デジタルトーク

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2019.03.20

不動産 不動産業界の闇に対するデジタルの功罪

借家探しで知った意外な事実

先日、引越しのために借家を探す機会があり、久方ぶりに不動産仲介をプロにお願いした。結果的に満足ゆく物件に入居することができたのだが、業者さんに話を聞いてみると、今だに不動産に関するトラブルは後をたたないということだ。

不動産業界と一言で言っても、宅地建物取引主任者、いわゆる宅建士によって行われる売買・賃貸の仲介業から、不動産の鑑定・管理・リフォーム等に至るまで、様々な業種業態が存在する。その中で今回は、賃貸物件を取り巻く不動産仲介の実態について考えてゆきたい。

前提として、借主が部屋を借りるにあたっては、4つの人格が介在しているという実態がある。借主と貸主(大家)以外の2つが何かと言うと、「客付業者」および「元付業者」と言われる2人格の不動産仲介業者である。この時点で、ほとんどの借主は認識していない事実であることが多く、また正しく説明する業者も非常に少ない。宅地建物取引業法(いわゆる宅建業法)には、これらの人格に関する規定はないためだ。不動産業界の闇の一つがここにある。

不動産仲介の実態と課題

それでは、これらの人格とはどのようなものなのか?

客付業者の果たすべき機能とは、借主にとって理想的な物件を借主に変わって調べ、元付業者との交渉および契約行為を円滑に進めることである。一般的に認識されている不動産仲介手数料は客付業者に支払われていることが多い。

一方で元付業者は、貸主側に立って機能を果たす。代表的なものは、借主の募集・審査や、入居にかかる業務(鍵の交換や、清掃、保険契約の取り纏め、等々)、そして入居の有無にかかわらず物件の管理も行う。この報酬は、貸主から元付業者に支払われる原則がある。

一言で言えば、借主の利益を守るための、借主側のエージェントが客付業者であり、貸主の利益を守るためのエージェントが元付業者である。しかし、上記の2人格に関する情報開示が十分でないため、これらを取り巻く報酬に関して借主が十分な情報を得ることができないことが問題なのだ。

宅建業法には、不動産の仲介報酬について以下のように記載されている。

第四十六条

  1. 宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる。

  2. 宅地建物取引業者は、前項の額をこえて報酬を受けてはならない。

  3. 国土交通大臣は、第一項の報酬の額を定めたときは、これを告示しなければならない。

  4. 宅地建物取引業者は、その事務所ごとに、公衆の見やすい場所に、第一項の規定により国土交通大臣が定めた報酬の額を掲示しなければならない。

(業務に関する禁止事項)

上記を受けて、報酬において定められた建設省告示(いわゆる報酬告示)の賃貸に関する部分を抜粋すると以下の内容になる。

宅地または建物の貸借の媒介において、宅地建物取引業者が依頼者双方から受けることのできる報酬の上限は、合計で借賃(借賃に係る消費税額を除外する)の1月分+これに対する消費税額である(この額には報酬に係る消費税相当額を含む)。ただし、居住の用に供する建物の賃貸借については、依頼者の一方から受け取ることのできる報酬は、媒介依頼の際に当該依頼者の承諾を得ている場合を除いて、借賃の1月分の0.5倍+これに対する消費税額以内でなければならない(報酬告示第四)。

ここで規定されている依頼者とは、当然ながら借主と貸主である。整理すると
  • 仲介手数料の上限は賃料1ヶ月分である
  • その内訳は、貸主と借主が半分(0.5ヶ月分)ずつ支払うのが原則である
  • ただし、借主の承諾を得ている場合はその限りではない
ということになる。

さて、実態としては仲介手数料として1ヶ月分を支払った経験のある読者がほとんどだろう。いったい何が起きているのか。

まず、借主→客付業者に1ヶ月分の仲介手数料が支払われている。前述の通り、本来は借主の了承がなければ0.5ヶ月分であるが、借主が説明を受けることは稀だ。契約書をよく読まなければ承諾していることに気づくこともないだろう。

次に、貸主→元付業者に1ヶ月分の報酬が支払われていることが多い。客付業者が仲介手数料の100%をもらっているためにこの名目は使えず、業務委託手数料等の名目で請求されている。

さらにここで、礼金という慣習がある。古くは戦前から存在する慣習がいまだに残っているという認識が一般的だが、実際は礼金をなくすと貸主が持ち出しで元付への業務委託手数料を支払うことになので、それを避けるための仕組みとしていまだに生き残っているという方が適切だろう。

結果的に、借主が支払った礼金は元付業者に渡っていることになる。貸主が元付業者に入居者を探してもらうための費用まで礼金として払っているのだ。貸主と借主の公平な交渉を目的とした宅建業法の思想は、事実上瓦解していると言って良いだろう。

広告費用が生み出す利益相反

それでは、貸主は報酬を払っていないかというと、そうではない。物件の図面をよく見ると書いてあることがあるが、貸主から客付業者に対して、広告費用(AD)という名の特別報酬が支払われている。つまり、貸主から客付業者に対するインセンティブである。元付業者の営業力だけでは借主が見つからない場合や、すぐに入居させたい場合などに利用される仕組みだ。

通常、レインズに代表される業者間の為の不動産ポータルサイトに掲載されている図面にはこれらの報酬は記載されているが、実際にはどの業者も以下の作業をしてから借主に提示しているため、借主は認識できなくなっている。
  • 元付業者の帯は客付け業者の帯に張り替える
  • 住所の枝番を消す
  • 物件名を消す
  • 広告費用(AD)を消す
当然、客付業者は広告費用のある物件を借主に勧めようとする。つまりこの仕組みが、前述した交渉の非対称性を助長し、利益相反を促しているのだ。

さらに、こういった事情が一般的に知られていないことで、街の不動産店舗に飛び込んだ借主は、元付業者の思惑で物件探しをすることにもなる。つまり、二つの人格の業者を一つの業者が行なっていることに気づくことができないということだ。不動産店舗としては、目の前で物件を探している時点で、客付業者としての報酬は確定している。さらに、自社が元付である物件に入居させることで、貸主と契約している報酬も得ることができる。街の不動産店舗で勧められる物件は、基本的にはこういった物件であることは想像に難くないだろう(ちなみにこういったシーンで、「これは御社の元付物件ですか?」などとは聞かない方がよい。面倒な客だと思われて冷遇されることになるだろう)。

これらの事情によって、借主の物件選びは大きく制限されているのだ。

これらの交渉の非対称性を示す端的な例を挙げると、いわゆる「537物件」というものがある。東京都の一部地域において、生活保護受給者の家賃の上限は ¥53,700 と定められている。実態として客付業者が機能していないため、彼ら生活保護受給者は物件選びが大きく制限される。一般的な業者は生活保護受給者お断り、としている場合も多い。結果、彼らは受け入れてくれる元付業者にたどり着くまで業者を探すことになる。そして、たどり着いた業者に紹介されるのは、相場からかけ離れた理不尽な条件の「537物件」だ。

デジタルに見出す展望

さて、これらの闇だが、近年はデジタルによって少しづつ晴れてきている。その大きな要因が、いわゆる賃貸物件メディアの掲載精度の向上だ。

もともと、多くの賃貸物件メディアは広告収入を目的として、借主と仲介業者(客付か元付かの区別は問わない)のマッチングを行ってきた。今までは、ここに監査の概念がなかったため、多くの「釣り物件」に借主が翻弄されてきた。「釣り物件」とは、実際には貸し出し不能な好条件の物件だ。いくつかの種類があり、
  • 既に入居が決まっているが、人気のため引き続き掲載している
  • 自社では扱いできない(提携関係にない)元付業者の物件を勝手に掲載している
  • そもそも、勝手に建物の写真を撮ってきて、架空の物件を捏造している
など、程度によって様々だが、目的は全て、借主からの問い合わせを獲得し、店舗に誘導することだ。店舗に訪れた借主は、問い合わせた物件がないので、その場で調べてもらうことになる。そこで業者が利用するのは、レインズに代表される業者専門の情報サイトであり、そこにエンド向けの釣り物件は存在しないため、実質的な物件探しはネットではなく店舗で始まっていた。

これらの状況を是正するため、首都圏不動産公正取引協議会を中心とした調査が行われ、物件の精度が大幅に見直されてきている。
結果として、レインズとメディアの情報格差が少なくなり、借主にとってはメディアの信頼度が増したと言える。一方で、今まで「レインズを見ることができる」ことだけが価値の源泉であった「街の不動産屋さん」は苦戦を強いられている。物件探しのデジタルシフトは確実に進んでいるのだ。そしてそれは、前述した交渉の非対称性の根本原因である、情報の非対称性が解消されつつあるということだ。

とはいえ、やはり住む家というものは、必ず内見してから決めるのが常識であり、また実際に必要なことである。図面からはわからない条件がたくさんあるからだ。ただしこれらも、例えばVRのようなデジタル技術や、高度なレコメンデーションによって補完されてくる時代になるだろう。

2020年以降の物件の資産価値が不透明であり、持ち家リスクが叫ばれる昨今において、借主と物件の「アットホーム」な出会いが得られることを期待したい。

運営スタッフ 松本 敦

エンタメ企業を経て現職。デジタル・イノベーション・ラボ所属。
通信・ハイテク・メディア企業を中心に、経営計画の策定、サービス企画立案、実証実験の実行支援等のプロジェクトに従事。
"Digital Integration" 公開以降は本サイト運営スタッフ。お問い合せ等はお気軽に!