デジタルトーク

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2019.02.26

ハイテク AIはガラパゴス化するか? -AI社内活用のその先

内向きのAIから外向きのAIへ

予約しておいた「AI白書2019」(IPA編集)が手元に届いた時、まず驚いたのはその分厚さである。第二次AIブームと言われた1994年から23年ぶりに出された2017年版と比較すると、100ページ以上の増加だ。かつて、とある中央官庁で白書の作成に携わっていた私からすると目新しい事象であった。そして、その増分の半分程度が「利用動向」についてである。

白書のななめ読み(「読み」ですらない?)はここまでにして、このページ数が示すとおり、昨今の企業によるAI活用が顕著であることは言わずもがなである。特に、その活用量の増加だけでなく、活用の方向性を広げていることにも着眼したい。内向きの内部活用だけでなく、外向きの収益化(外販)志向である。

一例として、三井住友銀行(SMBC)では2017年から社内でのチャットボット活用を進めていたが、2018年からそのSMBCチャットボットのライセンスをITベンダー向けに提供している。他にも自社内で活用したAIを、儲ける力に変えている企業は増えている。

なぜユーザー企業がAI外販を実現できるのか

ベンダーが開発するAIをユーザー企業が利用する、という今までの流れから、なぜ外販の流れが生まれてきたのか。これは、従来のITシステムとAIの開発・運用における2つの大きな違いが顕在化したことに起因すると思われる。

1つ目はユーザーノウハウへの依存性の高さである。従来のITシステムでは、ユーザーが主体的に関わるのは最初の要件定義と最後の受入テスト・評価であった。一方、AIの開発・運用では「学習・チューニング」の段階が存在し、ここでユーザーは多くのノウハウを注ぎ込まなければならない。
ものによっては何千何万といったおびただしい量の学習用データ(教師データ)の準備、ラベル付け(正誤・カテゴリ 等)を行う。それが終わったかと思えば、精度を上げるためのチューニングのために辞書データの改良を迫られる。(この段階辺りで頓挫した企業も多いのではないであろうか…)それでも上手く精度が得られなければ、データの「前処理」にもノウハウを注ぎ込む。画像認識AIで有名なベンダーは優れた画像処理技術を持っていることが多いが、AIが”理解しやすい”ようにする前処理には、やはりユーザーノウハウが必須だ。そして、これらは開発段階だけでなく運用段階でも生じるものである。運用を通じた精度の向上がAIの真骨頂だからだ。

2つ目は性能・効果の不確実性である。「○○%の稼働率で」とITシステムのように定義できれば良いものの、AIでは初めから「○○%の画像認識」とは保証しにくい。ベンダーも「データを実際学習させてみないと分からない」が正直なところだろう。すると、ユーザー企業にとっての導入判断はベンダーの過去実績に頼らざるを得なくなる。AI導入において費用対効果が精査できないといって断念する企業の話はよく耳にする。

ここまででお気づきのとおり、上記2点でAI開発・運用をアシストできるのがユーザー企業の強みである。1つ目はまさにユーザーノウハウ、それによって完成した機能特化のAIという成果物は同様のAIソリューションを導入しようとする企業にとって有益なものである。2つ目はユーザー企業内での実感を伴う導入効果だ。前述の苦労を乗り越えて達成した効果が、ベンダーが提供する他社事例における効果よりも訴求力があるのは想像に難くない。

また、ベンダー側にもユーザー企業と協業して外販をするメリットがある。協業ユーザー企業のノウハウを使うことで開発・運用工程における導入企業の負荷を減らし、事例による想定効果の裏付けができる。導入検討企業に刺さる要素を獲得できるのである。特に、一般画像認識の普及、予測/最適化におけるモデリングの定石化が進み、普及段階に来たOCR関連のAIサービス等では、AI技術単体での差別化が難しくなってきている。この競争力は加速するのではないか。

どういった領域でAI外販をなし得るか

では、社内で活用したAIをどんどん外販していくべきなのか、と聞かれればそうではない。外販し得る領域は限られる。

AIは先にも述べているとおり、ユーザーノウハウの一部を転化したものである。AIに転化するための方法として「学習・チューニング」があり、転化しきれないノウハウをルールベースで「前処理」していく。ここが正にユーザーによる外販価値の肝だ。

すなわち、外販ポテンシャルがあるのは、自社としてノウハウがある、かつ、他社に共通性のある領域である。画像認識であれば、類似する検索対象の認識のための前処理は業務共通性がある。チャットボットであれば、応答シナリオの作成は業界共通性があるだろう。

AIはガラパゴス化するのではないか

以上を踏まえると、業務又は業界の共通領域において先駆ユーザーがAIベンダーと協業し、領域特化のAIを同領域に横展開していく一つの潮流が生まれるのではないか。人材市場に置き換えればこれは至極真っ当にも思われる。検品業務をお願いしたければ、他工場で同様の検品を行っていた者を雇えば即戦力であろう。コンタクトセンターの業務を行わせるのであれば、設備メンテナンスをしていた人材より、他のコンタクトセンターで働いていた人材のほうがローコストで適応できるであろう。ただ、AIと人材市場で異なるのは、その能力を際限なくコピーできる点である。この強力な ”人材” を共有化していくことは全体最適であるように思われる。

これにより、業務 / 業界に特化したAIが独自の進化を遂げ、ガラパゴス化してゆく姿が想像できる。もちろん、その進化の仕方はAI技術の種類によって異なるだろう。画像認識であれば対象物の共通性が主軸となり、類似業務への広がりが期待できる(例: 設備点検)。一方、自然言語処理であれば、言語を扱うため、同業界への広がりが期待できる。

見方を少し変えて、AIを作り出す生みの苦労を必ずしも業界全社が経験する必要がない、と考えれば、今まで進まなかった業界プラットフォーム構想を実現する起爆剤にAIはなり得るかもしれない。

AIガラパゴス市場におけるAI活用の在り方

ここまで述べたとおり、今やAIの社内活用は一般的なものになっている。加えて、ガラパゴス化による収益化のチャンスが眠っていることに着眼したい。AI事例の研究にあたって同業界の事例ばかり見ていないだろうか。知らぬ間に業務の共通性で刺してくる競合がいるかもしれない。ガラパゴス市場を見据えて、企業はAIソリューション構築にあたって自社の強みとなるノウハウの権利を確保する必要がある。さらに、そのAI技術の特性を捉え、業務 / 業界の共通性を見出すことができれば収益化ビジネスの芽を見つけることができるであろう。そこまでは考えずとも、1ユーザー企業として少なくとも類似AIソリューションを検討している企業から横展開できないか、共同研究・協業の余地がないかアンテナを張ることは重要であろう。

いつか人の代替となるかもしれないと言われているAIも、今はまだ人のノウハウを用いて育てなければ使い物にならない。学生時代に哲学をかじった時のマルクス・アウレーリウスの言葉をふと思い出した。いかなる業務にもノウハウが隠れている。このAI時代、そのノウハウに気付き、尊重し、生かせるかどうかが肝心なのかもしれない。
 “君の覚えた小さな技術を慈しみ、その中にやすらえ”
―――マルクス・アウレーリウス

 

マネージャー 高木 翔平

官公庁を経て、現職。
通信/ハイテク、エネルギー、小売業界などにおいて、全社/事業戦略、ブランド戦略、新規事業立ち上げ、M&Aアライアンス、IT戦略など様々なクライアント企業の課題に対して幅広く支援。

登録タグ:AI 機械学習 Deep Learning