デジタル化が進むスポーツ分野
デジタルがもたらしたスポーツの変化は、現時点でも随所に見ることができる。例えば、今までは基本的に紙のベースで記録されてきたスコアブックや、映像として記録されてきたプレースタイルなどがデジタルデータに置き換えられるようになってきたこと。それによって、新たな分析ができるようになり、選手やチームのパフォーマンスを高めている。
他にも、選手の動作をセンサーで計測し、より合理的な動作の習得に活用するケースや、相手選手のプレーを解析して戦術に活かすようなアプローチも行われている。そしてこれらのテクノロジーは、ハイレベルな戦いにおいて活用されるだけではない。スポーツ初心者につきものの「最初の壁」を乗り越えることを容易にし、スポーツを楽しむ層の拡大につながる可能性がある。
東京大会で初めてオリンピック種目となるサーフィンを例として取り上げてみよう。この競技では初心者が波に乗れるようになるまでに、「最初の壁」が3つあると言われている。波の見極め、パドリング、事故の回避だ。これらの壁をクリアするための技術が出現してきている。波の見極めには、世界中の潮位のデータから波の予測をサポートする「タイドグラフ」が活躍する。時計に潮位が示され、波の予測が容易になり、無駄な波で体力を消耗することがなくなる。そしてパドリングには、ボードからジェット噴射して推進力にする「WaveJet」。手首に時計状のデバイスをつけ、操作することができ、沖に出るにも、波に乗るためにも、腕でこぐ必要がない。サーファーからすれば「それをやったらおしまいだよ」と言いたくなる技術だろうが、サーフィンの敷居が大きく下がることは間違いない。さらに、サメの被害を防ぐため、シャークアタック用腕時計型デバイス「sharkbanz」なるものも登場した。これも手首につければ、強力な磁力でサメを寄せ付けない。時計を3つも4つもしなくてはならないという別の壁が立ちはだるようにも思えるが、初心者がサーフィンをあきらめる理由はないも同然だ。
このように、デジタル技術はスポーツに多大な恩恵をもたらすことが見込まれるが、「どこまでが受け入れられるか」という点はこれから議論になるポイントだ。例えばプレー中のデータをもとに、「左足のシュートは最近失敗しているから、リスクが高いのでやめておけ」、「相手チームの7番をマークしろ」といったアドバイスを人工知能がしてくれるようになったとしたらどうだろうか? より高いレベルのプレーができるようになればいい、という意見もあるだろうが、「状況判断」までデジタルに委ねた場合、「そこで行われているプレーは、本当にスポーツだと言えるのか?」という疑問が頭をよぎる人もいるはずだ。