デジタルトーク

2019.02.07

運輸 デジタル時代の内航CX戦略の矛先

モノ移動とヒト移動における、決定的違いとは

11月11日。中国EC最大手の阿里巴巴集団(アリババグループ)が、楽天の国内EC年間流通総額3兆95億円に近しい数値を、わずか1日で達成したことは記憶に新しい。また、アリババグループに並ぶEC大手の京東集団は、50か所の無人倉庫と自社配送網により、11日間のセール期間中、ドローンを約2万回、合計12万キロ(地球を約3周)飛行させ、荷物を届けた。
国内では、DeNAとヤマト運輸が自動運転車を使った宅配サービスの実証実験を行っており、モノの移動では、デジタルによる自動化の流れが目覚ましい。

一方、ヒトの移動におけるデジタルはどうだろうか。孫悟空の筋斗雲のような気楽な空中移動は登場せず、ましてや、ドラえもんのどこでもドアによる集団での瞬間移動はほど遠い未来に感じる。兆しとして、Uberでは、車とドライバーのリソース配置の効率化を実現したが、完全自動運転の実現化まではまだ遠い。やはりヒトを運ぶのは難しいのだ。それは、ヒトの移動では、安全性の問題に加えて、「体験」するという決定的な違いが存在する。文句を言わないモノではなくヒトを運ぶためには、カスタマー・エクスペリエンス(CX)を重視しなければならない。

陸海空インフラの原動力とは -高速化と快適さの追求-

ヒトの長距離移動を支える陸海空の運輸業は、「体験」することに対し、大きく2つの観点で向き合ってきた。

1点目は、「移動時間の短縮(=高速化)」だ。高速化は、運輸業の命題であり、常に彼らの事業発展の原動力であった。現在でも高速化の追求は留まることなく、技術革新が計画されている。
一方、もう一つの原動力は、「移動中の退屈さを払拭すること(=快適さ)」だ。新幹線の普通車での窓側席コンセント配置や無料Wi-Fiの提供は、今では当たり前になっている。また2020年度内の投入を目指している新型N700S系では、全座席の肘掛けにコンセントが配置され、グリーン車ではフットレストの大型化(幅+25%)、足元スペースの拡大(+15%)も計画されている。ファシリティ面を含め、顧客毎に異なる自由な過ごし方への要望に対し寄り添えるよう、限られた空間の中で改善を志向している。

このように、陸海空インフラは「高速化」を志向し、そのスピードに慣れ退屈さを感じつつある顧客の「快適さ」を追求してきた。この2つの歯車を噛み合わせ、顧客満足度の向上・維持を繰り返し、事業を発展させている。

特に「快適さ」への取組みが盛んなのは航空業界だ。航空業界は陸海の運輸業に対して「高速化」では優位であるものの、快適さの創出要素である「行動の自由」と「通信の自由」が安全面の観点から著しく制約される。この制約を所与として如何に戦うかが、顧客に自社路線を選んでもらう差別化要素になるのだ。

外航のCX戦略とは -旅程に留まらず、生活に根付かせる-

2020年の東京五輪開催に向け、言わずもがなインバウンド需要が高まっている。日本はANA / JALという二大航空会社の寡占状態だが、これを契機に日本をマーケットにした外航の取組みが活発化している。航空業界において、予約 / 搭乗手続き / 機内での快適さは、いわば当たり前の取組みで、それ自体による競争優位性は低い。シームレス(ストレスフリー)且つパーソナライズされたサービスは、もはやグローバル規模でコモディティ化された。

そこで現在は、顧客の旅程に限らないカスタマー・ジャーニー上で、如何に自然に「快適さ」を感じてもらうかに注視している。つまり、顧客の生活圏に航空会社が根付くことを目指しているのだ。その活動において、外航の取組みは目覚ましい。

北欧の雄であるスカンジナビア航空は、ストックホルムのグランドセントラル駅及びビジネス地区の中心地に空港外ラウンジを営業している。なお、スカンジナビア航空は、1981年CEOに就任したヤン・カールソンが赤字で苦しんでいた同社を1年で再建した航空会社であり、彼が「真実の瞬間(サービススタッフが航空利用客と実際に直接関わる15秒間に、顧客満足度が大きく左右される)」と提唱した思想が、脈々と受け継がれている。

また、中国南方航空は、一汽(中国の自動車大手)とMaaS分野の強化を目的に業務提携し、ユナイテッド航空は、外航初の試みとして楽天とポイント交換を実施、ルフトハンザドイツ航空は、中国のアリババグループ旅行サイトと業務提携を締結した。

上記のとおり、外航は既に顧客の生活圏に根付いている企業と戦わず、上手く提携することで、顧客の生活圏に自然と根付く取組みを志向している。

内航が取るべきCX戦略とは -ペルソナ像の描き直し-

日本の航空会社も、他社との協業を視野に入れた新規事業の開発に、積極的に取り組んでいる。ANAは2016年4月に新設した「デジタル・デザイン・ラボ(DD-Lab)」を中心に、ベンチャー企業や大学等との協業を強化している。昨今では、ロボティクスや仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、ハプティクス(触覚)等の技術を融合し、疑似体験を創出させるアバタ―事業の展開を掲げた。JALは、ビジネスコラボレーション・サイト運営や社内ビジネスコンテストを開催し、ANA同様に他社との協業事業案を常に模索している。

但し、両社ともに事業として大きく羽ばたいた例は少なく、顧客の生活圏に根付くような他社との協業までには至っていない。航空×ビッグネーム(金融機関 等)の協業形態がフォーカスされ、単なる広報活動を一生懸命繰り返しているにすぎない印象だ。この場合、顧客に驚きは与えるものの、生活への根付き・フィット感は創出されない。
 
では、日系航空会社は如何なる戦術をもって、顧客の生活圏への根付きを目指せばよいか。その方法論は、世界最高品質の日系航空会社を前提に語るべきだと思う。

まずは、既存顧客、見込み顧客、開拓したい顧客に対して、デジタル親和性の切り口を交えてペルソナ像を設定し、彼らの生活圏をリアル接点とデジタル接点で具体的に捉えることが重要である。それによって、自社で不足する接点・データ・仕掛けが何かを明らかにする。

次に、自社に不足するピースを補完する団体はどこか、国内大手企業に限らず海外・ベンチャー企業を含めて選別し、当該団体とシリコンバレー式の協業事業を立ち上げ、一部の顧客に逸早くリリースする。そして、それに対する顧客のリアクションをシンプルに収集し、クイックに改善サイクルを回して事業を具体化する取組みが必要だ。この活動に、大手企業としての障壁(複数部門を含めた決裁手続き等)があってはスピードが低下するため、組織・人材の再構築は、並行して取り組んで頂きたい。

クイックな上市まで到達すれば、世界最高品質の日系航空会社サービスで、ファンは自ずと増えていくはずだ。
陸海空インフラにおける更なる高速化、省人化はいずれ達成されるが、そのときに求められるCXはどのようなものになるだろうか。いつか、筋斗雲やどこでもドアが登場した時、日本の航空会社がどのように関わっているか楽しみだ。

シニアマネージャー 平山 真史

大手コンサルティングファームを経て現職。
全社・事業戦略の策定、CX改革、組織改善など幅広く多数ご支援。
直近ではデジタルを活用した直接・間接業務コストの削減、新規事業開発に複数関与。

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