デジタルトーク

この記事をシェア
2017.12.25

保険 保険業界でのデジタル・トランスフォーメーション(DX)の難しさ

導入が簡単ではないInsurTech

FinTech(「Finance」と「Technology」を掛け合わせた造語)という言葉が日本で言われ始めたのが2014年だ。保険業界ではInsurTech(「Insurance」と「Technology」を組み合わせた造語)と呼ばれ、その存在感をアピールし始めた。人工知能(AI)を利用した保険引受時の手続きの簡素化や、ビッグデータ解析に基づいた保険料を割り引く新商品の開発などだ。

実際、日本の保険業界でも、InsurTechはホットなテーマとなっている。検討していない企業はほとんどないと思われる。今のうちから手を打っておかないと、競合他社に後れをとってしてしまう、というプレッシャーが否応なしに経営層にのしかかっている。

だが、実際に導入を始めてみると、経営層の焦りをよそに、捗々しくない状況が散見される。導入前に想定した効果が得られないという失敗事例を、残念ながらよく耳にする。新しい技術を導入して効果を出すのは簡単ではないのだ。

新技術の導入を成功に導くための鍵

新しい技術を導入するにあたり、対象とする業務単体で費用対効果を求めるのは難しい。一般的な業務システムの開発のように、「大量業務を効率化する」という考え方ではないからだ。属人化を排除したり、新しいサービスの基礎にしたりする取組みでもある。

これまで我々が支援した経験を元にすると、成功に導くための鍵としては、次の3つがあると考えている。①「全社ロードマップを描く」、②「個別領域だけのROI(Return on Investment:投資対効果)」に縛られない」、③「業務保証をうたわない」だ。そして、これらは単体で成立するのではなく、歯車のように相互に関連し合う。

「全社ロードマップを描く」のは、単独の取り組みだけで売上や業務コストへのインパクトを考えるのではなく、影響が及ぶすべての事象を見渡すためだ。その全体像を描き、いくつかの取組みを組み合わせることで、刈り取れる果実がやっと見えてくる。

例えば、ペーパーレス化を実施しても、現場での利用率が上がらないのであれば、「導入の効果は上がらなかった」という判断になる。しかし、これをAIによる自動査定の前工程の一つと捉えれば、後続業務への効果が期待できる。単体で考えるよりも効果は高いはずだ。

②として挙げたROIについてのポイントでは、個別領域だけで考えず、ロードマップ全体で考えることが重要になる。投資対効果が低いからと言ってすぐに取りやめるのではなく、今後につながる施策も考慮して、計画立案と試算をすべきであろう。「個別領域だけのROIに縛られない」ということだ。経営層は概してすぐに効果が出るような施策を望むが、推進リーダーには将来を見据えたVisionと全体感を持ち続けることが求められる。

③として挙げた最後のポイントでは、最初から「業務保証をうたわず」に、最新のデジタル技術に合わせて導入をすることだ。それによって全体ロードマップを見た時のスピード感やROIの投資を抑える効果が出ると考える。難攻不落の業務部門を口説き落とすのは簡単ではないが、全体観と投資対効果を粘り強く説明していくことが、実施フェーズでの成功ポイントだ。
今後は、今回紹介できなかった海外での成功事例や、使い勝手のよい指標も紹介していきたい。

パートナー 和田 則吉

外資系SIベンダーを経て現職。
金融・製造・流通を中心に、大規模プロジェクトのマネージメント、業務統合の企画、全社システム刷新やロードマップの策定の支援に従事。
直近では大手金融機関の統合プロジェクトに従事。