デジタルトーク

2019.06.11

エンタメ GSYを迎えるスポーツ業界の飛躍

注目が高まるスポーツ業界

2019年ラグビーW杯、2020年オリンピック・パラリンピック、2021年ワールドマスターズゲームズと、3年連続で世界的なスポーツイベントが国内で開催されるGolden Sports Years(GSY)が始まった。

2020年のオリンピック・パラリンピック開催準備を一つの目的として、2015年に文部科学省の外局として発足したスポーツ庁は、2016年6月のスポーツ未来開拓会議の中間報告にて、スポーツ産業市場を2015年時点での5.5兆円から2025年までに15.2兆円に拡大する目標値を設定した。また、内閣府が取りまとめた日本再興戦略2016の中でも「スポーツの成長産業化」として数値目標が明記されている。これらの目標を実現するために、スポーツ庁はハコモノであるスタジアム・アリーナの改革と、長年課題となっていたスポーツにおける経営力強化を、両輪で推進していくことを目標にしている。

世界的なイベントを観戦しに来る訪日外国人や日本国内の高まりに対して、官民一体となって経済的な受益を得ようとしているのだ。

波に乗り切れない国内スポーツ企業、原因は戦後日本の教育論

しかしながら、この千載一遇のチャンスをものにすべき国内スポーツ企業は、この潮流に乗り切れているとは言えない。IT企業やエンターテインメント産業など、他業界からの参入者や海外企業にビジネス化を先行されている。

【スポーツのビジネス化における成功例】
  1. ドイツサッカー協会と組んでデータ分析を提供するSAP社や、テニスのグランドスラムでデータ収集・分析技術を提供するIBMなどのIT企業
     
  2. 位置情報を活用して選手の怪我を予防する豪州のCatapult社や、ラグビー日本代表にも利用された、選手のコンディションを可視化するツールを提供するユーフォリア社などのスタートアップ企業

この原因は、日本のスポーツ企業の根底に「スポーツ=体育・教育」の考え・文化があり、スポーツを使って教育以外の観点で稼ぐことがタブーとして認識されていたことにある。

10年以上前の話だが、社名にビジネスがつく企業がスポーツ団体の関係者へ営業に行ったところ、名刺を破り捨てられ、「おたくのような会社がいるからスポーツが良くならない」と言われたというエピソードを聞いたことがある。

もともと「体育」という言葉は「身体に関する教育」が元であり、日本ではスポーツと体育が同一視されてきた。当然、国内のスポーツ産業は、この「体育」の考え方から発展しており、スポーツは心身を育むために行うものであるという考えに固執しているのだ。

このような背景から、国内スポーツ企業ではテクノロジーなどを駆使して積極的にビジネス化を推進することはなかった。さらにはビジネス状況が大きく変わらず、他社との交流が少なかったこと、体育会ならでは、の上意下達で変革が起き難かったことも要因として考えられる。

スポーツ業界にビジネス人材が流入、スポーツを魅力的なコンテンツとして活用

これらの状況が2000年前半に変化し始めた。楽天やDeNAなどのITベンチャーがスポーツ業界に参入し、それまではプロモーションの一環として「コストセンター」の認識が強かったプロ野球チームを、集客と購買を組合せた「プロフィットセンター」として成功させたことにより、大きく潮目が変わったのだ。日本におけるスポーツのビジネス化が新興企業によって拓かれたと言えるだろう。

さらには人材の流動性が高まり、待遇が劣るにも関わらずスポーツ業界外の人材が、スポーツの世界へ一気に流れ込んだ。元来、スポーツに携わる仕事は人気が高く、就職したい人は潜在的に多いのである。アスリートが怪我などを乗り越え、練習に励み、そして勝負所では一瞬で明確な勝ち負けがつく、まさにノンフィクションなドラマなのである。ビデオリサーチ日報が発表した2018年の世帯平均視聴率においても、上位30位までにスポーツは20番組がランクインするなど、スポーツは圧倒的な人気を誇るコンテンツなのである。

この魅力的なコンテンツを触媒として、インターネット新興企業の人材はビジネスに上手く活用した。現在もこの潮流をリードしているうちの一社が、かつて楽天球団の立ち上げに携わった南CEOが率いるビズリーチ社である。ロンドン五輪で銀メダルを獲得した太田雄貴会長が率いるフェンシング協会との協業など、積極的な取り組みをGSYに合わせて実施している。

スポーツテックの広がり

IoT、データ分析、VRなどのテクノロジーが発展し、我々の生活にも広がってきた。スポーツ産業においても、一部のトップアスリートおよびトップチームだけに利用されていたテクノロジーが、スポーツを「する」「支える」「観る」すべてに広がっている。
 
  1. 「する」
    多くのプロ野球球団が導入しているボール計測ソリューションであるTrackmanに代わる比較的安価なIoTボールや、バットスイング計測ソリューションがトッププロからアマチュアに広く浸透
     
  2. 「支える」
    昨年の甲子園優勝校である大阪桐蔭高校や、全国高校サッカー選手権で2年連続決勝進出の流通経済大学柏高校にもデータ分析班が組成
     
  3. 「観る」
    デジタルチケットがプロ野球の西武ライオンズ公式戦で2018年から開始、ラグビーのトップリーグやバレーボールのVリーグでも導入予定

古くて堅いスポーツ業界にもテクノロジーの波が押し寄せ、「する」「支える」「観る」の全てにおいてデジタルを使って、どのようにチームの強化、集客、そして収益化に繋げていけるかがスポーツ企業の喫緊の課題となりつつある。

GSYにおける国内スポーツ企業の巻き返し

戦後日本の教育文化がはびこるスポーツ業界に、ITベンチャー企業の先人たちは入り込み、スポーツ業界のビジネス化を開拓した。それによって、ビジネスの世界からスポーツに対する熱い想いを持った人材が流れ込み、裾野を広げ、スポーツを産業化する取り組みを進めている。スポーツにおけるデジタル化が進み国内外の関心が高まる中、2019年から始まるGSYにおいて、スポーツ産業は魅力的なマーケットとなるだろう。

スポーツに対する情熱を持ったビジネス人材を活用し、スポーツを媒体としてビジネス化することでスポーツ産業全体を変革できるか、その真価が問われている、まさに勝負所なのである。GSYにおいて、国内スポーツ企業の大逆転に期待したい。

シニアマネージャー 山口 星志

外資IT企業を経て現職。
保険・通信・製薬・ITなど業種を問わず、グローバルIT戦略の立案、新規事業の立ち上げ等のプロジェクトに従事。

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