ダイナミックプライシング、先行する企業、業界は
9月3日、8ドル。9月6日、25ドル。さらに、急配の設定をした場合は179.25ドル。まるでIPOベンチャーの株価のようなこの値動きは、昨年のとある日における、Amazonサイト上でのボトル入りの水1ケースの販売価格だ(ネスレの飲料水、約500ml×24本)。飲料水の値段が数日の間に十数倍にも高騰した背景には、ハリケーンの強さを示す5段階のうち、最も強い「カテゴリー5」に発達したハリケーン「イルマ」の上陸に備え、米フロリダ州の住民の需要が高まっていたことがある。
緊急時における飲料水価格の急騰は、Amazonを世間の厳しい目にさらすと同時に、同社のサイト上の価格がアルゴリズムに支配されていることを改めて示すこととなった。近年、様々な業界で浸透し始めている、ダイナミックプライシングという手法である。これは、需給状況に応じて価格を変動させ、顧客満足度と利益が最大化する価格で常に販売することを目指すもので、近年では、AIが需給に関する様々なデータを分析・判断し、動的に価格を決定する形が主となってきている(上述したAmazonの例は、顧客満足度の最大化にはほど遠いと言えるが)。
ダイナミックプライシングは、航空運賃・宿泊料金・有料道路料金などのほか、プロ野球などのスポーツ観戦のチケットや、Amazon、ウォルマートなどのECサイトでも着々と導入されている。日本でも、プロ野球では楽天、DeNA、Jリーグではセレッソ大阪、横浜F・マリノスなど、チケット販売にダイナミックプライシングの仕組みを導入し始める例も少なくない。
一方、化粧品業界は、このダイナミックプライシングが最も浸透していない業界の一つと言っても過言ではないだろう。その背景には、そもそも価格を頻繁に動かすこと自体が他業界と比べ一般的ではないことや、ECサイトでの販売が他の消費財と比べて浸透していないことといった、様々な事情が存在する。