色々と物議を醸した「ブラックペアン」
今年の春、TBSの連続ドラマ「ブラックペアン」を毎週楽しみに観ていた方も多いのではないでしょうか。アイドルグループ嵐のメンバーの二宮和也演じる天才外科医がブラックヒーロー的な活躍をするドラマなのですが、ドラマとしての完成度以上に物議を醸したのが、劇中で描かれた治験コーディネーター(CRC)の姿でした。「治験」とは医薬品の研究開発の段階で行われるもので、「予め合意を得た患者(被験者)に対して、試験的に用意された薬の効き目や副作用などを検証する」ための臨床実験です。その中心となるCRCは、治験を安全に進めるために患者や医療従事者の間に立って様々な調整を行う、正に「コーディネーター」です。前述のドラマにおいてCRCを演じたのが元フジテレビアナウンサーの加藤綾子だったのですが、高級レストランで頻繁に医師を接待したり、高額な費用(治験の世界では「負担軽減費」という)を被験者に支払ったりと、実際のCRCの職務内容とは大きくかい離した描写になっており、CRC認定制度を運営する日本臨床薬理学会がCRCのイメージを大きく毀損するものだとしてTBSに対して意見文を出すという事態になりました。
そもそも治験とは、そのイメージ通りリスクの高い医療行為であり、年間国内で600件ほど実施されているなかで、アクシデントによる死亡例もあるものです。治験は「プロトコール」という治験実施計画書に則って実施されるのですが、このプロトコールに逸脱した行為や事象が少しでも発生するとアクシデント判定され、最悪の場合は治験が中止される事態となります。このようなアクシデントを起こさないように安全に治験を進めるのがCRCの役割なのですが、時として患者側の用法・用量のうっかりミスや医療従事者側の計測モレ等でもアクシデントが発生します。私がコンサルティング・プロジェクトで垣間見たCRCの方々は、自らの直接的なミスではないアクシデントまで背負い込み、「もっと患者様と会話しておけば良かったのではないか」「もっと看護師と打合せをしておけばよかったのではないか」と強い責任感で仕事をされている方が多い印象でした。ですので、劇中で表現されたCRCの姿は、ドラマ上の演出とはいえ大きな違和感を覚えたというのが率直な感想です。