デジタルトーク

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2019.02.12

共通 日本企業におけるアジャイル

方法論として注目されるアジャイル

 アジャイルに取り組む企業が増えている。アジャイルと言うとシステム開発の手法の一つだと捉えられがちだが、最近ではシステム開発だけでなく、「アジャイルな働き方」に取り組む企業も出てきている。アジャイルという、「物事の進め方」が注目されてきているのだ。

 アジャイルは、2001年にソフトウェア開発の思想的リーダー17名によって「アジャイルソフト開発宣言」が公表されて以来、主にシステム開発の領域で、スクラムやXPといった方法論を中心に広がりを見せてきた。
アジャイルソフト開発宣言
  • プロセスやツールよりも個人と対話を
  • 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを
  • 契約交渉よりも顧客との協調を
  • 計画に従うことよりも変化への対応を
 今までソフトウェア開発では「ウォーターフォール」と呼ばれる開発手法が主流であり、最初に立てた計画に従うことに重きを置いてきたが、アジャイルでは「アジャイルソフト開発宣言」にもある通り、計画に従うことよりも変化への対応を重視している。

 現在のビジネス環境を表す言葉として「VUCA(ブーカ)」という言葉が昨今よく使われている。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を並べたものだ。急速なITの進歩・浸透により顧客のニーズは多様化し、ディスラプター(破壊者)と呼ばれるIT企業が次々に、そして速く誕生し、既存のビジネスモデルの再構築を促している。そのような中、顧客の求めるものに即座に適合し、産業構造の変化に対応できるような機動性のある「アジャイル」が広がってきたことは必然と言える。加えて、市場や顧客の観察・理解からプロトタイプを構築し、市場からのフィードバックを得てプロダクトを開発・改善していく「デザイン思考」との相性は抜群だ。

アジャイルに苦戦する日本企業

 しかし、日本の大企業ではこの「アジャイル」の浸透に手を焼いている。我々としても、大手企業を支援させていただく中で様々な事例を聞いているが、それらの多くで「組織」と「文化」という2つの壁が浸透を阻んでいるように感じる。

 まずは「組織」の観点から述べていく。アジャイルは高い専門性を持った人材を部門横断的に集め、それぞれのメンバーに主体的に行動してもらう自律型の組織を前提にすることによって、その真価を発揮する。しかし、本業との兼ね合いもあり、リソースを確保することが難しいことも多い。高い専門性を持ったエース級の人材ともなると、本業の所属長も易々と手放したくない。この場合、兼務として参画することが多いが、人事考課としても本業が重視される中、兼業としてのアジャイルチームの活動に打ち込む人は多くない。また、兼務メンバーが多くなると、アジャイルチームへの参加人数も多くなるが、これにより各メンバーへの責任が分散され、主体性が薄れていく。このようにならないために、アジャイル組織の設置や人事評価の見直し等、会社組織全体の設計も必要となる。

 続いて、「文化」の観点についても述べていきたい。先ほど「自律型組織」というキーワードを挙げた。そのような組織を構築するには、各メンバーに権限を持たせ、主体的に物事を進めることが必要である。しかし急に権限を与えられても、当人は困惑してしまうことが多い。以下の図を見てほしい。日本の場合、意思決定が階層的であり合意を大事にする。物事を決めるのに多くのステークホルダー、上司にお伺いを立てて意思決定を形成してきた人が、権限を与えられてもどう仕事を進めてよいか分からないのだ。
 また、アジャイルはスピーディーな「振り返り」で阻害要因を取り除くことによって、生産性を向上させる。しかし、議論が苦手な我々日本人はこの「振り返り」が苦手である。「違う意見」を「敵対」と感じてしまい、なかなか建設的な議論ができない。社歴や社内のパワーバランスに応じて忖度してしまうことで、表面的な議論に留まってしまう。さらには、減点主義的なことも阻害要因のひとつとしてあげられる。計画通りにいかないことを失敗と捉えていては、変化への対応を重視するアジャイルが浸透していかないことは明らかである。これら「文化」面での課題にはプロダクトオーナー等のリーダー層が、アジャイルをよく理解し、チームをエンパワーしていくことが重要だ。

 アジャイルな働き方を浸透させるためには、従来の「組織」や「文化」を変えていく必要があり、そのためにはトップの深い関与が不可欠である。ある企業では、アジャイルチームにアサインされた時点で、最高評価を得られ、その中で思い切りチャレンジできるような仕組み作っているところもある。アジャイルの「特区」を作ることもひとつ有効な手段だろう。KDDIは9月にデザイン思考とアジャイル開発を軸にしたビジネス開発拠点をオープンさせた。富士通も昨年10月にアジャイルラボを立ち上げており、各企業アジャイルに対しての本気度が伺える。他の企業もアジャイルに二の足を踏んでいると、市場から置き去りになってしまう。その前にトップの強いコミットメントのもと、アジャイルの働き方を取り入れるべきである。

シニアマネージャー 加藤 秀樹

大学卒業後、ベイカレントに入社。
保険・製造・人材サービス業を中心に、CX向上、オペレーション改善、新規サービス立上げなどで、企画立案から実行支援まで幅広い領域のプロジェクトを支援。