デジタルトーク

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2019.06.25

エンタメ 画像認識の消費者利用シーンを考える

今までにない体験価値を提供する、異色のスマホアプリ

そのアプリは、「LINNE LENS(リンネレンズ)」といい、スマホレンズ越しに見える生物の名前と説明が表示されるものである。世界一受けたい授業でも紹介されたため、知っている人も多いのではないか。水族館で疑似デートが可能な女子高生AI「りんな」ではなく「リンネ」である。リンネは輪廻から連想と思いきや、分類学の父であるカール・フォン・リンネから。

その画像認識技術は素晴らしく2019年4月時点で約10,000種の生物を認識することができ、それがスマホの中で完結する。容量も100MB程度であり、LTEでもダウンロードが可能。半年前にリリースされた時点では4,000種だったのが短期間で倍増している。この10000という数字は国内の水族館と動物園の生物9割をカバーしているらしい。

またスキャン成功時の認識精度は平均で90%らしいが、実際に使ってみたところ長くとも5秒程対象を追跡すると人間でも見分けが難しいもの以外は大体認識された。リンネレンズの公式HPによると、アプリを通じて「生態系をリアルタイムでモニタリングし、よりよい保全・保護活動を推進できる可能性」について述べられており、社会的にも有意義だと感じた。

事業者目線で収益化を考えてみると

さて、当アプリの収益化方針を勘繰るべく料金体系を見てみると、2019年4月時点では1か月360円、3か月720円、年1450円のプロ版と1日10種類しか認識できない無料版が存在する。ただ、このアプリを日常的に使い続けるペルソナの想定がなかなか難しい。

使い続けるきっかけとなる水族館でのユーザーは、一日に10種類超の需要があるため無料版ではなくプロ版を課金すると思うが、毎月のように水族館を訪れるユーザーは少数のため、訪問の月のみ都度登録すれば十分となる。日常的にある程度魚に関わるユーザーとしては釣り人、漁業関係者、飲食店・・・が考えられるが、釣り人は1日に10種類以上の外道(釣りの目的ではない魚)を釣り上げることはまれであるため、無料版で十分である。

一方、魚河岸関係者や日々、河岸で食材を目利きしている個人経営の街中割烹店などは、普段扱わない種を見分けることができると活用の余地があるかもしれない。さらにはキノコ狩りや山菜取りにおいて毒キノコや毒草を見分けたり、釣果に対して毒魚ではないかを見分けたりといったことも期待できる。ただし、誤判定のリスクがある以上全面的に信頼できないと命を預けることは難しい。いずれにせよユーザーは限定的である。

では、B2Bモデルでのマネタイズは可能だろうか?最近のアプリでは、アプリ利用者の行動データを蓄積し、データ自体に経済的価値を見出しマネタイズに成功していることが多い。ただ、このアプリから得られるデータを企業のマーケティング活動に活かす先は極めて限定的であり、データ自体に経済的価値を見出して収益化することは難しい。

現時点では、水族館や動物園との提携がされているようであるが、他の可能性としては、農業への活用や、ホームセキュリティサービスへの活用が考えられるのではないか。

たとえば農業では、定置に設置し、益虫と害虫を見分けることで、益虫の保護や害虫に対する防除の農薬を必要最低限に抑えることが期待でき、農業組合や契約農家を囲っている外食産業がターゲットとなる。またホームセキュリティサービスでは、ホモサピエンスを細分化して空き巣犯として認識することはできないにしても、熊やイノシシ、猿の出没する地域においては、対象動物を見分け住民へ通知するサービスへの展開が考えられる。

エンタメでの成功の道筋はないだろうか。開発者は「ダイビング中にARゴーグル上で生き物の名前がリアルタイムで表示・記録されたら面白い」と思ったのが開発の原点らしく、『発見ログを世界中のダイバーで共有できると面白い』とのこと。(ocean’α「かざすAI図鑑アプリ『LINNÉ LENS(リンネレンズ)』誕生までの軌跡に迫る!〜開発者インタビュー〜」)
そこでダイビングにこのアプリを普及させるための方法を考えてみた。

ダイバーにはおなじみのダイビングコンピュータ(ダイコン)という腕時計型の機械があり、もともとはダイバーの安全管理のために深度やダイブ時間の確認に使う道具であるが、ダイブログを記録したり、GPSがついたりとテクノロジーの発展に伴い日々進化している。今後ディスプレイやネット機能の充実が行われると、いずれはスマートウォッチと合流すると思われる。このダイビングコンピュータのブランドと提携して普及させることができれば、成功するのではないか。なによりダイコンで魚の種類が分かる未来はわくわくする。

ダイビングコンピュータを通じて多くのデータが蓄積されると生態系の情報や詳細な画像・動画の分析ができるようになる。明かされていない生態の解明にもつながる。同定の精度が上がると新種の発見も可能になる。ダイバーたちの収集した動画により、魚をVR上で再現できるようになると、ダイビング練習用プールを活用したダイビング体験が可能な水中VRというエンタメ施設も登場するかもしれない。


余談だが、和食の大将に魚の種別が特定できるアプリの話をしたところ、その魚が養殖なのか、天然なのか、産地はどこかが分かると嬉しいといった話を聞いた。本物を食材に使用している大将ならではの言葉である。これを実現するためには泳いでいる魚だけではなく、水揚げされている魚、切り身、刺身、一夜干し、開きなど様々な状態の魚を見分ける必要があるが、これが実現したとして回転ずしの代用魚を見抜いたり、スーパーで産地偽装を見抜いたり、割烹で天然詐欺を見抜いたりといったことが可能になった未来、はたしてユーザーは幸せなのだろうか。

AIは養殖業界にも進出しており、天然と養殖との差異が少なくなり、養殖AIと養殖判定AIのいたちごっこが始まるとすると、安価で天然に近いネタが流通し、ユーザーは幸せになるのかもしれない。輪廻だけでなく、人の業にも思いを馳せつつ、サービスの成功に期待したい。

シニアマネージャー 河野 有輝

コンサルティングファーム数社を経て現職。
金融を中心に、戦略(新規事業創出、M&A、新会社設立)、 業務改善(BPO、PMI、DX、コールセンターの立ち上げ)、 IT関連(IT戦略、ITリスク評価、システム開発、ネットワーク設計) など多岐にわたるプロジェクトに従事。