デジタルトーク

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2017.11.20

小売 Amazonはリアルチャネルで何を目指すのか

2017年6月、AmazonはWholefoods Marketの買収を発表した。今になって振り返ってみれば、リアルへの展開として、米国でのAmazon GOの実験的な取り組みがあり、六本木でのAmazonプライム ポップアップストア開設があった。こうした事前の情報があってもなお、買収のニュースを聞いた瞬間には、多くの人が「ついに巨人が動いた!」という感想を持ったに違いない。「あのAmazonが、リアルの世界でどのようなカスタマー・エクスペリエンスを打ち出していくのか」、「ジェフ・べゾスの壮大なアイデアがリアルの世界でも実現するのか」と思うと、私自身もワクワクしてしまう。

マスメディアでも、今回の買収劇は、リアル店舗の巨人であるWalmartとの対立という文脈の中で、さまざまに取り上げられている。そこまで騒がれるのは、Amazonが他のデジタル企業に比べて、あまり大きな買収をせずに成長してきたことも関係しているだろう。Amazonは、Googleが2005年から2016年に204件の買収をしているのに対して、同じ期間で54件しか買収をしていないのだ。そんな「締まり屋」のAmazonが、約1兆5300億円もの金額を投じて買収したのだから、そこにはジェフ・ベゾスの壮大なビジョンが裏に隠されている、と考える方が自然だ。いまのところは、リアルとデジタルを組み合わせたオムニチャネルの本格展開、Amazonフレッシュの配送拠点としての活用、AI分析基盤であるAlexaに読み込ませるデータ収集、といった様々な見立てが出ている。

Amazonの本当の意図はどこにあるのか。Amazonの過去の取り組みを見てみると、①カスタマー・エクスペリエンス(CX)へのこだわり、②競合の強みを逆手に取った徹底した攻め、③既存アセットの横展開、④デジタルイノベーション、という4つの取り組みをしている。

①CXへのこだわりでは、マーケットプレイスでの最安値の表示、1クリック注文の特許があげられる。②競合の強みを逆手に取った攻めでは、結局は買収したものの、ZapposやDiapersのサービスの模倣、徹底的な対抗策は有名だ。③既存アセットの横展開では、システム基盤を活用したAWSを始めとするクラウド基盤群の提供、物流基盤を活用したFBA(Fulfilment By Amazon)がある。④デジタルイノベーションは、センサーと画像認識を活用したAmazon Goの取り組みがある。
この中で、Wholefoodsの買収は、やはりCXに関する取り組みの一つとして位置づけられるのではないだろうか。②として挙げた「競合の強みを逆手にとる」という観点で考えた場合、Walmartと競合するにはWholefoodsだけでは役不足である。③として挙げた「既存アセットの横展開」の視点で捉える場合にも、Wholefoodsは配送拠点としての店舗網への投資を、まだ相当量必要としている。最後に、④に挙げた「デジタルの活用」でも、実験場とするには、Wholefoodsは大きすぎる。提供できる商品を増やしていくことで、既存のオンラインベースのサービスにAmazonはどの様な価値を加えるのか。一消費者として、Amazonが実現してくれる新たなCXへの興味は尽きない。

パートナー 小貫 信比古

三井物産株式会社、ボストン・コンサルティング・グループを経て現職。
金融・消費財・エネルギー・ヘルスケアを中心に、事業戦略、マーケティング戦略の立案からM&A、コスト削減まで幅広く対応。最近では、デジタル領域でのビジネスモデル構築、マーケティング戦略の 策定・実行支援に従事。
共著書に「デジタルトランスフォーメーション」、「デジタル化を勝ち抜く新たなIT組織のつくり方」など。