやすいものを追求・提供してきた。

例えば、メルカリは初めからスマホアプリを前提に構築されているため、スマホで操作する際のユーザーインタフェース(UI)が徹底的に磨きこまれている。スマホアプリの起動から1タップで商品撮影できるなど、1タップの操作にまで気を配っている。

またメルカリのフリーマーケット形式は、値下げ交渉ができることが醍醐味でもある。コメント欄で気軽に交渉ができるものの、他の人が売り手の希望金額で購入手続きをすることによって、即時で売買が成立されてしまう恐れもある。従って人気商品であるほど、買い手としては値下げしたい欲求とライバルより先に売買を成立させたい欲求とのジレンマに陥るかもしれない。そのため一日に何度もアプリを立ち上げては状況を確認し、売り手との金額交渉に勤しむほど、気になってしまうこともある。

こうなると1クリックでも手間があると、ユーザーとしてはストレスを感じることになる。メルカリとしては徹底的にCXを改善させ、かゆいところにも手が届くようなサービスを作り上げていくことで、既存サービスとの差別化を図ってきた。まさに前項でご説明した「サービスが提供する価値をデジタルで研ぎ澄ます」の対応だ。

メルカリはサービス開始早々にテレビCMを放映している。ファーストターゲットとなるペルソナを20代女性に絞ることで、口コミによる広がりやCMによる効果を高めることができたことも、メルカリの勝因となった。トレンドを作っていくのは若い女性であり、口コミが自ずと広がっていく効果も見込める。

仮に男性をファーストターゲットにしてしまうと、ここまでの口コミによる効果は見込めなかったはずだ。CMも若い女性の間で特に知名度が高い有名人を起用することで、集客につながった。売買金額の10%の成約手数料を無料にすることで、初回利用の障壁も下げた。

家の中にある不要になったモノをすぐに売りたいと考えるのも、若い女性ならではだ。男性だと、不用品があっても面倒くさくて放置する人が多数を占めてしまうだろう。ペルソナを絞ったことにより、売り手と買い手のマッチング率が向上するメリットもある。売買された履歴データが増えていくことで、ペルソナの20代女性からすると「欲しい商品が揃っている」というメリットを感じやすくなる。この好循環サイクルによってデータが蓄積されていく収集パスが最初から作られていたのである。

このように、ペルソナとして設定した20代女性に寄り添い続けることで、前項でご説明した「顧客とのタッチポイントをデジタルで研ぎ澄ます」ことが出来たと言える。

メルカリは3期目までは10億円を超える赤字であったものの、まずは顧客を集めることで取引データを増やすことに徹したわけだ。顧客から直接データを収集するパスを組み込む必要性を理解していたと言える。収集できたのは、買い手や売り手の属性情報や出品履歴、購買履歴、そして商品データであった。これらのデータによって買い手と売り手をよりマッチングしやすくなり、新たな機能拡充にもつながっていった。
<プラットフォーマーとなった現在>
強力な顧客基盤を獲得した現在は、膨大なデータと機械学習による分析で、メルカリはさらにCXを磨いている。

例えば、あるアイテムが72時間以内に売れたかどうか、というデータをメルカリは持つ。どのように販売すれば売れやすいかという視点でこのデータを分析すると、売り手が出品した際、「今のままでは売れづらいので何か画像を足してみてはいかがですか?」などといったアドバイスが可能になる。

また、数十億件とされる商品の関連情報や取引データ量を持つことも大きな武器である。法令で販売を禁止されているか、メルカリ独自の基準で禁止されているかという視点で分析し、買い手の目に付く前に商品を非表示にする。結果、買い手は偽ブランド品や盗品などを心配することなく、商品を選べるようになる。データ活用がメルカリのブランド価値向上に寄与した結果だ。

購入者からの評価をレイティングすることによって、売買相手が怪しくないかどうかも確認できる。例えば模造品を売ったことのある人は、悪い評価が付けられていることで検知されてしまうこともある。対応が悪い人からは買いたくないものだが、過去の評価コメントを確認すれば避けることもできる。過去の取引履歴が多いほど信用されるというのは、データプラットフォーマーが提供できる長所だ。評価が上がればメルカリ上で信頼できる人と判断してもらえる。

そうなると、手作りの編み物でも売れるかもしれない。これまでお金を出して手に入れようとは思わなかったものまで、商品になってしまう。ブランドバッグを買った際に付いてきた袋でさえ容易に売れてしまう事例も出ているほどだ。

強力な顧客基盤と膨大な出品データから、「欲しいものは何でも揃っている」と感じてもらえるメルカリの価値は、新品で購入する店舗にも匹敵し出す。

例えば新品で10万円する商品の場合、メルカリだと使用期間や劣化状態に応じて値が付いている。商品が欲しい買い手の気持ちとしては、誰も触っていない綺麗な状態のものが良ければ、店舗で10万円のものを買うことになる。

逆にとにかく安く買いたいのであれば、メルカリで6万円くらいのものが見つかるかもしれない。状態が比較的良く、安いというお得感も得たいのであれば、メルカリの8万円の商品を選択するかもしれない。

このように購入者からすると、新品と肩を並べる形でメルカリに出品されている多くの商品が選択肢に入っていく。これは、「何でも見つかる」を実現したプラットフォーマーならではの価値であろう。

更にプラットフォーマーの価値は、これだけには留まらない。

仮に店舗で10万円の新品商品を購入するとしても、「いずれ不要になったらメルカリで売れば良い」という、将来自分が売り手になるという判断材料が付加される。もしメルカリに出品すれば6万円で売れるという算段が付くのであれば、差し引き4万円のお買いものだ。これまでは購入者の立場だけで判断していたため、心底欲しいと思わない限りは買わなかった高額商品であっても、将来の売り手としての立場が加われば財布の紐が一気に緩む。

この景気の好循環サイクルさえ実現できてしまうと、C2Cマーケットプレイス市場を飛び越えた価値と言える。プラットフォーマーになるということは、それほどインパクトのあることなのだ。

また、これまで蓄積してきたデータに着目すれば、データプラットフォーマーとして様々なカスタマーエクスペリエンス向上施策を検討でき、新たなビジネスの広がりも期待できる。

例えば、「使わなくなったら何でもメルカリで売る」という文化が根付いていくと、出品される商品の概念が「ユーザーが使わなくなった不要な商品」から、「ユーザーの趣味趣向に合う商品(かつて自らの意思で購入したモノ)」に昇華されていく。

すると、出品されたデータを分析することでレコメンドに活かせるようになる。「ナイキのスニーカーを出品した人に、アディダスの新作スニーカーを薦める」といった具合だ。レコメンドが上手くユーザーに刺さると、商品を売って手にした金額が、次の買い物に使われていくことになる。

メルカリはこのように、売る体験をデジタルで研ぎ澄まし、データ収集パスを組み込み、データにレバレッジを効かせてフィードバックループを回した。2018年7月にメルカリのダウンロード数は、ついに7,100万ダウンロードを突破した。正真正銘のデータプラットフォーマーになったと言えるであろう。

デジタルビジネスを成功させる肝は、顧客の想像を超えるカスタマーエクスペリエンス

メルカリは今では膨大なデータを武器にプラットフォーマーとして価値を提供できていると言えるが、一方でサービス開始時はデータプラットフォーマーには程遠い存在であった。

最初はヤフオク!に代表されるオークションサービスや、類似のフリマサービス等と競い合うなかで、後発組ながらも少しずつ顧客の視点で差別化を図り、徐々に顧客の価値(カスタマーエクスペリエンス(CX))を研ぎ澄まして、多くのユーザーを取り込んでいった。

また、サービス開始時からデータ収集パスを整備していたことも勝因だ。将来データが集まってくると、新たな価値を提供できることを想像しておくことで、データがレバレッジを効かせるプラットフォーマーになることができた。

だが最も重要なのは、プラットフォーマーとなった後も、顧客の行動を細かく観察し続けることに変わりはないということだ。顧客の生活体験に寄り添うことで、消費につながる本当のレバーを見極めることができるようになる。「顧客は金を払う機械ではない」という意識の徹底が、CX理解の出発点だ。顧客の想像を遥かに超えるCXを提供できた時、デジタルビジネスは成功に向かって動き出す。

冒頭でも申し上げたが、もし「データを収集することがデジタルビジネスの成功の鍵だ」と勘違いしているご担当者がいるのであれば、CXの磨き方からしっかり検討されることをお勧めする。

パートナー 八木 典裕

大手IT企業を経て現職。デジタル・イノベーション・ラボ所属。
金融・製造・通信を中心に、IT戦略立案、ITコスト最適化、全社システム刷新など多数のプロジェクトに従事。
直近ではデジタルを活用した新規ビジネス創造などに携わっており、社内ブロックチェーン研究会やAI研究会の リーダーとして事例調査や技術研究を推進中。
共著書に「デジタルトランスフォーメーション」、「デジタル化を勝ち抜く新たなIT組織のつくり方」など。