デジタルトーク

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2018.11.07

共通 デジタル時代の新たな社会の在り方とは?

これまでの社会・コミュニティの限界

 日本において、近代社会以前の社会・コミュニティとは「ムラ・一族」であり、個人の帰属意識は血縁であった。出生で人生の役割や職業が定められ、長老制や家父長制等による支配政治制度の中で一生涯を「ムラ・一族」内で全うした。

 その後、戦後においてアメリカ主導で資本主義の導入を余儀なくされた日本だが、この「ムラ・一族」の機能を「会社」に代替させることで、個人の帰属意識を「会社」に帰着させたと思われる。その証拠に、今の日本の「会社」は、一生涯同一企業で働くことを前提とし、終身雇用制度や年功序列制度、個人の生活をサポートする福利厚生制度等の仕組みが設けられていた。

 しかし、平成が終わりを迎える現在、その「会社」というムラ社会の崩壊は実感されつつあるだろう。少子化・人口減少に伴う労働人口の減少、AI・ロボット化に伴う単純作業の消失・ブルーカラー職の減少、人生100年時代を前提とした長期的な就業・学習サイクルの構築。これらの社会的背景から、終身雇用制度は崩壊し、転職が当たり前の労働環境となった。また、個人の意識も仕事第一主義から、多様な働き方を求めるようになり、働く理由や帰属意識も「会社」から「自分のため・家族のため・個人的な仲間のため」にシフトしつつあるように感じる。

 それでは、これからの社会は、どのような社会になるのか?

 結論はこうだ。個人の自由意思でコミュニティを構築し、活動する「個人間ネットワーク・コミュニティ」社会が到来し、その中で新たな働き方や生活が定義されると思われる。

新たな社会変化の預言者

 実は、過去にこのような社会変化を予言していた人間がいる。それは、ドイツ近代社会学者「フェルディナント・テンニース」と、現代経営学者「P.Fドラッカー」である。

 まずは、テンニースの提言はこうだ。
 “人間社会が近代化していく過程において、地縁や血縁、友情等で深く結びついていた自然発生的なコミュニティ「ゲマインシャフト(共同体)」は、利益や機能、役割を第一に追及する人為的なコミュニティ「ゲゼルシャフト(社会)」へシフトする”
 これまでの世界・日本社会は、この通り変化してきたと言える。また、テンニースはこう続けている。
 “両概念は、常に敵対概念として存在し、将来的にはゲゼルシャフトに終わることなく、ゲマインシャフトに進む(共存する)傾向を持つ”
 つまり、将来の社会は、「地縁・血縁、友情等の自然発生的コミュニティ」に回帰する可能性を示唆しているのである。

 一方、ドラッカーの提言はこうだ。
 “テンニースの言う「ゲマインシャフト」としてのコミュニティ(共同体)を、都市空間に創造することで、都市社会に住む一人ひとりの人間が自己実現し、貢献し、意味ある存在となることができる機会を提供することが重要”
 つまり、社会において「個人が自然発生的に繋ることを可能にするネットワーク・コミュニティ」が構築され、その中で(一辺倒な働き方ではなく)自己実現・貢献できる場を提供すべきと主張している。実際、現代社会において、ノマドワーカーや副業を持つ就業者も増えつつあり、このようなネットワーク・コミュニティが求められる社会になりつつあるのではないだろうか。

日本においても「個人間ネットワーク・コミュニティ」社会が到来?

日本国内においても、「個人間ネットワーク・コミュニティ」社会に向けた動きがある。少し古い事例だが、2008年に経済同友会が「21世紀の新しい働き方:ワーク&ライフ インテグレーション(以降、WLI)を目指して」の中で、「WLI」の考え方を提唱し、仕事と生活を高次元に融和した新たな生き方・コミュニティの存在を示唆している。
<WLIの考え方>
  • 個人は、複数のコミュニティに所属し、その中で互いに学び合い、趣味や社会貢献が一つのスキルとしてビジネス化される
  • 働く時間・場所を明確に規定せず、仕事はより生活の中の一部と定義される
 加えて近年では、2016年に厚生労働省が「働き方の未来2035  一人ひとりが輝く2035年における働き方」の中で、「ワーク・イン・ソサエティ(WIS)」という新たな働き方を提唱している。
<WISの考え方>
  • (会社ではなく)社会の中に仕事が定義され、個人は、同じ専門領域のコミュニティ・人的ネットワークに所属する
    (企業への帰属意識は薄れ、企業はコミュニティとしての機能が消失)
  • 2枚目の名刺(兼業・副業)が当たり前になり、従業員と個人事業主の境が曖昧化する
 この動きから見ても、日本政府もこれまでの「会社」という枠組みの限界を感じ始め、「個人間ネットワーク・コミュニティ」社会へシフトする流れを予見しているのだと言えよう。

日本は「個人間ネットワーク・コミュニティ」社会を実現できるか?

 では、どのようにして「個人間ネットワーク・コミュニティ」社会を実現していくのか?SNS(ソーシャルネットワーク)がそのベースとなることは、まず間違いないだろう。世の中の数多の個人を繋ぐには、デジタルの活用は必要不可欠である。

 では、FacebookのようなSNSプラットフォーマ―が、新たな社会を作り出すのかと言えば、必ずしもそうとも言えない。人が社会で生活・仕事をしていくには、必ずリアルな活動の場が必要である。考えてみて欲しい。SNS上でしか知り合ったことのない人間と一緒に趣味や仕事を分かち合い、親密な関係になりたいだろうか?そのような社会にしたいだろうか?やはり一度はリアルに会って、リアルな活動・体験を通じて、関係を深めるものではないだろうか。つまり、新たな社会の実現には、SNS等のデジタルネットワークと合わせて、最適なリアルな活動の場の提供も必要不可欠と筆者は考えている。なお、米国のコワーキングスペース運営企業であるweworkは、2017年にコミュニティPF運営企業のMeetupを買収することで、SNSに加えリアルな活動の場を提供し、会員同士の学び合い・ビジネスのネットワークを実現している。新たな社会の実現に向けた取組みと言えるだろう。

 日本においては、まだまだ副業を規制している企業も少なくない。このような社会を受け入れられない企業も多数あるだろう。しかし、少子高齢化・人口減少など、世界の中で最も課題先進国にいる日本企業が最もマインドチェンジする必要があり、本コミュニティ構築を推進すべき立ち位置にいる。まずはデベロッパー等を通じて地域内・ビル内の企業同士でプロジェクト・仕事・課外活動をシェアし、個人間ネットワーク・コミュニティ実現を促進するのも一手なのかもしれない。当然、デジタル技術がこれらの取り組みに寄与する役割は大きい。大企業変革の成功事例として、デジタルを活用した企業のマインドチェンジが挙げられるようになることを期待したい。

シニアマネージャー 島崎 怜平

大和総研を経て現職。
主に、全社・事業戦略の策定、新規事業立上げ、M&A・アライアンス戦略等のテーマに従事。特にデジタル・最新テクノロジーを活用した新規事業戦略立案・立上げプロジェクトの実績多数。