デジタルトーク

2019.03.06

共通 課題先進国の民間企業が持つ可能性と使命

課題先進国である日本の現状

世界に先駆けて人口減少・超高齢化社会を迎えた日本では、社会保障費の増大や医療・介護問題等の社会課題が山積している。日本政府はこれまでも様々な打ち手を講じてきたが、いずれも関係者への過剰な配慮等がネックとなり、抜本的な対策は打てていない状況にある。

例えば、高齢者のための介護福祉施設の拡充施策と、待機児童問題解消のための保育施設の拡充施策は、高齢者世代と子育て世代で限られたパイ(=税収)をどのように分配するのかというトレードオフが常についてまわる。また、たびたび取りざたされる消費税増税提案では、消費税の逆進性の議論(高所得層と比して貧困層の方が消費税の負担割合が大きく不公平だとする主張)や、税率維持(将来へ負担を先送る)と税率上げ(国民の負担が増える)の2つの選択肢どちらを選んでも批判に晒される等、関係者がそれぞれの都合で異なる声をあげるため身動きしづらい状況下に置かれている。

このように、行政が社会課題をトップダウンで(かつ民主主義的に)解決しようとすると、関係者間の利害不一致を辛抱強く解消していかねばならず、解決に気の遠くなるような年月を要する。そのため、殆どの社会課題はNPOやNGOが機動性に欠けた行政に代わり、課題に直面している現場の声を聞きながらボトムアップ的に取り組んでいるのが実状である。

民間企業の使命

一方、社会課題に対する民間企業の取り組みは、これまでCSRという言葉で語られてきたが、その中身は植林や海岸のごみ拾い等のボランティア活動、あるいはNPO等への資金供与といった金銭的支援に留まってきた。もちろん、植林やごみ拾いの活動自体は素晴らしい取り組みではあるが、慢性的な財源不足に苦しむ政府や自治体、NPOと比較して、ヒト・モノ・カネという全てのリソースを保有している民間企業は、実は今後の社会課題解決をリードできる立場にある。日本の、特に大企業はまだ余力を持っているところも多く、例えば上場企業(金融を除く)の2018年3月期の総売上高は560兆円に達しており、純利益の総額は約29兆円と過去最高を記録している。
ここ数年、ESG(Environment、Social、Governance)投資やCSV(Creating Shared Value)という言葉を耳にする機会が増え、SDGs(Sustainable Development Goals)に関しても世界的に関心が高まっている。欧米に目を向けると、既に大手企業の多くがSDGsを積極的に自社ビジネスにおける達成指標として取り入れており、自社収益へ具体的なインパクトを及ぼしている事例も出てきているようだが、肝心の日本企業では、まだ具体的な活動イメージが沸かないためか、SDGsへの対応は表明していても、広報や自社向けの活動に留まり、社会課題解決に向けた具体的な活動を自社ビジネスに紐付けられていないように見受けられる。実際、高齢者の介護問題や貧困問題等、社会課題の多くは市場が小さく投資回収できない、いわゆる「儲からない市場」であり、これまで民間企業の参入は(補助金無くしては)難しいということが定説であった。

デジタルテクノロジーの活用に対する期待

先進テクノロジーには、このような定説を覆すようなイノベーションが内包されているものが少なくない。例えば、人口減少が進む日本では、「働き手の確保」が民間企業の経営課題になると考えられるが、現在政府が推進する「働き方改革」では、関係者に留意するあまり、雇用の流動性を確保する施策等には手がつけられず、有給休暇の取得促進等「正社員保護」ばかりにスポットがあたっている。本来の趣旨に照らせば、従業員側は「働く場所や時間に縛られず、柔軟な労使関係のもとで生産性の高い仕事ができる」ことが理想であるはず。一方の企業側にしても、「生産性の高い人材に相応の対価を払う」というシンプルな図式で従業員側との関係性を築くことが理想だといえる。こうした理想の実現は困難だと感じるかもしれないが、実をいえばブロックチェーンのスマートコントラクトによる新しい雇用契約管理、AIによる適正人材スクリーニング、分身ロボットによるリモート出勤対応等の組み合わせで、ほぼ実現が可能である。また、先進テクノロジーによって運用コストを劇的に下げられる可能性を踏まえると、「儲からない市場」であっても利益確保の道筋を描くことも夢物語ではなくなってくる。

日本を含む先進諸国の殆どは、いまやモノやサービスに溢れた飽和状態にあり、多くの民間企業は新たな需要を創出することに頭を悩ませ、成長が鈍化しつつある既存事業に代わる新規事業の検討を進めている。弊社は、多くのクライアントに対し、そのような新規事業戦略立案を支援しているが、ご担当者の多くは「そもそも何をやればよいのか」というスタート地点で頭を悩ませていることも多い。

これから新規事業を考える際には、よく言われる「既存事業とのシナジー」というモノサシに加えて、「社会課題解決」という新しいモノサシも持って検討してほしい。直接的な利益追求に結びつきづらい社会問題解決の活動に民間企業が注力することは、従来の発想では悪手とされてきた。しかし、それは多分に既存の社会制度を制約とみなし、社会課題解決から目をそらしてきたからに他ならない。

これからの民間企業は、先端テクノロジーを活用して自社収益を確保した上で、社会課題解決により直接的にコミットしていくという姿勢が主流になってくるのではないだろうか。民間企業に「Going Concern」が課されているのは、自社のためだけに儲けることを許されているのでは決して無く、自社の利益を広く社会へ還元するという使命を忘れてはならないはずだ。自社・顧客・社会の「三方良し」の体現をぜひ目指して欲しい。

エグゼクティブ・パートナー 坂井 孝司

会計系コンサルティングファーム等を経て現職。
ハイテク・通信・メディア・金融・公共等の幅広い業界に対して、経営戦略策定や新規事業企画、業務改革や組織風土改革といったテーマに従事。
クライアントに合わせたハンズオン型のコンサルティングを得意とする。

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