大手飲食店にとっては、上記のようなキャッシュレス店舗を徐々に増やしていくことで享受できるメリットが大きい。一方、中小の飲食店や個店にとっては、完全キャッシュレス化どころか、決済端末の導入でさえ、導入費用や決済手数料といったコスト面を懸念し、躊躇しているのが現実である。また、中途半端にキャッシュレス化することで、現金決済とキャッシュレス決済が混在し、会計業務は残り続けるうえ、新たなオペレーションを覚えなくてはならないため、かえって現場が混乱する可能性すらある。こうしたコスト面・業務面における要因が店舗のキャッシュレス化実現の壁となっている。
それでは、政府はキャッシュレス化社会の実現に向けて何をしようとしているのか。経産省がキャッシュレス推進協議会を発足し、QRコード決済の規格統一や標準化、災害時におけるキャッシュレス決済の在り方などの検討を進めている。また、既に新聞やニュース等で目にしている方が多いと思うが、2019年10月の消費増税に伴う、キャッシュレス決済時におけるポイント還元事業(経産省「
キャッシュレス・消費者還元事業」)において、キャッシュレス化を急拡大する狙いである。
この事業がキャッシュレス化社会の実現に寄与するポイントは大きく2つある。
一つは “消費者へポイント還元すること”、消費者のキャッシュレス決済に対する心理的な壁を破壊するために、まずは『キャッシュレス決済=お得』と認知して実際に利用してもらう。利用を続けていくと『キャッシュレス決済=便利』へと変わる。インターネットや、スマートフォンが普及したように、利用者は一度『便利』だと認識すると現金決済には戻れなくなる。
二つ目は、“店舗への決済端末導入を支援すること” 。決済端末導入費用と決済手数料の一部を補助することで、店舗側のコスト面におけるハードルを下げる狙いだ。これによってキャッシュレス決済できるお店が増えれば、消費者にとっての利便性がさらに高まる。
さらに、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック、2025年の大阪万博といった大規模なイベントが続くことにより、国内利用者だけでなく、訪日観光客の消費においてもキャッシュレス決済の利用環境を整えることで更なる消費喚起が狙いだ。